知財雑感 … AI時代の「知的な財産」
特許庁(INPIT)は、今年の3月から「タイムスタンプ保管サービス」を開始しました。
(A) ところで、「タイムスタンプサービス(TSS)」は、「電子データ」に対して、その内容とそれが存在した日時を証明するためのものであり、公証人役場による遺言状などを保管する制度の電子版ということになります。
このTSSを利用すれば、自分が所有する「電子データ」の内容とその存在した日時・時刻を第三者により容易に証明してもらうことができることになり、「電子データ」を取り扱う様々な分野において利用できます。
特に、知的財産の分野では、
◇ 第三者が取得した特許権に対して、その出願時には既にその特許権の発明と同じ発明を既に実施しており、特許権の侵害には当たらないとする先使用権を有することの証明、
◇ 第三者に営業秘密(ノウハウ等)を盗まれたが、その営業秘密は元々自社が所有してものであることの証明、
などに利用できることになります。
TSSの概要(サービスの流れ)は次のようになります。
(a) まず、サービスを受けたい「電子データ」の指紋に相当するハッシュ値を生成し、認定されたタイムスタンプ局(民間業者)に送信します。
(b) タイムスタンプ局では、そのハッシュ値に時刻情報を結合し、証明書に相当するタイムスタンプトークン(TST)を生成するとともに、このTSTを秘密キーとして保管します。
(c) 以降は、必要に応じ、TSTに基づき、「電子データ」の証明が可能になります。
(B) 一方、最初に書いた特許庁による「タイムスタンプ保管サービス」は、TSSそのものではありません。
TSSは、民間業者が運営するタイムスタンプ局が行うことが多いため、例えば、何らかの原因により、そのタイムスタンプ局が廃止され、TSTが紛失することも考えられます。
このため、国の機関である特許庁が、タイムスタンプ局のいわばバックアップ局となるものであり、「タイムスタンプ保管サービス」とは、タイムスタンプ局が発行したTSTを国が無料で保管するサービスとなります。
(C) なお、TSSを利用した場合、知的財産に対する消極的な保護、つまり防衛はできますが、特許権等の知的財産権とは異なり、積極的な保護及び活用にはつながりません。
TSSは、以前、このコラムでも書いた知財のクローズ戦略の一形態となります。したがって、企業の場合には、自社で開発したノウハウを含む新技術等について、TSSを利用した保護形態をとるか特許権等の知的財産権による保護形態をとるかの線引きについて的確な判断が必要になります。