【もしもシリーズ第3回】赤点からの逆転劇 ~野木 伸太郎CFOの場合~
はじめに
2026年度、厚生労働省は雇用関係助成金制度を改正し、「65歳超雇用推進助成金」も拡充されました。
定年廃止や定年延長、継続雇用制度の導入を行う企業への助成額が引き上げられ、支給回数制限も撤廃されるなど、国が高齢者雇用を後押しする姿勢を表していると思います。
第1部では、この助成金拡充の制度概要と、その背景を整理します。
65歳超雇用推進助成金とは
「65歳超雇用推進助成金」は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働き続けることができる環境を整備するため、65歳以上への定年引上げや定年廃止、継続雇用制度の導入を行う事業主を支援する制度です。
【主なコースと助成額】
| コース | 主な措置内容 | 改定前の上限額 | 改定後の上限額 |
|---|---|---|---|
| 65歳超継続雇用促進コース | 65歳以上への定年引上げ、定年廃止、66歳以上の継続雇用制度導入 | 10万円~160万円 | 15万円~240万円 |
| 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高齢者向けの人事評価制度や賃金体系の整備 | 上限30万円 | 中業企業は上限60万円 |
| 高年齢者無期雇用転換コース | 有期契約労働者を無期雇用に転換 | 中小企業は30万円/人 | 中業企業は40万円/人 |
出典: 厚生労働省労働政策審議会(職業安定分科会)資料
特に「定年廃止」を実施した企業では、最大240万円という大きな助成金を受け取ることが可能となりました。また、今回の改定では支給回数制限が撤廃されたことにより、継続的に制度改善を行う企業にとって、複数回の申請が可能となりました。
拡充の背景:なぜ国は高齢者雇用を後押しするのか
1.労働力不足の深刻化
日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年の約8,700万人をピークに減少を続けており、2023年には約7,400万人にまで減少しています。
特に中小企業では人手不足が経営課題の上位に挙がり続けており、経験豊富なシニア人材の活用が課題です。
2. 高齢者の就労意欲の高まり
内閣府「高齢社会白書(令和5年版)」によれば、60歳以上の約7割が「働けるうちはいつまでも働きたい」または「70歳くらいまで働きたい」と回答しています。
健康寿命の延伸や年金受給開始年齢の引上げなどを背景に、高齢者自身の就労意欲は確実に高まっています。
3. 在職老齢年金制度の改正
2026年4月に、在職老齢年金の支給停止基準が65万円に引き上げられました。これにより、高齢者が働きながら受給できる年金額が増え、就労意欲がさらに高まることが期待されています。
4. 持続可能な社会保障制度の構築
高齢者が長く働き続けることは、年金・医療・介護といった社会保障費の抑制にもつながります。国は「生涯現役社会」の実現を掲げており、今回の助成金拡充はその一環としても位置づけられます。
注目すべき理由
1.財務面でのプラス効果
高齢者雇用制度の整備には、就業規則の改定や労働条件の見直し、場合によっては設備投資などが必要となります。しかし、助成金を活用すれば、これらの初期投資をカバーできる可能性があります。
しかも支給回数制限の撤廃により、段階的な制度改善を行いながら複数回の申請も可能です。
2. 人材確保・定着の効果
経験豊富なベテラン社員をそのまま活用できることは、採用コストや教育コストの削減につながります。また、技術やノウハウの伝承という観点からもシニア人材の継続雇用は有効です。
3.在職老齢年金改正との相乗効果
2026年4月の在職老齢年金改正により、高齢者の手取り収入が増えやすくなります。
企業が高齢者雇用制度を整備するタイミングとしては最適といえます。助成金と年金改正を最大限に活かすことで、企業と従業員の双方にメリットをもたらす制度設計が可能です。
まとめ
第1部では、2026年度に改正された「65歳超雇用推進助成金」の制度概要と、その背景にある労働力不足や高齢者の就労意欲の高まり、年金改正といった要因を整理しました。
国が高齢者雇用を後押しする今、経営者にとっては財務面と人材確保の両面でメリットがあります。しかし、助成金を受給するだけでなく、実際に高齢者が活躍できる職場環境を整備することが重要です。
第2部では、この助成金拡充が企業の財務面と労務面にどのような影響を与えるのか、そして中小企業が直面する課題について整理します。



