TOEICブーム

グレン・ブラウン

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テーマ:副校長の部屋

先日、非常に面白い本を読み終えました。「なぜ、勉強しても出世できないのか?」(佐藤留美 ソフトバンク新書)副題は「いま求められる『脱スキル』の仕事術」となっています。まずタイトルからして衝撃的ですし、本の帯には赤字で「あなたのスキル、賞味期限は大丈夫!?」と踊っています。これが1973年生まれの女性に書かれたということで大いに期待して読み始めました。 彼女は時に過激に、刺激的に昨今の「お勉強」ブームを批判していきます。2000人以上のビジネスパーソンを取材してきた実績に裏づけされた鋭い観察眼は、40歳にして老練とさえ言えそうです。

彼女は90年代後半の「スキルアップ教」を煽ったライターの一人として疑念を抱いていると言います。それがこの本を書いたきっかけだそうです。「スキルアップ教」とは彼女によれば、2000年前後に「これからは個人のスキルで勝負する時代」「巨大組織を捨て、今こそ転職すべし」と若者達が熱狂した現象です。大企業を辞め、ベンチャーや外資に流れ、資格を取ってスキルアップした若者達は現在どうなったのか。という疑問から、「スキルアップのウソ」「スキルアップに振り回される人々」へと続きます。

佐藤氏は、社内ベンチャー、女性起業家ブーム、MBA取得、各種キャリアアップセミナーなどと並べてTOEICについても容赦なく批判します。以下、本文より抜粋します。

「なぜ、日本人はこれほどTOEICを受験するのか?それは極端に言えば、スコア次第で人生が左右されてしまうからだ」「ここまでド根性を発揮するのは、『TOEIC700点以上にあらずば人にあらず』と言わんばかりのトップのアナウンスが徹底しているからだ」「TOEIC重視の日本企業は、英語能力を測る手段が目的化していないか?」

ここまではっきりとTOEICスコアの実用性を疑問視した文章を私はあまり知りません。しかし、これは実は私が密かに考えたことと同じなのです。私は3年ほど前まで、長年にわたり大学や専門学校でTOEIC受験コースを担当していました。スコアアップが必要な受講生のお役に立てたと自負しています。しかし、同時に疑問も抱いています。なぜなら、TOEICスコアのアップが英語力のアップに等しい訳ではないことを私は経験から知っているからです。

言うまでもないことですが、TOEICはビジネスシーンでのコミュニケーション能力を測るためのテストです。従ってTOEFLとは違い、語彙も会話のシーンも読解の内容もビジネスに関連したものばかりです。つまり、範囲が限定されるので、勉強がしやすいのです。加えて、過去の問題を分析して頻出問題ばかりを解いて暗記すれば、短期間でかなりの高得点が得られます。私が担当したTOEICスコアアップ講座では、18時間受講後のスコアが最高で300点アップした方がありました。受講前に500点未満だったのが、800点近くになったのです。

確かにリスニング力は伸びます。語彙力も、ビジネスに良く使われる単語限定ですが、暗記すれば伸びます。しかし、インプットは可能でもアウトプットはまた別問題だという事は皆さんよくご存知でしょう。佐藤氏の本に登場する経営共創基盤パートナーの塩野誠氏によると「(TOEICは)スピーキング軽視で簡単すぎるから、高得点者でも喋れる人は少ない。実際、うちに面接に来るのはTOEIC800点以上の人ばかりですが、『じゃあ、英語でサブプライムローンの仕組みについて解説してください』と投げかけると、100人中10人もできませんからね」ということです。その通り、私のクラスにはTOEIC700点以上保持者が大勢いらっしゃいますが、スピーキングやライティングとなると、本当に大変です。

TOEICテストの勉強をするなとは申しません。しかし、ビジネス英語に必要なものは何なのか、どうすればグローバルビジネスに真に役立つ英語が身につくのか、それを合わせて考える時が来ているのではないでしょうか。どうしても客観的に英語能力を測る指標となるテストが必要であるなら、私はTOEIC SW(スピーキング・ライティング)テストをお薦めします。その理由については、合わせてこちらもお読みください。
http://mbp-japan.com/hyogo/kobebs/column/31450/


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