【第2部】福利厚生拡充の選択肢「iDeCo+(イデコプラス)」~労使合意のステップとトラブルを防ぐ制度設計~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

はじめに

 第1部では、iDeCo+の概要と、法改正などによる利便性の向上について解説しました。
これまでに比べて導入のハードルは下がりましたが 、いざ自社に導入するとなると、労働法上のルールに則った実務プロセスが求められます。
特に従業員の「既得権」や「公平性」に関わる内容を曖昧にしたまま発車してしまうと、後々の労使紛争を招きかねません。
 第2部では、労務トラブルを未然に防ぎ、制度を定着させるための実務ステップを整理します。

導入要件と労使合意のステップ

 iDeCo+を導入できるのは、「従業員数が300人以下」で 、企業型DCや確定給付企業年金(DB)等の「企業年金を実施していない」企業です (中小企業退職金共済との併用は可能)。
この要件を満たした上で、クリアすべき最初のハードルが「労使合意の取得」です 。

【労使合意の適切な進め方】
 労働組合がある場合 → 労働組合との合意
 労働組合がない場合 → 民主的な方法で選出された「従業員の過半数代表者」との合意


 ここで注意が必要なのは、過半数代表者を会社側が一方的に指名してしまうことです。
労働基準法上の過半数代表者は、管理監督者ではない従業員の中から、投票や挙手といった民主的な手続きを経て選出されなければなりません。
 この選出手続きに不備があると、せっかく締結した労使合意そのものが「無効」と判断され、制度の前提が崩れてしまうリスクがあります。
選出の際は、必ず実施日時や選出方法(投票・挙手など)を明記したプロセスを書面で記録し、保管しておくことが重要です 。

柔軟な制度設計と「客観的基準」の策定、不利益変更の回避

 iDeCo+の事業主掛金は、必ずしも全従業員一律にする必要はありません。
2027年以降の拠出限度額拡大を見据え、会社の財務負担のバランスを考慮しながら、職種や役職、勤続年数などに応じた独自の資格要件を設けることが可能です。
 しかし、注意が必要なのは、「既存の退職一時金制度を一方的に減額・廃止してiDeCo+へ強制移行させる行為」は、労働契約法上の「不利益変更」に該当するという点です。
就業規則や退職金規程の不利益変更には、合理性と従業員の同意が必須となります 。強引に切り替えることは厳禁です。

 トラブルを避けるためには、制度設計に工夫が必要です。
1.既存制度に追加
 既存の退職一時金制度は維持し、福利厚生のさらなる「上乗せ」としてiDeCo+を導入する。
2.選択制
 既存の退職金の一定額を原資としつつ、それを「退職金として受け取るか」「iDeCo+の事業主掛金として回すか」を従業員自身に選択させる。
3.新規に適用
 既存従業員には旧制度を適用し、新規採用者から新しいiDeCo+主体の制度を適用する。

導入に際しての留意点

 導入に際しては、まず就業規則の見直しが不可欠です。退職金規程があり退職金制度も併せて見直す場合には、導入後の退職金制度に沿った形が見直しが必要です。
 また、従業員への説明会では、iDeCoが投資性商品であり元本割れのリスクも自己責任であること、そして加入するかどうかはあくまで「従業員の自由意思」であることを明確に伝える必要があります。これを怠ると、将来的に「会社に強制的に加入させられて損をした」という予期せぬ労使トラブルに発展しかねません。

まとめ

 第2部では、iDeCo+の導入要件、適切な過半数代表者の選出手続き、そして既存制度からの移行時における「不利益変更」のリスクや制度設計について整理しました。
労使で十分な協議を行い、スケジュールに余裕を持って進めることが重要です。
 第3部では、受取時に見落としがちな税制改正への対策について解説します。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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