床はなぜあんなに冷たいのか?
いろんなサッシがあり、いろんなガラスが組み合わされている
「サッシがどうもポイントらしい」
そう一般の方々に認知されてきたのはここ数年だろう。
自動車同様、住宅をはじめとする建物の省エネ性能に注目が集まり、各メーカーとも開発を競い合い、
我々技術者の間でも、「〇〇社のサッシがどうもいいらしい」とか、「ガラスはその取り付ける方位によってどうも法則性があるらしい」、などなど話題が尽きない。
とはいえ、実際のところはどうだろうか?
取引先のサッシ建材屋さんの営業マンが「このサッシが新しく発売されました!相当いいみたいだからぜひ!」
△〇工務店の現場監督:「おう、○○邸、それでいってみっか!」
そんな風に決められていないでしょうか?
建物に付いてしまえばただの窓。どのメーカーのものか、どんなガラスを使っているか、だれが、どんな判断基準で選んだのか、そこで生活している人には全く分りません。
ひとつ間違えれば、光熱費にガツンと影響してくるサッシ&ガラス選び。
もう少し慎重に丁寧に検討してゆく価値のあるものなのです。
設計段階でどのくらい光熱費が違うのかシミュレーションできる
建物の間取りや窓のつく位置がおおよそ決まったら、
「この窓はどんなふうに開く窓がいいのか?」~引違い窓・上げ下げ窓・滑り出し窓etc.
「大きさはどのくらいがいいのか?」~大きいと明るく開放的にはなるが、熱損失も大きくなる。でも日射も入る
「ガラスはどんな種類のものがいいのか?」~ペアガラス?トリプルガラス?ローイー、ってなに?
このへんのことをトータルに、設計者と建築主がじっくり相談して決めるべきです。
大きさや開き方、取り付ける高さだけの打合せだけだったらだれでもできる。
プロはその建物や部屋、太陽の高度変化に合ったベストな提案をすべきです。
私はQPEX(キューペックス)というエクセルベースのプログラムソフトを用いて、
基本設計(間取りや建物のプロポーション、仕上げ材など)が出来上がるちょっと前に計算しています。
事前にお客様の希望の窓位置や大きさ、開き方をヒアリングしてあります。
これに基づいて
「この窓は一回り大きくすると冬のあいだ日射が入るので、灯油換算で〇㍑/年減ります」、
「ここは窓は最小限にしましょう。ガラスも予算が許せばトリプルガラス(3枚)にしたいところです」
などと建物の基本設計が終わる前に提案、よく打合せをしてサッシの種類やガラスタイプを決めています。
毎回QPEXを操作していて思う事~「本当に窓の設計は重要で、この選択によって光熱費がガラッとかわるのだ」
こんなに違うとは・・・ある現場監督のタメ息
具体的にどうなるのか、実例を挙げてみましょう。かなりプロ向けのお話しで恐縮です!
基準として今春私の手がけるとある住宅でやってみます。
家全体の断熱性能は Q値=1.24W/K U値=0.359W/K 延床面積約30坪の2階建ての木造住宅
基準として
■内外樹脂サッシ(エクセルシャノン社製=国産)
アルゴンガスがペアガラスの間に封入されたLOW-E断熱ガラス
(南側は日射取得のためにペアマルチEA寒冷地用、というペアガラスです)
この仕様で、冬の間全室を20℃で暮らす、その場合の年間暖房用エネルギー消費量は292㍑/年
床面積が30坪と少し小さめですが、これはかなり優秀な方だと思います。
□樹脂サッシのメーカーを変えてみます。ガラスは替えません(同等品)
・YKK プラマード +1㍑
・YKK APW330 ▲19㍑ (▲は減る、ということ)
※ちなみにトリプルガラスの YKK APW430 ▲24㍑
・LIXIL マイスター +4㍑
・三協立山 スマージュ ▲18㍑
どれがいいのかは単純に断熱性能だけでは決められません。デザインや種類、カラーバリエーション、耐久性などによりトータルで検討すべきです
□次に樹脂ではなく、木製はどうか?ガラスは替えません(同等品)
・外にアルミでカバーした木製 +10㍑
・米国輸入木製 ▲13㍑
・ヨーロッパ輸入木製 ▲24㍑
さらにこのヨーロッパ輸入木窓でトリプルガラスにしても▲4㍑しか減りませんでした。日射が入りにくくなるからです。
そこでさらに南の日射が入る窓だけをペアガラスにしてみると▲28㍑減りました。
□外側アルミ+内側樹脂のいわゆる複合型とかハイブリッドとかいわれてるやつ
・各社まったく譲らず +25㍑
・ただし、LIXILのサーモスはなんと +10㍑ これはガラスの面積が大きく、日射取得を見込めるのでしょう。
長野県は比較的冬も晴天の日が多きので良い結果がでましたが、東北・北陸地方の方はお気を付け下さい。でも、サーモスはなかなか優秀ですね(^ム^)
□南側の陽射しが入る窓のガラスを、陽射しが入りにくい遮熱フィルムを張ったペアガラスにすると、
なんと+24㍑。逆にエネルギー消費が増えてしまうんですね(>_<) 気を付けましょう!
