持続可能な「うつ病療養と見守り」
家族やパートナーがうつ病を患っている場合、支える側には大きな負担がかかります。
相手への思いやりから自然とサポートに徹することが多いですが、無理を重ねることで「共倒れ」のリスクが増してしまいます。
相手の苦しみに寄り添い、日々を共に乗り越えたいと感じる一方で、支える側も自分の健康を守ることが大切です。
特に情緒的・経済的な負担や、過度な共感による疲弊、そして責任感からくる自己犠牲が積み重なると、気づかないうちに心身ともに追い詰められてしまうことがあります。
本コラムでは、支える側が心身を保ちながら支援を続けていくための「共倒れ防止策」について解説し、無理なく長期的なサポートを可能にするための具体的な方法を紹介します。
1.共倒れリスクはすぐ近くにある
①情緒的・経済的な負担
◆情緒的負担
パートナーがうつ病になると、支える側は感情的な負担を感じやすくなります。
例えば以下のようなケースが考えられます。
感情の巻き込まれ:
人には近くにいる人の感情に共鳴する能力があります。パートナーの落ち込んだ気分や悲しみを間近で感じ続けることで、支える側も無意識に同じような感情を抱いてしまうことが多いです。
孤独感や無力感:
パートナーの状態を良くしたいと思っても簡単にはいきません。工夫してやってみて、でも効果を感じられないと無力感にさいなまれ、「支えたいけれど、自分も限界だ」という孤独を感じやすいです。
◆経済的負担
特に今まで家庭の収入の大半を担っていた人が病気になったら、必ず家計は打撃を受けるでしょう。今日明日という問題ではなくても、いつ終わるか分からないうつ療養を考えれば不安にならないはずがありません。
収入の減少:
パートナーが仕事を続けられなくなった場合、家計の負担が増します。
医療費の増加:
精神科の受診や薬、カウンセリングの費用が増えます。
家計を切り詰めるとしたら、それは生活そのものを変える必要が出てきます。変化に対応することへの負荷もかかるでしょう。
②感情の共有や過度な共感から生じる影響
パートナーを支えたい一心で感情を共有しすぎたり、過度に共感してしまうと、支える側の負担が過大になります。自分自身の生活から生じる感情とストレスもあるのですから、個の負担も二倍になってしまうのです。
過度な共鳴の影響
うつ患者の気持ちに引っ張られ過ぎると、支える家族側の感情も不安定になることがあります。相手の感情が重く感じられると、支える側も「自分も同じように辛い」と無意識に感じ、気分が落ち込んでしまうことが増えます。
感情の共有がもたらす疲労
パートナーの辛さに寄り添いすぎると、支える側のエネルギーが消耗しやすくなります。やがて、自分自身の心も疲れてしまい、回復力が低下して「共倒れ」に繋がりやすくなるのです。
③ケア役割への責任感や自己犠牲の増大
パートナーを支えるための責任感が強すぎると、自分の生活や健康を犠牲にしがちです。実感している方も多いのではないでしょうか。
責任感の増大
「自分が支えないとパートナーがもっと悪化するかもしれない」というプレッシャーを感じ、すべての負担を一人で抱え込んでしまうことがあります。
自己犠牲の増加
休みを取ったり、リフレッシュする時間を確保できないことも多く、支える側が心身共に疲弊していきます。また、自己犠牲が続くと、支えられなくなる可能性もあります。
自己犠牲が行き過ぎると不満を感じやすくなり、その矛先がうつパートナーへ向かいがちです。
≪参考情報≫
うつ病と共に歩む:離婚という選択肢をどう考えるか(note)
2.家族が出来ること①ー一人で背負い込まない
うつ病のパートナーを支えるとき、多くの人が「自分が支えないといけない」と強い責任感を抱きがちです。
しかし、サポートを一人で背負い込むことは、自分の心身の健康を損ね、結果的に「共倒れ」を招きかねません。
そのため、一人で抱え込まないような工夫が必要です。
他のサポートを活用する:
家族や友人、サポートグループに協力をお願いすることが大切です。こうしたサポートがあると、自分が追い詰められずに支援を続けられる可能性が高まります。
専門家の力を借りる:
心理カウンセラーや医師など、専門家に頼ることも一つの方法です。うつ病へのサポートには専門的な知識が役立つため、定期的にプロからアドバイスを受けると負担を軽減できることが多いです。
一人で全部を抱え込もうとせず、周囲やプロの力を頼ることが、共倒れを防ぐための重要なポイントです。
3.家族が出来ること②-相手に巻き込まれない
うつ病のパートナーに寄り添うことは大切ですが、相手の感情や状態に過度に巻き込まれると、支える側も心理的に不安定になりやすくなります。
そのため、適切な距離感を持ち、自分も心を守ることが必要です。
共感しすぎず、冷静な視点を持つ:
パートナーの気持ちに寄り添うことは大切ですが、あまりにも深く共感しすぎると、自分自身が感情的に揺さぶられ、ストレスや不安を感じやすくなります。支える側も「自分は自分」と自分の気持ちを意識することで、冷静な視点を持ってサポートできるようになります。
「自分の時間」を作る:
パートナーに付き添う時間だけでなく、自分だけの時間も定期的に確保することが大切です。趣味やリフレッシュ活動を取り入れることで、心の健康を維持でき、支援を続けやすくなります。
うつ病の症状には波があります。相手が辛い時でも、支える側が常に冷静でいられるように、自分もバランスを意識しながらサポートすることが重要です。
4.家族が出来ること③-心理的な距離を守る
パートナーがうつ病の場合、支える側も「どうにかして助けたい」「自分が頑張らないといけない」という思いで心理的に近づきすぎてしまうことがあります。
