【著作権】児童館で行う夏休みの親子イベントと著作権
検索事業者が、プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトの情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるかどうかは、①当該事実の性質及び内容、②プライバシーに属する事実が伝達される範囲と具体的被害の程度、③社会的地位や影響力、④記事等の目的や意義、⑤記事掲載時の社会的状況とその後の変化、⑥記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と、当該情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考量し、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索結果から削除することを求めることができる。
事案の概要
Xは、平成23年、児童買春等処罰法違反の被疑事実で逮捕され、その後に罰金刑に処せられました。
Xが逮捕された事実はその当日に報道され、インターネット上にも多数書き込みがされました。
この書き込みがされたウェブサイトは、Y(Google)の検索サービスを利用すれば、検索結果に表示されるようになっています。
そこでXは、人格権に基づき、Yに対し、検索結果の削除を求める仮処分を申立てました。
仮処分決定
仮処分を申し立てられたさいたま地裁は、
・Xは、過去に逮捕されたという事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する、
・日常的に利用される検索エンジンで、Xの住所と氏名を入力して検索するだけで3年余り前の逮捕歴が簡単に閲覧されてしまえば、その利益が著しくあるいは容易に侵害されるおそれがある、
・Xが逮捕された事実を今後とも検索結果として表示し続けることに歴史的・社会的な意義があるとは考えられず、実名で住所や年齢と併せて公表し続ける公益的な意義・必要性は極めて乏しい、
・罪を償ってから3年余り経過した過去の逮捕歴が誰でも簡単に閲覧されるおそれがあり、その不利益は回復困難かつ重大である一方、刑の執行を終えてから3年以上の時が経過した現在において検索結果を表示すべき意義や必要性は特段認められず、Xの不利益は受忍限度を超える、
として、Xの申立てを認めました。
保全異議(原々決定)
Yは仮処分決定に対して保全異議を申立てましたが、さいたま地裁は、
・一度は逮捕歴を報道され社会に知られてしまった犯罪者といえども、人格権として私生活を尊重される権利、更生を妨げられない利益を有するから、ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有する、
・インターネットが広く普及した現代社会においては、ひとたびインターネット上に情報が表示されてしまうと、その情報を抹消して社会から忘れられることによって平穏な生活を送ることが著しく困難になっていることも考慮すべきである、
・更生を妨げられない利益を侵害される不利益は回復困難かつ重大であり、検索エンジンの公益性を考慮しても受忍限度を超えている、
として、先の決定を認可しました。
保全抗告(原決定)
そこでYは、仮処分決定及び認可決定を不服として、東京高裁に保全抗告を申立てました。
東京高裁は、
・「忘れられる権利」は法律上の明文の根拠がなく要件及び効果が明らかでない、Xの主張からしても、人格権の一内容としての名誉権・プライバシー権に基づく差止請求権の存否と別に、「忘れられる権利」を一内容とする人格権に基づく差止請求権の存否について判断する必要はない、
・検索エンジンによる検索サービスが表現の自由及び知る権利にとって大きな役割を果たしている現代的な社会状況を考慮すると、名誉権・プライバシー権の侵害に基づく差止請求の可否を決するにあたっては、削除等を求める事項の性質、公表の目的及びその社会的意義、差止を求める者の社会的地位や影響力、公表により差止請求者に生じる損害発生の明白性・重大性・回復困難性等だけでなく、インターネットという情報公表ないし伝達手段の性格や重要性、検索サービスの重要性等も総合考慮して決するのが相当である、
・本件犯行は社会的関心の高い行為であり、罰金の納付を終えて5年を経過せず刑の言渡しの効力が失われていないことも考慮すると、本件犯行はいまだ公共の利害に関する事項であるし、本件犯行は真実であり、検索結果の表示が公益目的でないことが明らかであるとはいえないから、名誉権の侵害に基づく差止請求は認められない、
・検索結果を削除することは、そこに表示されたリンク先のウェブページ全体の閲覧をきわめて困難ないし事実上不可能にして多数の者の表現の自由及び知る権利を大きく侵害し得るものであるのに対し、本件犯行を知られることにより直ちに社会生活上又は私生活上の受忍限度を超える重大な支障が生じるとは認められないから、プライバシー権に基づく削除等請求を認めることはできない、
として、Yの抗告を認め、仮処分決定と認可決定を取り消しました。
最高裁の判断
原決定に対し、Xは抗告許可の申立てを行い、原審はこれを許可しました。
最高裁は、
・個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的保護の対象となる一方、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有し、また現代社会において情報流通の基盤として大きな役割を果たしている、
・検索事業者が、プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトの情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるかどうかは、①当該事実の性質及び内容、②プライバシーに属する事実が伝達される範囲と具体的被害の程度、③社会的地位や影響力、④記事等の目的や意義、⑤記事掲載時の社会的状況とその後の変化、⑥記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と、当該情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考量して判断すべき、
・その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、情報を検索結果から削除することを求めることができる、
との基準を設け、
・①児童買春が社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることから、本件事実は今なお公共の利害に関する事項であるといえる、
・②検索結果はXの居住する県の名称及び氏名を条件とした場合の検索結果の一部であり、本件事実が伝達される範囲はある程度限られている、
・⑤Xが妻子とともに生活し、罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働しているなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない、
として、原審の判断を肯定しました。
雑感
最高裁は、Xが児童買春の容疑で逮捕された事実について、「今なお公共の利害に関する事項である」と判断していますが、この判断にあたって明確な基準を設けて、あてはめを行ったわけではありません。
さいたま地裁の仮処分決定では、「略式命令手続で50万円の罰金刑で処理されるような類型的に比較的軽微なものであり」として、法定刑の軽重を一応の物差しとしていました。
東京高裁は、刑法34条の2で罰金刑の言渡しの効力が失われる「5年」を基準として、「公共の利害に関する事項」であるかを判断していました。
最高裁決定は、「児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし」、としているにすぎません。この部分にはほとんどの前科情報が該当しますので、どういう場合に「今なお」なのか、そこは不明なままです。
参考判例
最判昭61・6・11
「ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべき」
最判平6・2・8
「前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。」
最判平14・9・24
「人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。」
最判平15・3・14
「プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するのであるから、本件記事が週刊誌に掲載された当時の被上告人の年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによって被上告人のプライバシーに属する情報が伝達される範囲と被上告人が被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である。」