□矛先を変えて・・・基準品のシャノン樹脂サッシから、ガラスはそのままで枠の材質だけを変えてみます
・アルミ枠へ +78㍑
う~ん、結構増えるんですね(-.-) サッシ自体は30年ほどは交換すべきではないので、78㍑×30年=2340㍑
1㍑=100円とすると23万4千円です。住宅でアルミサッシと樹脂サッシをイニシャルコストで比較した場合、こんなに差はないはずなので、やはりこれからは樹脂サッシが選択の軸になってよさそうです。
□アルミサッシでさらにガラスをグレードダウンさせてみます
・ペアガラス(空気層12㎜) +178㍑
・ペアガラス(空気層6㎜) +221㍑
・シングルガラス +410㍑ 年間で倍以上灯油を食うことになりますね
□ちなみに樹脂サッシの枠の色によっても微妙な変化が・・・
基準品はホワイトでしたが、ブラックやブラウンのように濃い色だと ▲1㍑減りました。 ステンカラーやシルバーは変わりませんでした。
□玄関ドアもけっこう違いがでるので要注意です。
・国産のアルミ製のものは必ずk2仕様を選んでください。
・できれば北欧製の輸入品断熱木製ドアがおすすめです。バリエーションは少ないですが本物の味わいがあります
細心の注意を払って窓・ガラスを選択しても、全てパーに!?
こうしてあれこれシミュレーションして少しでもエネルギー消費量を抑えようと思って設計しても、
残念ながら、実際にそこに住む人の暮らし方でまったくこの計算値は変わってきてしまうのです。
□たとえば暖房の設定温度
・今回の計算では室内の全部を20℃と設定し、夜就寝時は2℃下げて18℃にするようシミュレーションしています
ここで、+1℃の21℃で暮らしてしまうと年間で+44㍑、
逆に-1℃の19℃で暮らしてもらうと▲41㍑になりました。
また、就寝時に温度を下げず、24時間20℃設定だと+92㍑という結果に。
□換気も影響します
・熱交換型という換気扇を導入すると ▲85㍑も減りました。
ただ導入コストが+10万円以上になります。またフィルターの掃除をこまめにしなければ、
本来”新鮮な空気を常時室内に入れて、汚れた空気を常時外に出す”
という換気の本当の目的がないがしろにされて、汚れた空気が室内に入ってくる可能性があるので注意が必要です。
どう注意するのか?
お客様が忘れずにこまめにフィルターの掃除を、一生行えるようにしなければなりません(T_T)
これはなかなか難題です。
・私はこうした理由であまり熱交換型の換気扇はおすすめしておらず、
かわりに換気扇のまわるスピードをコントロールできるものをおすすめしています。
「換気扇をまわさない」
それは暖房エネルギーを減らすことが当然できますが、空気がすぐに汚れ、窓にはすぐに結露が発生します。
人間はつねに新鮮な空気を吸って水を飲み、二酸化炭素や水蒸気を吐き、空気を消費する生き物です。
建築基準法では2時間に1回全室の換気をすることが義務付けられていますが(換気回数0.5回、という表現ですが)、4時間に1回程度の換気量に減らすと▲62㍑減ることが計算できました。
つまり、窓やガラスだけに目を奪われてばかりいてはだめで、こうした暖房の設定温度や就寝時に設定温度をすこし下げるだけで消費エネルギーが変わってしまう、ということもお忘れなきようお願い致します。
ファンヒーターやエアコンのような温風によって暖房する方式も、玄関ドアや窓をしょっちゅう開けては閉める家庭ではなかなかうまく節エネできないと思います。
これを書いている今は冬で、とにかく熱が逃げず暖かい環境を望んで窓を設計しがちですが、
夏は熱い太陽光を取り込んでしまう危険性もあり、春や秋には大きく窓を開け放って気持ちのいい風を取り込むのも窓の役割です。外観的なかっこよさにも重要な役割を果たす窓。
もう20年こんなことやっていますが、窓はとても奥が深い。
私はこれからも窓を探究し続けてゆくことでしょう。
2015.2.5 寒い日の夜に
断熱職人 塩原真貴