しかし、過度に近づきすぎると支える側も消耗してしまい、「共倒れ」のリスクが高まります。
そのため、心理的な距離を適切に確保することが大切です。
相手の課題と自分の課題を分ける:
支える側も「自分がどうにかしないと」というプレッシャーを感じやすいですが、相手の課題と自分の課題は分けて考えることが大切です。うつ病は支える側が解決できるものではないため、専門的なサポートも必要になります。自分ができる範囲で支援を行い、それ以上は無理をしないと決めることが、共倒れを防ぐ一歩です。
境界線を意識する:
「自分は支える役割だが、相手の人生をすべて背負うことはできない」という境界線を意識することで、自分の負担を軽減できます。
例えば「今日はここまで関わる」というルールを自分の中で設定することで、心理的に保護されることが多いです。
心理的距離を保つことで、支える側が健康を維持しながら、長期的にサポートを続けられるようになります。
5.共倒れ防止策を実施するときに気を付けること 5つ
①自分の限界を知る
うつ病家族を支えたい気持ちがあっても、自分自身の体力やメンタルに無理がかかりすぎないようにすることが大切です。
体調管理を優先する:
自分の健康状態が悪化すると、家族を支えることも難しくなります。
十分な睡眠やバランスの取れた食事、適度な運動など、日常の健康管理を意識しましょう。
無理せず助けを求める:
自分が疲れていると感じた時には、身近な人や医療・福祉サービスに支援を求めましょう。「自分が倒れたら意味がない」という意識を持つと、サポートを頼むことへの罪悪感が軽減しやすくなります。
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②境界線をしっかり持つ
境界線(バウンダリー)を明確にすることは、支える側が自分のエネルギーを保つうえで重要です。
必要以上に責任を感じると、うつ病家族の気持ちや状況に飲み込まれやすくなります。
感情を分ける練習:
支える側も感情的な揺れを防ぐために「パートナーの感情」と「自分の感情」を分ける意識を持つと、冷静に対応しやすくなります。
日記やジャーナリングを通して、自分の気持ちを整理するのも役立ちます。
限度を決める:
どんな内容・範囲でケアするのか、を、自分の中で定めることも効果的です。
例えば「夕食後は自分の時間を持つ」といった小さなルールを設けるだけでも、自分を守る大きな支えとなります。
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③専門家の助けを活用する
支える側だけでは解決が難しいこともあります。
定期的に専門家や経験者のサポートを得ることで、適切な支援方法を学ぶことができます。
カウンセリングやサポートグループ:
自分自身もカウンセリングを受けたり、同じ立場の人と交流できるサポートグループに参加したりすることで、孤独感が軽減されます。
他の人のサポート方法を学ぶこともでき、支援の負担感を分かち合えます。
精神科医や福祉の専門家の意見を仰ぐ:
パートナーの状態が悪化したと感じたら、速やかに精神科医や福祉の専門家のアドバイスを求めましょう。
専門家のサポートは、それだけで安心感につながります。
④自分の時間を積極的に持つ
支える側も自分を大切にし、リフレッシュを定期的に行うことが大切です。
自分の好きなことや楽しみを取り入れることで、長期的なサポートが可能になります。
リフレッシュ計画を立てる:
気分転換できる時間や場所を意識的にスケジュールに組み込みましょう。
映画を観る、趣味に打ち込む、自然に触れるといった「自分の時間」を持つことで、気持ちがリフレッシュされ、支援にも前向きに取り組めるようになります。
「自分ファースト」の考えを持つ:
支える側が健康でいることで、パートナーへのサポートも質が保たれると意識しましょう。
「自分も大切にする」ことが結果的に二人のためになるという考えを持つと、自分の時間を大事にしやすくなります。
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⑤小さな変化を見逃さない
うつ病家族の状態や自分のメンタルには常に変化があります。
小さな変化に気づき、その都度対応できるようにしておくと、大きな問題になる前に対処しやすくなります。
定期的に状況を見直す:
パートナーの症状や自分の心の状態について、日記やメモをつけてみましょう。定期的に見返すことで、変化や負担が蓄積される前に対処できるようになります。
コミュニケーションを大切にする
お互いに気持ちを話し合える時間を持ち、小さな変化にも気づきやすくしましょう。
支える側も感じていることを伝えることで、共倒れを避けやすくなります。
自分の気持ちを伝えるときは「私は~」で始まるアイメッセージを活用しましょう。
6.まとめ
うつ病のパートナーを支える際に「共倒れ」を防ぐためには、まず自分自身の限界を理解し、無理をしないことが重要です。
支える側が倒れてしまっては、結果としてパートナーの支援も続けられなくなります。
そのため、自分の時間を確保し、感情的な距離感を保ちながら、必要に応じて専門家の力を借りることが大切です。
また、支える役割を一人で抱え込まず、他者のサポートを受けることが負担軽減に繋がります。
最終的に、支える側も健康を保ち、長く寄り添うことができるように、少しずつでも無理をせず、適切なケアを心がけることが「共倒れ」を防ぐための鍵となるでしょう。
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