大人ピアノ指導法:大慌ての「ペダル演奏」

光畑浩美

光畑浩美

テーマ:講師の養成/大人ピアノ指導法

憧れのペダルでも導入は慎重に 中高年のピアノ学習で大切なこと

ピアノを学ばれる多くの方にとって、ペダルは“憧れ”の存在です。
右手と左手で鍵盤を追うだけでも大変なのに、さらに足まで使うとなると、「そんなことまでできるのだろうか」と感じられるのも無理はありません。
けれど実際には、「少しでもペダルを使ってみたい」というお気持ちを持たれる方はとても多いのです。
その気持ちはとても自然で、音楽をより豊かに表現したいという思いの表れでもあります。
ただ一方で、ペダルは導入の仕方を間違えると、演奏が大変なことになってしまう場合があります。
以前、フェスティバルでこんなことがありました。
レッスンの時点では、その方はペダルを使っておられなかったのです。ところが本番では、きっとたくさん練習なさったのでしょう、ペダルを踏んで演奏されました。
ただ、踏み替えをなさらなかったのです。最初から最後まで踏みっぱなしの状態でしたので、音がずっと響き続け、壮大といえば壮大ですが、全体が“ぐわーっ”と濁ってしまう演奏になってしまいました。
ピアノのペダルは、踏むか離すかが基本です。
ダンパーペダルを踏むと、弦に触れていたフェルトが外れ、弦が自由に振動し続けるため、音が伸びます。
逆に離すと、フェルトが弦に戻って振動を止め、音が止まります。
つまり、ペダルはただ踏めばよいのではなく、いつ踏み、いつ離すかがとても大切なのです。
しかも中高年の方の場合、この「しっかり踏む」という動作そのものが、意外に難しいことがあります。
その理由のひとつは、車の運転習慣です。
車のアクセルは右足で踏みます。ピアノの右ペダルも、同じく右足で踏みます。
すると、無意識のうちに運転の感覚が働いてしまうのです。
車のアクセルを床まで踏み込むことは、普通はありません。
下まで踏んだら大変なことになる、という感覚が身体にしみついているのです。
そのため、ピアノでもペダルを最後までしっかり踏み込むことに、無意識のブレーキがかかってしまう方がおられます。
しかしピアノの場合、中途半端な踏み方をすると、かえって音の響きが不安定になったり、濁ったりします。
ですから私は、ペダルの仕組みをきちんとお伝えしながら、「ここはしっかり踏む必要がありますよ」と丁寧にご説明するようにしています。
ペダルの導入は、いきなり演奏の流れの中で行うのではなく、まずはごく簡単な動作から始めることが大切です。
たとえば、曲の最後に「たらりらじゃん」と弾いたあと、そこでいったん足元を見て、
「よいしょ」と足をペダルの位置に置く。
それからペダルを踏み、足と一緒に手を離す。
まずはこの練習から始めます。
音楽的に見れば、ごく自然なやり方ではないかもしれません。
けれど、初めから「このタイミングで踏む」と構えて足を上げたまま待っていること自体が、不安で難しい方も多いのです。
ですから、まずは安心して足を置く、踏む、手を離す、この一連の流れを身体に覚えていただくところから始めます。
曲に慣れてこられたら、少しずつ通常の踏み替えへ進みます。
一小節ごと、あるいは和音の変化に合わせてペダルを踏み直す練習です。
ところが、ここでもまた注意しなければならないことがあります。
それは足がつることです。
レッスン中に「先生、痛い痛い痛い!」となることも、実は珍しくありません。
そうなると、もうレッスンどころではなくなってしまいます。
足や指の状態によっては、少し休んでいただいたり、無理のない姿勢に戻したりしながら進める必要があります。
ペダルはたしかに魅力的です。
音に広がりが生まれ、ピアノらしい響きも楽しめます。
だからこそ、焦って取り入れるのではなく、その方の身体の状態や生活習慣に合わせて、無理なく、丁寧に導入することが大切なのです。
ペダルは、上達のための“飾り”ではありません。
正しく使えば、音楽を豊かにしてくれる大切な表現の一部です。
憧れを憧れのままで終わらせず、安心して使えるように、ぜひ一歩ずつ上手に導入していただきたいと思います。

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光畑浩美
専門家

光畑浩美(大人ピアノ指導の専門家)

一般社団法人全日本らくらくピアノ®協会  株式会社PREMUSE

大人のピアノ初心者向け。特許庁登録「らくらくピアノ®︎」で憧れの曲を楽しく実現。オンライン講座や認定講師養成講座を展開。著書累計17万部超、Amazonや全国書店で販売中。

光畑浩美プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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