揺れる心に安定を:デュアル・プロセスモデルの実践ガイド

テーマ:心が辛くなったとき

揺れる心に安定を:デュアル・プロセスモデルの実践ガイド

自分の中に反対の性質を持つ感情が同時に発生することがあります。アンビバレント、両面感情ともいいます。
どちらか一方に強く共鳴していると、もう一方を押し殺したり無視したりしてしまいます。
しかしどちらも自分にとって自然な感情です。特に大きな出来事が起きている時は感情を無視してはいけません。
今回は「デュアル・プロセスモデル」を元に、アンビバレント(相反する)感情への対処方法を考えます。


1.デュアル・プロセスモデルとは


①どんな考え方か


デュアル・プロセスモデルとは、日本語では「二重過程理論」と言います。
二つの反対の性質を持つ思考が、自分の中に同時に発生したときに、そのうちのどちらか一方だけを選ぶのではなく、二つを並行させ、バランスを保ちながら対応することで、相反する思考の間で生まれる葛藤・ストレスに対処する、という考え方です。

デュアル・プロセスモデルは、心理学において矛盾する感情や思考が同時に存在する状況を理解し、これに対処するための枠組みです。このモデルは、特に喪失や悲しみの状況において効果的とされていますが、広く他の心的葛藤にも適用できます。

②なぜ注目されているのか?


デュアル・プロセスモデルは、以下の点で注目されています。

まず、現実的で柔軟な取り組み方だから、という理由があります。
例えば「喪失体験」が代表的です。
死別や離別など、大切な人との関係が終わってしまったとき、大きな喪失感が襲います。この感情は無視するわけにはいきませんが、飲み込まれ過ぎると日常生活が遅れなくなります。
悲しみに十分に向き合う必要もあるし、日常生活を取り戻し心身の健康をケアする必要もあります。
どちらか一方だけに偏り過ぎると、喪失感情が十分にケアできず長く引きずってしまったり、逆に閉じこもり状態になってしまう恐れがあります。

デュアル・プロセスモデルは、相反する2つの思考プロセスの間を行き来してバランスを取りながら回復を目指します。

もう一つは自分のペースに合わせて進めることができる、という点です。
例えば、ある人が早く新しい生活に適応しようとする一方で、別の人は長く悲しみと向き合い続けるかもしれません。
このモデルは、両者のアプローチを同じように正しいものとして尊重します。
これにより、個別のニーズに対応しやすく、無理なく進むことができます。

また、デュアル・プロセスモデルは喪失体験に限定しません。
離婚、離別、失業、大きな環境変化など、人生の中で自分の思考や価値観が揺らぐような出来事が起き、それによって相反する思考・感情がせめぎ合っている状況に対応することが出来ます。

【画像①】

2.デュアル・プロセスモデルの基本的な考え方


①システム1


デュアルプロセスモデルは、主に2つのプロセスがあります。
1つ目が「システム1」です。他にも色んな呼び方があります。
こちらの特徴は、

  • 無意識の推論(直観、想像力、潜在意識)
  • 感情に結び付きやすい、勘
  • 自動的
  • 早い
  • ヒューリスティック


などがあります。
例えばヘビを見て怖いと瞬時に判断して逃げる、というのはこちらのシステムに分類されます。

【画像②】

②システム2


もう一つが「システム2」です。
こちらの特徴は

  • 熟考による推論
  • 感情とは結び付かない
  • コントロールされている
  • 時間がかかる
  • 理論的、理性的


という点です。
ヘビを見て一瞬「怖い!」と思うものの、こちらが何もしなければ襲ってこないから大丈夫、と判断し、ゆっくり遠ざかる選択をするのが「システム2」です

最初にお話した喪失体験の例で考えると、

システム1:あの人はもういない、悲しい、寂しい、私も生きていくのが辛い
システム2:辛いけれど他の家族や友人がいる、仕事もある。頑張って立ち直らなければ

と考える2パターンが同時並行で存在する、ということになります。

【画像③】

3.デュアル・プロセスモデルの特徴とメリット


①バランス重視


デュアル・プロセスモデルは、内的な葛藤に対して「システム1」と「システム2」という2つのシステムを行き来することを推奨します。
喪失体験で例えると、「ロス(喪失)」と「回復」の間を行き来するイメージです。
システム1(ロス)では悲しみや喪失の感情にしっかり向き合います。たくさん泣いて、思い出に浸る時間です。
システム2(回復)では、これからの生活や未来に向かって前進することに焦点を当てます。悲しみが強い時、前向きに物事を考えるためには論理的思考が必要です。そのため、回復過程ではシステム2が必要となるのです。

そしてこの2つを行ったり来たりします。
悲しみが十分に癒えてから未来を構築しよう、と考えると、「悲しみが癒えた」と判断出来るまでは日常が停滞します。現役世代には非現実的なプロセスと言えます。
また人によっては「癒えた」と判断することに罪悪感を覚える場合もあります。そうすると尚更未来の構築が遠のきます。

システム1とシステム2をバランスよく行き来することで、喪失の悲しみに押しつぶされることなく、現実生活にも適用しやすくなります。

②柔軟性の協調


デュアル・プロセスモデルは、個人が状況に応じて適切に喪失やネガティブ体験と向き合い、必要に応じて回復に向けた行動をとる柔軟なやり方です。
ステップ分けが限定されていないので、手順に縛られることなく、自分の感情や状況に合わせて対応できます。

システム1の本能的な感情と、システム2が生み出す理論的な展望を柔軟に行ったり来たりすることは、そのまま現実生活との統合を早めます。
悲しみから早く立ち直ろうと自分に強制することはしません。そして現実生活を維持するために必要な思考力も取り戻します。
これにより、悲しみに没入することなく、現実的な生活を続けることができ、結果的に喪失からの回復が促進されます。

