うつ療養中の過ごし方 ③うつ療養の現実
精神疾患を抱えると、生活リズムが崩れやすくなります。
その中でも特に多い悩みが「昼夜逆転」。夜眠れず、昼間に寝てしまうサイクルが続くと、体調や気力の回復が進まず、社会復帰が遠のいてしまいます。
しかし、この状況は決して本人の怠惰が原因ではありません。
この記事では、昼夜逆転が起きる理由と、生活リズムを改善するための具体的な方法、そして家族がどのようにサポートすれば良いのかについて解説します。
少しずつできることから始めて、回復への道を一緒に歩んでいきましょう。
1.なぜ昼夜が逆転してしまうのか
精神疾患になると、まず最初に阻害されるのが睡眠です。
布団に入っても寝付けない、寝られたと思っても途中で目が覚めてすぐに眠れない、異常に早く目が覚めてしまう。
そうなると睡眠が不十分なので、日中眠くなります。
そうでなくても精神疾患は疲労度が高く体力が落ちるので、横にならざるを得なくなります。そうすれば寝ちゃいます。昼間寝てしまうと夜眠れないのは当然ですよね。
健康な人が週末に夜更かしして、平日に向けて無理をしてリズムを戻すようなことは、精神疾患の方には出来ません。
なぜかと言うと、無理をして調整しなくてはいけない理由が無いからです。
「明日絶対に9時に出社しなきゃいけない」という理由と、「○ヶ月後に体調を戻して復帰できるようにする」だと、どちらのほうが切迫感があるか、というと前者ですよね。
うつ療養していると昼夜逆転してしまうのは、
- 睡眠障害
- 昼間起きているだけの体力が無い
- 無理をしてリズムを戻す必然性を感じ辛い
ことが主な理由でしょう。
といっても、生活リズムが昼夜逆転しているといつまでも体調も体力も戻らず、社会復帰も遠いままです。
昼型生活に戻すためにはどうすればいいでしょうか。
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2.生活リズムを整えるための5ステップ
①朝の光を浴びる
夜型生活が続くと体調が悪いのは、体内時計が狂ってしまうせいです。
朝日を浴びることは、体内時計をリセットする効果があります。
更に「朝起きて太陽の光を浴びる」という目的を持つことで、朝起きる習慣をつけることが出来ます。
具体的な方法は次の通りです。
◆朝起きたらカーテンを開けて自然光を取り入れる
◆起きて2時間以内、30分以上を心がける
天候に関係なく、外に出て散歩をすることで体内時計をリセット出来ます
②就寝・起床時間を徐々にシフトする
うつ病になる人は根が真面目な方が多いです。真面目なだけに一気に状況を変えようとします。
ずっと朝5時に眠くなる生活をしていたのに、いきなり会社に勤務するのと同じ生活をしようとします。
しかし体のほうが心について行かず、また状態が悪化します。準備不足だっただけなのですが、本人は自信とやる気を一気に失ってしまいかねません。
いきなり正常なリズムに戻そうとせず、毎日15〜30分ずつ調整していくことをお勧めします。
③朝のルーティンを作る
先ほどもお話したように、朝起きられないのは起きる理由が無いからです。
本人が「そういう理由なら起きる」と思える予定・ルーティンを作りましょう。
ポイントは「本人が決める」ことです。
家族が決めるほうが手っ取り早いのですが、それだとどうしても「やらされている感」が強まります。そうすると長続きしないし、うまく行かない時に家族に責任を求める可能性もあります。
④食事のタイミングを整える
食事は生活リズムを整えるために非常に有効です。特に朝食は体を活動モードに切り替える役目があります。
また、食事をとる時間帯を一定にすることで、それ以外の予定を立てやすくなります。昼食の時間を毎日12時からに固定すると、その前後で寝てしまうことも減るでしょう。
夕食の時間を工夫することで、睡眠の質を守ることも出来ます。抗うつ薬などメンタルな薬を飲んでいる方はアルコールは控えたほうがよく、もちろん夜の時間帯のカフェん摂取もNGです。それも食事のルールとして組み込むと良いでしょう。
⑤適度な運動
適度な運動が健康に良いのは周知の事実です。しかし分かっていても十分に出来ていない方は多いです。
健康な人でもそうなのに、うつ病の人が適度な運動をすぐに生活に取り入れることは難しいでしょう。運動出来るようになった、と言う状態が、一つの回復度合いを表わしていると考えるほうが自然です。
ただ、それでも可能なところで体を動かすことで、体力を使い疲れを感じることが夜の睡眠を促しやすくなります。
外へ出て行う運動は、「外へ出る」ことがまずハードルとなってしまうので、家の中で出来ることから始めましょう。
◆ストレッチルーティン(5分間)
朝起きてすぐ、または昼間に体をほぐすストレッチを取り入れます。例えば
・肩回し、背伸び、体側のストレッチ。
・下半身のストレッチ(太ももの裏、ふくらはぎなど)
◆自宅でできる簡単筋トレ(5~10分)
・椅子を使ったスクワット。
・かかとを上げ下げするカーフレイズ。
・壁を使った腕立て伏せ(ウォールプッシュアップ)
3.家族ができるサポートとは
こうした取り組みを行うために、家族が出来ることは以下の4つです。
①スケジュール作りの協力
本人に全てを考えてもらおうとすると、絶対無理!と言う無茶な計画を立てるか、いつまでも何もしないかのいずれかになりがちです。
