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笠中晴司

交通事故のトラブルを解決に導く法律のプロ

笠中晴司(かさなかせいじ) / 弁護士

丹波橋法律事務所

コラム

後遺障害診断書

2016年6月2日

テーマ:交通事故理論

コラムカテゴリ:法律関連

私のコラムで何度も出ています「後遺障害診断書」。

正式には,「自動車賠償責任保険後遺障害診断書」と言います。

ただ,言葉だけではなかなかイメージと思いますので,今回は,用紙の現物を次のとおり添付してみます。

sindansyo


少し説明すると,「自動車賠償責任保険」(略して「自賠責(保険)」)は,自動車(原付バイクに至るまでの二輪も含む)を所有している限り,必ず加入しないといけない保険で,「強制保険」とも言います。

つまり,この用紙は,自賠責保険に対し,後遺障害の認定を受けるために提出する書類です。

自賠責保険で後遺障害の認定を受けるには,2種類の方法があります。

1つ目は,被害者自身が,加害者側の自賠責保険に対し,直接この用紙(この他に多数の必要書類の添付が必要)を送付して申請する方法です(「被害者請求」と言います)。

そして,もう1つは,加害者側の任意保険会社にこの用紙を提出し,その加害者側の任意保険会社を通じて,自賠責保険に対し申請してもらう方法です(この用紙だけの提出でも手続きができ,簡便なので,この方法がとられることが多い)。

上のどちらの方法をとっても,後遺障害の認定については,自賠責保険のほうで手続きを行います。

ですので,形式的には,加害者(および加害者側の任意保険会社)とは関係のない機関が審査することになり,公平性が担保されていることとなります。

ただ,私の感覚では,実際の認定は,本当に「公平である」とは言い切れず,被害者にとって不利な認定が出やすいと考えています。

そして,その理由は次の点にあると考えています。
                        記
1 自賠責保険自身も予算があり,自身の支払いを押さえたいという動機が働く。

  自賠責保険の支払いは,等級により,限度核が決まっています。
  たとえば,14級だと75万円,13級だと139万円,以下だんだんと上がっていき,一番重い等級の1級だと3000万円,さらに介護を要する後遺障害の場合は,最大で4000万円です。

  ですので,等級が上がるほど自賠責自身の支払額が上がりますので(「後遺障害なし(非該当)では支払額はゼロ」),この支払いを押さえたいという動機が働くこととなります。

2 自賠責保険を超える部分の支払いもこの認定により,大きく変わってくる。
  
  自賠責保険(強制保険)の限度額を超えて発生した損害の支払いを担保してくれるのが,任意保険会社です。
  通常の事故では,任意保険会社が加害者に変わり,被害者との対応をすることが多く,被害者の方が対応するのは多くの場合,任意保険会社です。

  そして,任意保険会社は,通常は,自賠責保険の認定に従い,後遺障害部分の損害を算定して,その支払いをすることとなります。もし,裁判になった場合でも,自賠責保険の認定を重視して,その等級に従った損害が認められるケースがほとんどです。

  たとえば,後遺障害の一番下のランクの14級でも,それだけで慰謝料が100万円程度認められます(裁判での基準)。
  さらに逸失利益も認められるケースがほとんどです。

  つまり,自賠責保険の認定により,加害者が支払う(逆に言うと,被害者が受け取る)賠償額は大きく変わってくるのです。

  とすると,支払側はどうしても,その認定に慎重にならざるほ得ないということになります。

  ここで,「自賠責保険は任意保険とは異なる第3者だから,自分のところの限度額以上は関係ないのでは」と考えられた方,とても聡明な方だと思います。

  ただ,以下の事情があり,実は大きく関係してくるのです。

3 自賠責保険は,第3者とは言っても,結局は,保険会社が組合のような形で運営している組織です。
  とすると,保険会社の意向がどうしても働きやすくなります。
  
  実際に,自賠責保険の職員さんには,保険会社のOBの方が多数いらっしゃいます。
  人間,ある一方の立場(この場合は「任意保険会社」(支払側))にいると,どうしても,自身のいる立場からの目線で判断してしまい,逆の立場からの目線が欠落しがちです。

  とすると,自賠責保険の方の目線が,「任意保険会社寄り」になることは,ある意味やむを得ないということができると思います。
                                                               以上

弁護士は,被害者の方に寄り添って,これらの「カベ」を打ち破るの力添えになることができるよう,今後とも研鑚を積んでいきたいと考えています。

この記事を書いたプロ

笠中晴司

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笠中晴司(丹波橋法律事務所)

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