4.デュアル・プロセスモデルのステップ


①今の感情・思考を認識する


まず、今自分が抱えている感情を知りましょう。
自分が今どんな感情・思考を持っているのか、を知るためには、ジャーナリングがおすすめです。

≪ジャーナリングの手順の手順≫

  1. ノートとペンを用意する
  2. 静かで落ち着ける環境に移動する
  3. 書くテーマを決める(例:今の自分の心の中)
  4. 書く時間を決めてタイマーをセットする(5分、10分など)
  5. 書き始める。タイマーが鳴るまで止めない
  6. 終わったら読み返す。絶対に他者に見せない


ジャーナリング結果を

システム1(直観的、感情と結びついた思考)
システム2(論理的、感情はそれほど反映されていない)

に分類します。

②システム1と向き合う方法を考える


直感的で感情と結びついたシステム1の対処方法を考えましょう。
例えば孤独感が高まって「自分はこれから一人で生きていかなければいけない」という思考が強くなっているとしたら、その気持ちを少しでも和らげてくれる要素を探しましょう。

故人・別れた人との思い出
それ以外の友人、家族との繋がり
自身の夢やライフワーク、趣味の存在

を振り返ります。

③システム2のための行動を模索する


もう一方のシステム2、つまり論理的でネガティブな感情はあまり入り込んでこない思考に沿った行動を考えます。

亡くなった親のために出来ることは何か
介護が終わって一人の時間が増えたことで何が出来るか
まずは今夜何を食べようか

と言ったことまで様々です。
すぐに取り掛かる者ではなくても、思いついたことを列記していきましょう。

④どちらか一方に偏らない


デュアル・プロセスモデルの核心は、システム1とシステム2の間でバランスを取ることです。
喪失体験で例えると、悲しみや孤独を強く感じるときと、「何かしなきゃ」と思い立つときの両方のどちらも見落とさない、ということです。

感情が高まったときはそれに寄り添い、立ち止まり、自分をケアする対処を行います。
行動を思い立ったら、その動機に忠実にアクションしましょう。

時には感情に深く向き合い、時には新しい挑戦をすることで、感情的な安定と成長を同時に促進します。

⑤新しい視点の確立


相反する性質の思考を行ったり来たりすることで、少しずつ両者が統合していきます。
その結果として、新しい視点を形成することがデュアル・プロセスモデルの目標です。

大切な人を失ったけれど、自分はこれからも生きていく。そのために過去を糧にして、今の自分がやりたいと思うことを実現していこう。

のようなイメージです。
これにより、葛藤を乗り越えて前向きに進む力が養われます。





5.事例:精神疾患を理由に失職した人がデュアル・プロセスモデルを活用して回復するまでのプロセス


【背景】
Aさん(仮名)は、長年勤めていた企業での過剰なストレスやプレッシャーから、うつ病を発症、精神的な負担が限界に達したため、やむを得ず会社を退職し、失職状態となりました。
この経験はAさんにとって大きな喪失感と無力感をもたらし、再び働けるかどうかに対する不安が強くなりました。

【デュアル・プロセスモデルの適用】
Aさんはカウンセリングを受ける中で、デュアル・プロセスモデルを取り入れたリカバリープランを実施することになりました。
このモデルを通して、Aさんは以下のプロセスを繰り返しながら回復への道を歩み始めました。


STEP1:システム1の対処=失ったものに向き合う

●失業への向き合い:
Aさんは、退職やキャリア喪失に対する悲しみや絶望感を感じる時間を意識的に持ちました。これには、失業後の無力感を日記に書き出すことや、感情を表現することが含まれました。
●自己反省:
失った仕事やキャリアに対する後悔や自己批判を、日記やカウンセリングで整理し、自分自身を責めすぎないように努めました。

STEP2:システム2に沿った行動=新しい生活に適応する

●新しい目標の設定:
Aさんは、回復の一環として、新しいスキルを習得するためのオンラインコースに参加しました。また、自分のペースで再就職に向けた活動を始め、少しずつ自信を取り戻すよう努めました。
●日常生活の再構築:
朝のルーティンを作り、運動や瞑想を取り入れた生活を送りながら、心身のバランスを整える努力を続けました。また、友人との交流や趣味に時間を費やし、社会的なつながりを維持しました。

STEP3:回復過程でのバランス調整

●感情の波との向き合い:
時折、Aさんは再び失業のショックや不安に襲われることがありましたが、その都度、システム1の対処方法を再度取り入れ、感情に向き合う時間を作りました。
●前進することの重要性:
一方で、システム2として、新しい職を探す活動を進めることで、未来に向けたポジティブなエネルギーを得るようにしました。このバランスが、Aさんの感情的な安定と回復を促進しました。

6.まとめ


①デュアル・プロセスモデルとは、相反する2つの思考を並行して対処することで葛藤を乗り越えるアプローチである
②デュアル・プロセスモデルは、直感的なシステム1と、論理的なシステム2の二つがある
③デュアルプロセスモデルの特徴は、バランス重視・柔軟性
④デュアルプロセスモデルのステップ 5つ
⑤事例で見るデュアル・プロセスモデル


人の体験は、ネガティブな面とポジティブな面の両方が混在します。どちらか一方に偏ることも、どちらかだけを優先させなければいけないことでもありません。
両方が必要で重要です。
デュアル・プロセスモデルは、何よりバランスを重視します。そして人の体験の個別性に合わせて進めることが出来ます。

非日常の体験により大きくメンタルバランスが損なわれた中で、日常→未来志向を手放さないために、デュアル・プロセスモデルは非常に現実的な手段と言えるでしょう。

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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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