子育ては禅問答。 師匠は子ども、親は弟子。

長谷川満

長谷川満

 禅宗では、弟子に悟りを得させるために時に『公案』というものを授けます。

 この公案というものは
 「父母が生まれる以前、お前自身はどこにおったのじゃ?」
 という答えようのない不合理な問題を師匠から与えられ、
 弟子はこの公案を解くべく座禅をします。
 そして、その自らの見解(答え)を師匠に示さねばなりません。
 これを参禅とか独参と言います。
 参禅(独参)は師匠と1対1で向き合い、問答を通してその見解を示すのですが、
 大抵はその浅はかな見解はきっぱりとはねつけられます。

 例えば師匠が弟子の面前で急に大きな拍手をします。

 「右手か左手か、どちらが鳴った?」

 「左」と言えば「このたわけが!」と面罵され、

 「右」と言えば「馬鹿者!」と一喝され、

 「右手と左手がぶつかることによって音が出ます」と言おうものなら
 「お前はそれでも修行者か!」と蹴り倒され、

 とにかく何を言ってもダメで、罵倒されるわ、蹴り倒されるわ、修行者はだんだん窮地に追い詰められます。
 何を言ってもはねつけられ、面罵されるので、修行者はだんだんと参禅することが苦痛になってきます。
 しまいにはどうしても参禅したくないものですから、自室に引きこもろうとしますが、他の修行者に引っ張り出され、師匠の部屋に放り込まれます。

 この公案にはもともと合理的な答えなどありません。
 しかしこの公案に知性ではなく、全身全霊で取り組むことによって、絶体絶命の窮地に追い込まれることによって、「破られるもの」があるのです。迷いが破られ、悟りを開くというような何かがそこにあります。
 それは死ぬか生きるか、ギリギリの所まで追い込まれて「大死一番」崖から飛び降りるような心境、そのようなところをくぐり抜けたところに開かれる心境。それは一つの生まれ変わりと言ってもいいのかもしれません。

 



 そういったものを得るために禅僧たちは公案を授けられ、必死でそれに取り組むのです。

 僕は子育てにおける問題というのは、この公案と一緒ではないかと思うのです。

 不登校にしろ、他の問題にしろ、時に子どもの問題はそれを解決できるような合理的な方法なんてないように思える時があるのです。
 もちろん一部の問題は、適切な対処によってうまくいくこともあるでしょう。
 でも、親御さんが本当に悩まれている時、いろいろと試してもうまくいかなかった時、
 これは本当に公案と同じなんですね。

 不登校になっている子どもが師匠なんです。
 親は修行者で、いろいろと自分の答え(不登校に対する様々な対処)を示しますが、
 どれもはねつけられます。
 頭で考えたような答えではなく、もっと全身全霊で以って「これが私だ」というものを出さなければなりません。
 窮地に追い詰められてギリギリの中で自分の真実を出さなければなりません。
 それは一体どういうことなのか?
 それは誰かが言葉で教えられるものではありません。
 
 「もう、学校に行かなくてもいいよ」
 という一言かもしれない。
 
 でも、それを言えば不登校が治るというものではないし、登校を期待した気持ちで伝えたところで師匠には一発で見抜かれて「喝!」が飛んでくるに違いありません。

 この公案を以って修行することで、私たちは親としても人間としても磨かれ、気づき、成長していくのだと思います。

 思えば人生で出会う問題はどれも合理的な答えなどなく、「さあ、本当のお前を出してみよ」と公案を授けられているのかもしれません。






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長谷川満(家庭教師)

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発達障がいや不登校の子の意欲を引き出すには自己肯定感を高める必要があります。その子のありのままを受容し、信頼関係を築き、成功体験と褒め言葉で自信と意欲を引き出します。

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