植物も人も適材適所
紅葉の季節になると、
観光名所が大変なことになる。
駐車場は満車。
道路は渋滞。
撮影スポットには行列。
今だけ限定の秋の彩り。
それを楽しみに来たはず。
……なのに、周囲は人間の大群。
もはや紅葉狩りというより、
秋の人口密集地調査。
ようやく撮影場所にたどり着いても、
前の人がなかなか動かない。
紅葉との個別面談、
予約時間を過ぎております。
……次の方、どうぞ。
行列はあちらです。
名所にならない幸せ。
ふと思う。
有名な紅葉スポットに行かなくても、
身近なところに見事な景色がある。
近所の畑に、ひっそり立つ一本の銀杏。
誰も写真を撮りに来ない。
誰も順番を待たない。
誰も「映える角度」を探さない。
ただ、そこに立っている。
銀杏の木にしてみれば、
ずいぶん平和な環境。
有名になることが、
必ずしも幸せとは限らない。
銀杏も、
うっかり観光名所に選ばれたら、
毎日カメラを向けられる生活が始まる。
穴場の情報漏洩担当。
ただ、ここで少し気になることがある。
こういう穴場の話は、
誰かに教えたくなる。
「実は、こんな素敵な場所があるんですよ」
とSNSに投稿する。
それを見た人が行き、写真を撮り、
また誰かに紹介する。
やがて人が集まり、
駐車場ができ、
案内板が立ち、
観光スポットになる。
……穴場を紹介した結果、穴場が消滅する。
秘密の場所を守るどころか、全世界に情報を流す。
本人は親切のつもりでも、
結果は立派な情報漏洩。
しかも、悪意はない。
……むしろ善意だから厄介。
穴場の情報漏洩担当、今日も元気に勤務中。
静けさにも、定員がある。
もちろん、
たくさんの人に知ってもらうことで、
地域が活性化することもある。
観光客が増えれば、お店も潤う。
地域にとっては嬉しいことも多い。
ただ、
静けさを楽しむ場所まで、
全部が有名になる必要はないと思う。
誰にも知られていない景色。
通りすがりに見つけた一本の木。
毎年、同じ場所で色づく銀杏。
そんな景色が、
誰かの観光計画に組み込まれずに残っていてもいい。
何でもかんでも情報発信すればいいというものでもない。
世の中には、宣伝しないことで守られる価値もある。
そう考えると、
名もない場所で静かに立っている銀杏は、
なかなか賢いのかもしれない。
有名にならず、行列も作らず、
静かに紅葉を楽しませている。
もっとも、
銀杏の側からすれば、
こちらが勝手に感動しているだけ。
銀杏は、紅葉するだけで忙しい。
そう、自然界にだって、
業務範囲というものがあるのです。
ところが世の中には、
誰かが騒いで持て囃すと、
急に価値が上がったように見えるものがある。
最初は誰も見向きもしなかったのに、
数人が「すごい!」と言い始めると、
いつの間にか大人気。
サクラまで用意して、
人気の演出に余念がない。
……桜なら、今は紅葉の季節なんですけど。
人気があるから価値があるのか。
価値があるように見せるから、人気が出るのか。
どうやら、紅葉を楽しむにも、
世間の評判を気にする時代らしい。



