従業員を解雇したいとお考えの方へ
契約書を作る意味
新たなビジネスを始めるとき,その相手方と契約書を交わします。
なぜ契約書を交わすのでしょうか。
契約の内容を明確にして,もめたときに解決のよりどころとするためですね。
ときどき,相手方とはいい関係にあるのでもめることはありません,こう書いておけばどちらも意味は分かっていますから大丈夫です,とおっしゃる方がいます。
しかし,契約書は相手方と険悪になったときのために作るのです。
いい関係でもめることは絶対にないのであれば,そもそも契約書を作る必要はありません。
トラブルになったら
トラブルを解決するよりどころとして作る契約書ですが,実際にビジネスが進行すると,契約書に書かれた文言の解釈で双方の言い分が対立する場合もあります。
協議を行って決着がつけばいいですが,そうでない場合,どちらの言い分が正しいのか最終的に判断するのは裁判所です。
したがって,裁判所がどう読むかを意識して契約書を作る必要があるということになります。
裁判所はどう読むか
裁判所は契約書をどのように読むのでしょうか。
まず,契約書に書かれているとおりの内容で合意が成立している,と読まれるのが基本です。
こんなところまで読まないから知らなかったとか,こういう内容で契約したつもりはなかったとか,そういう言い訳はまず通用しないということです。
書かれているとおりと言っても,書かれた内容があいまいだったり,書かれているとおりでは内容が不合理なため,一方が誤記だと主張したりする場合があります。
そのような場合,裁判所は,当事者がどういうつもりでこの契約をしたのか,という観点からその意味を明らかにしようとします。
当事者がどういうつもりだったのかは,一般的に,契約の目的は何だったのか,どういう経緯(交渉過程など)で契約に至ったのか,その種の取引で通常どのようなことが行われているか,などから判断されます。
「私はこういうつもりで契約しました」と裁判所でいくら言い張っても,トラブルになってからは双方がそれぞれ自分に都合のよいこと言うに違いありませんから,あまり意味がありません。
大切なこと
いずれにせよ,契約当時の当事者の意思を裁判所がどのように捉えるか,事前にはっきりと予測することは難しいと言わざるを得ません。
当たった裁判官によっても結論が変わるような微妙な場合も珍しくありません。
ですから,書いたとおりの理解で足りる契約書をできる限り目指す,ということが必要になります。
契約書の作成手順
ではどのような手順で契約書を作成していけばよいのでしょうか。
中心となるのは,お互いの権利と義務は何か,ということです。
これを明確にすることで,それがどういう契約類型にあたるのかが決まります。
自分の工場を貸して賃料をもらうのなら賃貸借契約になります。
自分の工場で作業をしてもらって工賃を支払うなら,業務委託契約だとか,場合によって雇用契約にだとかになります。
売買契約なら,売主から買主に物を引き渡す,買主から売主に代金を払う,というのがお互いの権利義務の中心になりますが,もちろん,これだけでは足りません。
引き渡す物の特定,納品場所,代金の決定,支払時期,引渡したものが不良品だった場合の取扱い,等々決めておくべきことは多岐に渡ります。
継続的な契約であれば,契約期間がいつまでなのか,更新はできるのか,という取り決めも必要です。
漏れがないか
決めておくべきことに漏れがないか確認しましょう。
こういうときには,いわゆる契約書の「ひな型」が参考になります。
「ひな型」をそのまま使う危険は巷間言われるとおりですが,決めておくべき項目にどのようなものがあるかを確認するにはとても役に立ちます。
ただし,参考にする「ひな型」が契約類型に合致したものかには注意してください。
法律と矛盾しないか
法律と矛盾していないか,法律によって記載を義務付けられている事項が漏れていないかにも注意してください。
たとえば,民法の改正で根保証契約については書面による極度額の定めが必要な場合があり,これがないと保証契約が無効になります。
様々な業法で契約書の記載条項が定められている場合もあります。
BtoCの契約では消費者契約法にも注意が必要です。
契約書の最終チェック
契約書が一応完成したら,現在良好な関係を築いている相手方が,掌を返して契約書のあら捜しを始めたという状況を思い描いて下さい。
たとえば,相手方の経営が苦しくなり,なんとか支払いを免れたいと全力で悪知恵を絞ってきたような場合ですね。
その上で,表現があいまいである,別の読み方ができる,どの条項も適用されない場合があり得る,法律と矛盾する,そういうことがないかを十分にチェックしてください。