【事業者】ノウハウとしての保護
仕事をしないで文句ばかり言う従業員を解雇したい。
しかしハードルが高いと聞いている。
どうしたらいいか。
そんな相談をお受けすることがあります。
そこで、どういう場合に解雇ができるのか、まとめておきたいと思います。
解雇とは
解雇とは、使用者(会社)による労働契約の解約を言います。
有期雇用の場合は、雇用期間が満了すれば労働契約は終了します。
反対に、雇用期間の途中で解雇することは原則としてできず、「やむを得ない事由」がある場合に限られます。
したがって、実際に解雇が問題となるのは、無期雇用の場合です。
無期雇用は将来に向かって継続する契約です。
そのような契約に、当事者がいつまでも拘束されることがないように、民法では、当事者のいずれもが、いつでも解約の申入れができ、申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了する、とされています。
解雇の制限
しかし、事業者が自由に解雇できるとすると、雇用されることによって生活を維持している労働者に与える打撃が大きいという理由で、事業者からの解雇は労働法によって制限されています。
つまり、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)ということです。
客観的に合理的な理由
この「客観的に合理的な理由」としては、次のようなものが挙げられます。
①労働能力が不足している、適性が欠けている。
②職場規律に違反した。
③経営不振による人員整理など経営上の必要性がある。
このうち②については、懲戒処分としてされることが通常です。
③は、整理解雇の有効性として問題になることが多いです。
①~③のような「客観的に合理的な理由」がないのに、それでも解雇すれば、もちろん無効とされます。
社会通念上相当
しかし①~③のような「客観的に合理的な理由」があっても、さらに「社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇が無効になります。
一般的な労働者であれば、解雇理由の程度が重大であり、解雇が不可避で、労働者に酌むべき事情がないというような場合にのみ、解雇が「社会通念上相当」と認められると考えておくべきでしょう。
①の理由に関していえば、例えば、
・勤務成績が著しく悪く、何度指導をしても改善されず、今後改善の見込みもないとき。
・ケガや病気での給食が長期間にわたり、今後職場や職務を配慮しても復帰が見込めないとき。
などが挙げられるでしょう。
③の整理解雇に関しては、次の4つの事項に基づいて判断されます。
・人員削減の必要性…企業経営上の十分な必要性に基づいていること。
・整理解雇を選択する必要性…配転、出向、希望退職などによって解雇を回避する努力をしてもなお足りなかったこと。
・人選の妥当性…解雇する者の選定が、客観的に合理的な基準を公正に適用して行っていること。
・手続きの妥当性…労働者に対して、整理解雇の必要性、時期、規模、方法について納得を得るために説明を行い、誠意をもって協議したこと。
この場合、労働者に否がありませんので、厳しい判断をされると考えておいた方がよいでしょう。
懲戒処分としての解雇
②が懲戒処分としてされる場合、懲戒処分の有効性が問題となります。
懲戒処分については、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」(労働契約法第15条)とされています。
懲戒処分が有効であるためには、まず、事業者に懲戒権がなければなりません。
就業規則に、懲戒処分となる事由と、懲戒の種類や程度が定められている必要があります。
「客観的に合理的な理由」が認められるには、労働者の行為が、就業規則に定められた懲戒事由に該当するものでなければなりません。
懲戒事由に該当する場合であっても、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、社会通念上相当なものと認められる必要があります。
そのためには、解雇としたことが、情状や先例を踏まえても重すぎないと言える必要があるでしょう。
また、手続的な相当性も必要とされますから、本人の弁明も聞かずに行った懲戒処分は無効とされる可能性が否定できません。
まとめ
安易に解雇をして争われ、その結果解雇が無効となると、雇用関係が継続しているということになります。
そうなると、それまでの給料が未払いとなりますから、その支払いを求められるとたいへんです。
争われた場合に裁判所で有効と認められるような解雇なのか、慎重に検討して対処すべきだと言えます。
安易な解雇は厳禁です。