【第3部】社会保険適用拡大への対策

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

はじめに

 第2部では、社会保険の適用拡大がもたらすコストの増加(財務)と、従業員の就業調整(労務)の影響について解説しました。
第3部では、この法改正を「属人化からの脱却」と「生産性向上」のための対策を整理します。

財務の対策:国の支援策の活用と財務計画への組み込み

 激変緩和措置を活用し、キャッシュアウトをコントロールします。

1.「保険料軽減特例」を活用
 今回の法改正では、適用拡大の対象となる企業で働く短時間労働者に対し、3年間の特例的・時限的な経過措置が設けられています。
社会保険料による手取り減少と就業調整を防ぐため、標準報酬月額に応じて労働者の保険料負担割合を本来の50%から最大25%に軽減することができます 。

  • 標準報酬月額 8.8万円:労働者負担 25%
  • 標準報酬月額 9.8万円:労働者負担 30%
  • 標準報酬月額 10.4万円:労働者負担 36% (3年目は軽減割合半減)


 事業主が労使折半を超えて一旦多く負担した保険料相当額については、国から支援(助成等)を受けられる仕組みになっています。この3年間を財務的な「体質改善の猶予期間」と捉え、経営計画を再構築する必要があります。

2.助成金の活用と「先行投資」としての予算化
 「キャリアアップ助成金(社会保険適用時加算)」などを活用し、パート従業員の労働時間を延長したり、基本給を原資として賃上げを行います。
社会保険料の増加分を「単なるコスト(費用)」として後ろ向きに処理するのではなく、人材の定着と育成のための「先行投資」として中長期の計画に織り込むことが重要です。

労務の対策:社内周知と加入メリット提示によるエンゲージメント

 労務面での対策は、従業員に対する情報開示と、個別面談による不安の解消が必要です。

1.社会保険加入の「医療・年金メリット」を周知
 「手取りが減る」という目先のデメリットばかりに目を奪われている従業員に対し、社会保険に加入することで得られる生活の安心を丁寧に説明します。

・年金の2階建て化
 将来受け取る老齢厚生年金が増えるだけでなく、万が一の際の障害厚生年金や遺族厚生年金も手厚くなります。
・医療保障の充実
 病気やケガで会社を休んだ際の「傷病手当金」や、産休中の「出産手当金」など、国民健康保険にはない給付が受けられます。

 これらを説明することで、「目先の手取り」から「将来の生活原資とセーフティネットの確保」へと従業員の視点を変え、会社へのエンゲージメントを高めるきっかけにします。

2. 働き方の意向調査と「リスキリング」の機会提供
 従業員と個別に面談を行い、「扶養を外れてもっと収入を増やしたいのか」「時間は抑えたいのか」などの意向をヒアリングします。
フルタイムへの移行を希望する従業員に対しては、より高い時間単価の仕事ができるよう「リスキリング(学び直し)」の機会を提供し、企業のコア戦力化に向けて取り組みます。

3.属人化からの脱却と生産性向上
 目標は、社会保険料の負担が増えても、それ以上の利益を生み出せる「生産性の高い企業」へ生まれ変わることです。
従業員が就業調整で労働時間を減らすリスクに対しては、「業務の標準化・マニュアル化」を進め、特定の誰かでなければ回らない「属人化」を排除します。

 誰でも同じクオリティで効率よく仕事ができる環境(労務環境の整備)を作ることで、限られた時間内での労働密度が上がり、生産性が向上します。
生産性が上がれば企業の稼ぐ力(キャッシュフロー)が強化され、増大した社会保険料を十分に賄い、さらなる賃上げや設備投資へと回せる好循環が生まれます。

まとめ

 令和7年度年金法改正は、多くの企業にとって財務面・労務面の双方の負担となります。
しかし、これまでの「低賃金・短時間労働」に依存した体質から脱却し、「従業員が最大のパフォーマンスを発揮し、それに見合った高い付加価値を生み出す」強い企業へと変革するためのチャンスでもあります 。
 
 マネジスタ湘南社労士事務所は財務、労務に関する相談を承ります。
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江崎充豊
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江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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