大人ピアノ指導法:⑨最初の講座:カタルシス効果など
憧れのペダルでも導入は慎重に 中高年のピアノ学習で大切なこと
ピアノを学ばれる多くの方にとって、
ペダルは“憧れ”の存在です。
右手と左手で鍵盤を追うだけでも大変なのに、
さらに足まで使うとなると、
「そんなことまでできるのだろうか」と
感じられるのも無理はありません。
けれど実際には、
「少しでもペダルを使ってみたい」という
お気持ちを持たれる方はとても多いのです。
その気持ちはとても自然で、
音楽をより豊かに表現したいという
思いの表れでもあります。
ただ一方で、
ペダルは導入の仕方を間違えると、
演奏が大変なことになってしまう場合があります。
以前、フェスティバルでこんなことがありました。
レッスンの時点では、
その方はペダルを使っておられなかったのです。
ところが本番では、
きっとたくさん練習なさったのでしょう、
ペダルを踏んで演奏されました。
ただ、踏み替えをなさらなかったのです。
最初から最後まで踏みっぱなしの状態でしたので、
音がずっと響き続け、壮大といえば壮大ですが、
全体が“ぐわーっ”と濁ってしまう演奏になってしまいました。
ピアノのペダルは、踏むか離すかが基本です。
ダンパーペダルを踏むと、
弦に触れていたフェルトが外れ、
弦が自由に振動し続けるため、音が伸びます。
逆に離すと、
フェルトが弦に戻って振動を止め、音が止まります。
つまり、ペダルはただ踏めばよいのではなく、
いつ踏み、いつ離すかがとても大切なのです。
しかも中高年の方の場合、
この「しっかり踏む」という動作そのものが、
意外に難しいことがあります。
その理由のひとつは、車の運転習慣です。
車のアクセルは右足で踏みます。ピアノの右ペダルも、
同じく右足で踏みます。
すると、無意識のうちに
運転の感覚が働いてしまうのです。
車のアクセルを床まで踏み込むことは、
普通はありません。
下まで踏んだら大変なことになる、
という感覚が身体にしみついているのです。
そのため、ピアノでもペダルを最後までしっかり踏み込むことに
無意識のブレーキがかかってしまう方がおられます。
しかしピアノの場合、
中途半端な踏み方をすると、
かえって音の響きが不安定になったり、濁ったりします。
ですから私は、
ペダルの仕組みをきちんとお伝えしながら、
「ここはしっかり踏む必要がありますよ」と丁寧にご説明するようにしています。
ペダルの導入は、いきなり演奏の流れの中で行うのではなく、
まずはごく簡単な動作から始めることが大切です。
たとえば、曲の最後に
「たらりらじゃん」と弾いたあと、そこでいったん足元を見て、
「よいしょ」と足をペダルの位置に置く。
それからペダルを踏み、足と一緒に手を離す。
まずはこの練習から始めます。
音楽的に見れば、
ごく自然なやり方ではないかもしれません。
けれど、
初めから「このタイミングで踏む」と
構えて足を上げたまま待っていること自体が、
不安で難しい方も多いのです。
ですから、
まずは安心して足を置く、踏む、手を離す、
この一連の流れを身体に覚えていただくところから始めます。
曲に慣れてこられたら、
少しずつ通常の踏み替えへ進みます。
一小節ごと、
あるいは和音の変化に合わせて
ペダルを踏み直す練習です。
ところが、
ここでもまた注意しなければならないことがあります。
それは足がつることです。
レッスン中に「先生、痛い痛い痛い!」と
なることも、実は珍しくありません。
そうなると、もうレッスンどころではなくなってしまいます。
足や指の状態によっては、
少し休んでいただいたり、;
無理のない姿勢に戻したりしながら
進める必要があります。
ペダルはたしかに魅力的です。
音に広がりが生まれ、ピアノらしい響きも楽しめます。
だからこそ、焦って取り入れるのではなく、
その方の身体の状態や生活習慣に合わせて、
無理なく、丁寧に導入することが大切なのです。
ペダルは、上達のための“飾り”ではありません。
正しく使えば、音楽を豊かにしてくれる大切な表現の一部です。
憧れを憧れのままで終わらせず、
安心して使えるように、ぜひ一歩ずつ上手に導入していただきたいと思います。


