リーダー(管理職やマネージャー)がメンバーを動かすためのパワーとは?
リーダーシップ理論の変遷
リーダーシップ理論は、主に以下の流れで変遷してきました。
1. 特性理論(~1940年代)
「優れたリーダーは生まれながらにして特別な資質や特性(知性、決断力、体力、カリスマ性など)を持っている」と考えられました。しかし、共通する万能な特性を見つけることができず、理論としての限界が示されました。
2. 行動理論(1940年代~1960年代)
「リーダーシップは行動によって発揮される」と考えリーダーの「行動パターン」に着目しました。
PM理論(PerformanceとMaintenance)やオハイオ州立大学の研究などが代表的で、仕事の目標達成を重視するP(目標達成)機能と、人間関係やチームの維持を重視するM(集団維持)機能の2軸でリーダー行動を分類しました。
3. 条件適合理論(1960年代~)
「優れたリーダーシップとは、状況に応じて変化する」という考え方です。リーダーの特性や行動だけでなく「状況(メンバーの成熟度、課題の複雑さなど)」との組み合わせで最適なリーダーシップを決定しようとしました。
フィードラーのコンティンジェンシー理論やSL理論(Suturational Leadership Theory)
が代表的です。
4. コンセプト理論・現代のリーダーシップ(1970年代以降)
グローバル化や環境変化の激化に伴い、組織に変革をもたらすリーダーシップが求められるようになりました。
変革型リーダーシップ:報酬や懲罰といった従来の「管理能力」に加え、ビジョンを掲げ、メンバーのモチベーションと意識を高めて組織に変革を起こす能力が重視されました。
サーバント・リーダーシップ:リーダーは奉仕する者として、メンバーの成長や幸福を最優先し、支援を通じて組織を導くスタイルです。
オーセンティック・リーダーシップ:リーダーが自己理解に基づいて、ありのままの自分でメンバーと接し、透明性と倫理観を持って率いるスタイルです。
今日求められるシェアードリーダーシップ
シェアードリーダーシップとは?
シェアードリーダーシップ(Shared Leadership)は、特定の役職者に限らず、チームの誰もが状況や課題に応じてリーダーシップの役割を担い、相互に影響を与え合いながら目標達成を目指す組織の状態またはプロセスを指します。日本語では「共有型リーダーシップ」とも呼ばれます。
従来のリーダーシップ(トップダウン型)との主な違いは、リーダーシップが一人に固定されるのではなく、チーム全体で流動的に共有・分散される点にあります。
実践のポイント
シェアードリーダーシップを組織に根付かせ、効果的に発揮させるためには、以下の点が重要になります。
1. 目的・ビジョンの明確な共有
誰がリーダーシップを発揮しても、チームの進むべき方向がブレないよう、組織やチームの最終目的、ビジョン、価値観をメンバー全員が深く理解し、共有していることが必須です。これが、個々の自律的な判断の軸となります。
2. エンパワーメントと権限の委譲
メンバーが主体的に行動し、リーダーシップを発揮できるよう、意思決定や課題解決に関する適切な権限を委譲します。これにより、メンバーは「自分事」として責任感を持ち、能力を最大限に発揮できるようになります。
3. 心理的安全性の確保
メンバーが役職や経験に関わらず、「恐れを感じることなく意見やアイデアを表明できる」環境を作ることです。多様な知見や視点を活かし、迅速な問題解決やイノベーションを促進するために最も重要な土台となります。
4. 相互信頼と対話の促進
メンバー同士が互いの専門性、強み、弱みを理解し、尊重し合うことが不可欠です。活発な議論や対話を通じて、お互いのリーダーシップを認め、状況に応じて役割を交換できる高い相互信頼を築くことが求められます。
5. リーダー(マネージャー)の役割の変化
リーダーはかつての「支配・指示役」から「支援者」「促進者」「コーチ」へと役割が変化しています。チームのビジョンを示し、環境を整え、メンバーのエンパワーメントと成長をサポートすることが中心的な役割です。
リーダーシップ理論は、時代や環境の変化に応じてその考え方が大きく変遷してきました。近年、特にVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と呼ばれる変化の激しい現代において、「シェアードリーダーシップ」の重要性が増しています。




