【第1部】人手不足の現状と課題~令和7年版「労働経済の分析」より~
はじめに
第2部では、令和8年10月の同一労働同一賃金改正が、企業のキャッシュフローを直撃する人件費増加と、現場の労務管理に及ぼすリスクについて解説しました。
客観的な理由なき格差は、財務的にも法的にも、職場のモラルダウンという意味でも、企業に大きな打撃を与えます。
最終部となる今回は、このピンチをチャンスに変えるため、中小企業が取り組むべき対策を考察します。
改正を乗り越える4つのステップ
令和8年10月を見据え、今から段階的に進めるべき実務のステップは以下の通りです。
【STEP 1】現状分析と課題の可視化
まずは自社の雇用形態と待遇の「棚卸し」を行います。
正社員・パート・嘱託など、雇用形態ごとにどのような待遇差があるのかを、下表のような表を作成して見える化します。
【自社 待遇比較表の作成例】
| 待遇項目 | 正社員 | パート社員 | 待遇差の有無 | 差の理由・合理性の検証 |
|---|---|---|---|---|
| 基本給 | 月給制(職能給) | 時給制 | あり | 正社員は業績責任・トラブル対応義務があるため |
| 賞与 | 年2回(計4ヶ月分) | なし | あり | 貢献度の測定基準が未整備 → 見直しが必要 |
| 各種手当 | 年2回 | 通勤手当・役職手当など | あり | 理由なし。不合理と判定される可能性大 |
| 慶弔休暇 | あり | なし | あり | 勤続年数等の考慮がなく一律不付与 → 見直しが必要 |
同時に、「職務分析シート」などを用いて、正社員と非正規社員の業務内容・責任の程度(決裁権限、部下の有無等)を明確に記述し、職務の切り分け(属人化からの脱却)を行います。
【STEP 2】待遇差の合理性検証と是正方針の決定
棚卸ししたデータに基づき、ガイドラインの「問題となる例」に抵触していないか確認します。特に通勤手当や食事手当、慶弔休暇などの福利厚生に関する格差は不合理と判断されやすいため、優先的な是正が必要です。
【STEP 3】規程整備と社内周知
方針が決まったら、就業規則や賃金規程の改定に着手します。
・労働条件通知書(新様式)の準備
「待遇の相違に関する説明を求めることができる旨」および「相談窓口(部署、担当者、連絡先)」を明記した新様式を作成します。
・説明用資料の整備
従業員から求められた際、「自社の賃金・手当の基準はこうなっている」と提示できる比較表や理由書を準備します。また、現場の管理職が不用意な発言(「パートだから手当が出ないのは当たり前」等)をしないよう、相談窓口担当者や管理職への研修や周知が必要です。
【STEP 4】施行後の継続的対応
施行後は、新規雇入れ時の書面交付と口頭説明を徹底し、従業員から説明を求められた場合の「対応記録」を保管します。年1回は定期点検を行い、形骸化を防ぎます。
財務負担を軽減する「国の支援制度」の活用
以下の支援制度を活用することで、人件費増加による財務負担軽減が図ることができます
・キャリアアップ助成金(諸手当制度等共通化コース / 賞与・退職金制度導入コースなど)
非正規雇用労働者に対して、正社員と共通の諸手当制度や賞与・退職金制度を新設・適用した場合に、1事業所あたり数十万〜数百万円の助成金が支給されます。
就業規則の改定や一定期間の運用実績など計画的な実施が必要となるため、事前に専門家に相談の上、すすめることが必要です。
・働き方改革推進支援センター(無料)
労務管理のアドバイスやセミナー、規程整備の個別支援を無料で受けることができます。
業種別のポイント
企業のビジネスモデルや業種によって、アプローチは変わります。
・小売業・飲食業
パート・アルバイトが主戦力です。運営における正社員(店長など)との「責任の重さ(売上目標やクレーム責任)」を明確にし、属人的な業務を排除して標準化を進めることが鍵です。
・製造業
同一ラインでの作業でも、習熟度や管理責任の有無による技能手当の基準整備が必要です。
・介護・福祉業
資格の有無や夜勤・シフト勤務の有無で、処遇改善加算等のルールの明確化が求められます。
まとめ
同一労働同一賃金への対応は、単なる「法律を守るためのコスト」ではありません。
曖昧だった自社の評価制度を強固にし、従業員のエンゲージメントを高め、結果として企業の生産性を向上させるための「前向きな先行投資」です。
人口減少が進むこれからの時代、働く人に選ばれる職場環境(労務)を作り、それを強固な財務基盤で支える、「労務×財務」の両面での対策が必要です。
マネジスタ湘南社労士事務所は財務、労務に関する相談を承ります。
お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。



