「あなたのため」という言葉の心理:ちょっと怖い深堀り
最近の家電は、よくしゃべる。
「電源が入りました」
「お手入れの時期です」
「電池が消耗しています」
頼んでもいないのに、あれこれ教えてくれる。
昔の家電は、黙って仕事をしていた。
今は違う。
仕事をするだけでは足りないらしい。
情報提供までしてくれる。
……ありがたい。
キッチンに、発言者不明の声が響く。
朝、身支度をしていると、
突然キッチンから声がした。
「電池が消耗しています。交換してください」
……今のだれ?
エアコンじゃない。
めったに聞かない声。
しかも、どこから聞こえたのか分からない。
電池を交換すればいいのは分かった。
……で、どなた?
湯沸かし器?
ガス台?
炊飯器?
オーブン?
報知器?
アレクサ?
インターホン?
キッチン周辺を見回しても、犯人が分からない。
用件は分かった。
発言者が分からない。
これでは、捜査が進まない。
家電が増えた結果、我が家では音声による身元確認が必要になってしまった。
全員、まず名乗ってください。
考えてみれば、ずいぶん不思議な話。
便利にするために音声機能を搭載したはずなのに、
こちらは家中を見回して発言者を探している。
しかも、電池が消耗しているという情報だけは、妙に堂々としている。
誰が言ったかは知らないが、
交換しろという指示だけは明確。
ずいぶん強気な匿名希望。
これから先、家電がもっと賢くなったら、どうなるのだろう。
「お手入れしてください」
「フィルターを交換してください」
「そろそろ買い替え時期です」
そのうち、家電同士で情報共有まで始めるかもしれない。
「隣の冷蔵庫さん、最近ちょっと冷えが悪いらしいですよ」
とか言い出すのだろうか?
便利さにも、身元確認を。
音声で知らせてくれる機能は便利だと思う。
ただ、しゃべるなら、せめて最初に名乗ってほしい。
「こちら、ガスコンロです」
「炊飯器です。電池交換をお願いします」
それだけで、ずいぶん助かる。
家電がしゃべる時代になった。
次に必要なのは、音声認識の精度向上ではない。
〝発言者の名札〟
……とはいえ、よくしゃべるはずのスマホ。
家の中で行方不明になっても、黙ったまま。
こっちは必死に探しているのに、本人は知らん顔。
GPS機能を使うまでもない。
さっきまで持ってたよね私。
しゃべる機能を、そっちに付けてほしい。
電池の残量を知らせる前に、
まず自分の名を名乗ってくれ。