主導権は本人が握るとして、家族が一緒に考えることでモチベーションが高まります。
②励ましと共感
ずっと好きに過ごしていたところに「生活リズムを整えたほうがいい」と言われると、必要性は分かっていても突き放されたような孤独感を感じかねません。
そして生活リズムを変えるのは、意外と負担が大きいです。なぜなら「変え続けなければいけない」からです。
常に100点を目指そうとする恐れもあるので、「頑張りすぎなくていいよ」「少しずつで大丈夫」と優しく声をかけることが必要です。
③ペースを尊重する
生活リズムを戻すにはどうしても時間がかかります。途中でくじけて放り出すこともあるでしょう。でもそれも「想定内」です。生活改善がトントン拍子に進むなら、ご家族もここまで悩むことも無かったでしょう。
時間がかかって当然、たまにサボったりやる気をなくすのも当然、と理解して急かさず寄り添いましょう。
④褒める姿勢を忘れない
生活リズムを変えるのはとっても難しいです。特に病気がきっかけで崩れた場合は特にそうです。
小さい取り組みでも続けてもらうことが一番大事です。そのために、小さな前進でも「すごいね」「よく頑張った」と認めて褒めることを忘れないでください。
4.サポートする際の注意点
①プレッシャーを与えない
言うまでも無いですが、「早く戻さないとダメ」といった追い詰めるような言葉は避けましょう。
復帰時期が決まっているとどうしても焦りますが、焦っても100%失敗します。どっちにしても復帰時期がずれるなら、焦らせないほうが結果近道になります。
②専門的な助言を尊重
療養生活からリハビリに転換するのは、実はとても難しい取り組みです。
復職支援プログラム(リワークプログラム)もあるほどです。
また、どのタイミングで取り組み始めたらいいか、は、主治医の意見を聞くことも大事です。
その際に主治医やカウンセラーからアドバイスがあった場合は、それを尊重することも覚えておきましょう。
③家族自身のストレス管理
ずっと夜型生活をしていた人を朝型・昼型に戻すのは、家族にとって大きな負担です。特に家庭内で取り組むことは「家族が何とかしなければ」と抱え込みがちになります。
先ほどもお話しましたが、生活リズムの改善は決して簡単な問題ではありません。これくらいも出来ないのか、のような見方を、自分にも本人にも向けないことが大事です。
その上で家族自身のセルフケア、リフレッシュも忘れないようにしましょう。
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5.実践例:こんな風にサポートしてみよう
①一緒に朝日を浴びる
【事例】
朝起きたら、カーテンを開けて一緒に外に出てみましょう。近所を10分ほど散歩するだけでも、自然光を浴びる効果で体内時計がリセットされます。
雨の日や外に出られない場合は、窓際で日光浴をするか、光療法用のライトを活用する方法もあります。
【家族の関わり方】
「一緒に散歩しない?」と軽く誘う形で、本人に無理をさせずに始めてみましょう。散歩中は無理に会話をせず、相手が気楽にいられる空気感を作ることが大切です。
②家族でのリラックス時間を作る
【事例】
夜の時間に家族全員でゆっくりできる活動を取り入れてみましょう。
・簡単なボードゲームやカードゲーム
・好きな映画やアニメを見る
・一緒にお茶を飲みながら雑談する
・リラックスできる音楽を聴く
【家族の関わり方】
この時間は、家族が安心感を持てるような雰囲気を作ることが大切です。
例:「今日は早めにお茶にしようか?」と声をかけるなど、自然な流れで時間を共有しましょう。
③本人が前向きになれる工夫
【事例】
本人の興味や関心があることを見つけ、それを日常に取り入れるサポートを行います。
・趣味を一緒に見つける:手芸、パズル、絵を描くなど簡単な活動。
・成功体験を作る:達成感を得られる家事(簡単な料理、洗濯物を畳む)を一緒に行う。
・小さな目標設定:「今日は散歩を5分頑張ろう」など無理のない範囲での目標
【家族の関わり方】
本人がやったことをしっかり褒めることが大事です。「すごいね、これうまくできたね」といったポジティブなフィードバックを心がけましょう。
また、結果がうまくいかなかったとしても、「やろうとしたこと自体が素晴らしい」と伝えると自信を失わずに済みます。
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6.まとめ
昼夜逆転は精神疾患の療養中によく見られる症状であり、決して本人の意思の弱さが原因ではありません。
この状況を改善するためには、焦らず、少しずつ生活リズムを整えていくことが大切です。
朝日を浴びる、無理のない運動を取り入れる、食事の時間を固定するなど、日常の中で少しずつできる工夫が回復の大きな一歩となります。
また、家族ができるサポートも重要です。
本人が無理をせず自分のペースで取り組めるように寄り添い、励まし、進歩を認めてあげることが、回復を後押しします。
何よりも大切なのは、本人も家族も「完璧を求めすぎない」こと。小さな成功を積み重ねながら、ゆっくりと前に進むことを目指しましょう。
この記事が、昼夜逆転に悩む方々やその家族にとって少しでも役立つ道しるべとなれば幸いです。
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