せっかく書いたその遺言書、あなたがこの世を去った後にきちんと家族に届きますか?
昨年末に、遺産相続の話し合いでトラブルになり、実の姉に日本刀を突き付けた61歳の男が暴力行為等処罰法違反の疑いで逮捕されました。ついに、相続トラブルが刑事事件にまで発展する時代になってしまったと捉えており、私ども相続・遺言の法律専門職がもっと一般市民の皆様に対して相続トラブルの予防について発信していく必要があると思っています。
これまでも私は相続トラブルについて、決して他人事ではなく誰にでも起きる可能性があるものの、正しい知識を身に付けるとともに適切な措置を講じることでほぼ未然に防ぐことができることをお話ししてきました。
そして、今回の事例でも誰が何を相続するかの話し合い、いわゆる遺産分割協議の難しさが改めて証明されました。
思うに、先行きが不透明なこの時代において、まとまった財産を手にするのは相続くらいしかないという方は今後も増えるでしょう。
とすれば、たとえ数百万円でも数十万円でももらえるものならもらおうと考えるのが人間であり、自分はいらないと意思表示される方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
また、誰が何を相続するかの話し合い、いわゆる遺産分割協議で相続人同士がどうして揉めてしまうかというと、被相続人の方が亡くなった瞬間に各相続人は法定相続分で相続してしまうからなのです。もちろん、実際に財産は移動するわけではありませんし目に見えない観念的な概念ですが、もう少しわかりやすく言えば、被相続人が亡くなった瞬間に法定相続分の財産が各相続人のポケットに入ってしまうのです。そして、遺産分割協議というのは実は残された財産をどうやって分けようかというところからスタートするのではなくて、それぞれの相続人のポケットに入った財産を全てポケットから出してもらうところからスタートしなければならないのです。私はいつも『遺言がなければ法定相続が原則である』とお話ししていますが、法定相続の正しい意味はこのように理解しなければならないのです。
おそらく、今後ますます遺産分割協議が困難となることは間違いないでしょう。残念なことですが、今の日本の政治や経済の状況を見れば一般の人々が安心して暮らせるとは到底言えませんし、そんな中でまとまった財産を目の前にしたときでも当事者同士で冷静に話し合いができるという人はほとんどいないと思われるからです。
今回のような刑事事件にまで発展してしまうような相続トラブルになるかどうかはともかくとしても、相続人同士でトラブルになってしまうことを避けるための方法はひとつしかありません。
それは、①すべての相続人に対して十分な配慮をした遺言書を公正証書にしておき、②遺言書の中で遺言執行者を指定しておくとともに、③遺言公正証書の正本を遺言執行者に預けておくことです。そしてこのときのポイントは、遺言書を保管する遺言執行者は相続人のどなたかがおやりになるのは避けて私どものような専門家に依頼することでしょう。
このようにしておけば、遺言者が亡くなった場合に、遺言執行者は速やかに遺言の執行(遺言書に書かれた内容を実現すること)に入ることができます。遺言執行者は、各相続人に対して必要に応じて説明し協力を求めることになりますので、相続人同士で『ああでもない・こうでもない』と話し合いをする必要がなくなります。相続人同士で遺産をめぐって話し合う必要がないのですから、遺産の分け方はもちろん感情的な対立なども起こる可能性は極めて低いと言えるでしょう。
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確かに、『自分が亡くなった後は関係ない、あとは相続人に任せる』というのもひとつの考え方かもしれません。しかし、私に言わせれば『配慮の足りない人』あるいは『無責任な人』と思わざるを得ないのも事実です。だって、『相続トラブルが起きる可能性』という大変な置き土産を残して自分だけ先に逝ってしまうのですから・・・。
これからも私は、ひとりでも多くの方を相続トラブルに遭遇させないためにも、ひとりでも多くの方に『争わないための遺言書』のご提案をし続けていきます。