シングルタスクのススメ
感情のコントロールが出来たらいいのに、と思うことはありませんか?
不安、悲しみ、怒り、焦り、恥。感じたくない感情に支配されるとその感情や思考は強くなる一方です。
色んな対処方法で日々乗り越えているでしょう。しかし効果があるのは一瞬ではないでしょうか。
感情をコントロールするのではなく、感情の本質を知り、自分自身まで支配されないコツをご紹介します。
1.感情のコントロールが難しいのはなぜか?
①感情と自分自身が融合して、分離できなくなっている
例えば強い怒りを感じている時を思い出しましょう。
体中に力が入って、頭に血が上っているのを実感します。顔は赤くなっているかもしれないし、手が小刻みに震えているかもしれない。
この時自分自身が「怒りの感情の化身」のようになっているかもしれません。
そうすると、怒りの感情が自分そのもののように錯覚してしまいます。
自分のプライドや尊厳と怒りの感情が混然一体となって、感情を否定することが出来なくなってしまいます。
同じことが、不安、悲しみ、恥ずかしさなどでも起こりえるでしょう。
②感情に覆いつくされて、他の要素や事実が見えなくなる
感情の根源は本能です。本能とは、本来自分の生命や安全を守るために備わっています。その本能が暴走すると、人は感情にがんじがらめになります。
自分の安全が脅かされるかもしれない状態なのですから、仕方がないとも言えます。
危機回避のためにアラートを出し続ける感情は、その人の思考を一瞬で覆いつくしてしまいます。
誰でも経験があると思いますが、強い感情、特にネガティブな感情に囚われると、その場にいるのに周囲の人の存在や音や声などが一切耳に入らなくなります。
そうすると、自分が囚われた感情と関係ない情報や相反する事実が目に入らなくなり、更に感情に支配される状態が続いてしまいます。
③行動まで制限され、感情以外の要素が生活から消えていく
感情は、状況や個人差はありますが、一定の時間が経過すれば弱まります。場合によっては消去されます。
ただし、感情そのものは鎮静化したとしても、その当時の恐怖や嫌悪感は記憶に残ります。
そのせいで『二度とあんな思いはしたくない』という決意を固めます。
そして当時の恐怖や嫌悪感を呼び起こしそうなリスクを避けた生活を送るようになります。
例えば特定の人や、その人に似たタイプの人には関わらないようにしたり、同じような経験をしそうな場所には行かなくなったりします。
リスク回避には役立つかもしれませんが、嫌な記憶を修正する機会を失ってしまうため、感情の支配はずっと続くことになります。
2.感情のコントロールのポイントは「自分との分離」
①×感情「から」事実を見る ⇒ ○感情「を」見る
感情に支配されているとき、自分自身はどのように状況を見ているでしょうか。
先ほどの「激怒り」している状態を想定してみましょう。
自分が激しく怒っている状態を起点にし、「怒っている自分」が周囲を見て理解・判断することになりますね。暗い色のサングラスをかけて外を見れば、外の景色が暗く見えるのと同じことです。
感情に支配されないためには、自分が強く感じている「感情を観察する」ようにしてみましょう。
怒っている自分はどんな状態でしょう。呼吸が荒く短くなっています。誰かと目が合うと怒鳴ってしまうかもしれないため下を向いています。しかし話しかけられても落ち着いて答えられず無視してしまいます。仕事をしようにも手が震えているのでパソコン操作が出来ません。
いきなり怒りを打ち消そうとするのでも、発散させようとするのでもなく、自分の状態を良い悪いを考えずじっくり観察しましょう。
②感情のレベルは時間と共に変化することを知っておく
理由はなんであれ、『自分は激しく怒っているのだ。まずはこの感情が少しでも弱まることを目指そう』と考えてみましょう。
感情は、発生⇒増強⇒衰退⇒消去、の流れで、一定の時間経つと弱まっていきます。
永遠ではないのです。それを知っておきましょう。
一番激しいのは、最初に感情が発生して、それを自覚したときです。いきなりボルテージが最高潮まで急上昇します。怒りもそうですが、悲しみ、ショック、不安、恐怖、恥ずかしさも同様です。
その最高潮のレベルはそう長続きしません。時間が経てば『ちょっと待てよ』と感情に歯止めをかけてくれる理性が登場します。
理性が働き始めれば、感情のままに暴走することは無くなります。これは普通に起きる流れです。ただ、感情が変化することを知らないで最高潮のまま自分の行動に反映させると引っ込みがつかなくなります。
時間が経てば感情は変化する、ということを知っておくことは、感情のコントロールにとても役に立ちます。
③感情は事実でも自分本体でもない、一時的な状態
感情は本能が出発点だ、と、先ほどお話しました。本能は自分を危険から守ることを第一に働きますからとても強力です。勢いもあります。
そのためつい、「感情=事実」「感情=自分自身」と錯覚してしまいます。そうすると感情に支配され、感情のコントロールなど到底無理になってしまいます。
感情は一時的な状態に過ぎません。時間が経てば変化します。感情を通じて事実や自分自身を解釈してしまうことはあるかもしれませんが、それは「絶対不変の真実」ではない、という認識を持っておきましょう。
3.感情の弱点を知る
①感情は消去・抵抗・否定に強い
感情をコントロールするのは難しいですよね。
それは、感情のコントロールをしたいと考えるのは、ネガティブ感情を消去したい、感じる自分に抵抗している、感情そのものを否定したい、という場合に多いからです。
感情は、消去・抵抗・否定しようとすると逆に増強されます。
そのことばかり考えてしまうからです。
よく使われるテストですが、『今から1分間、バナナについて考えないでください』と言われたらどうでしょうか。
バナナ、という単語やあの形、味、色を考えずに1分過ごすことはできるでしょうか。多分出来ません。
それと同じです。
特定の感情を、打ち消したい・押し殺したい・無いものにしよう、とすればするほど、アリ地獄のように巻き込まれて行ってしまいます。
②感情は受容・手放し・スルーすると弱くなる
反対に、受け容れて、手放して、スルーすると少しずつ、でも確実に弱まっていきます。
入口は「受容」です。難しいですよね。怒り・悲しみ・恐怖・不安を受け容れるとは、そう簡単にできることではありません。
いきなりやろうとしても、結局は消去や否定にすり替わってしまいます。ネガティブ感情を受容するためには普段からの準備が必要です。
感情を受容出来るための準備とは、「安心感」「自分への自信」「ストレスケア方法」です。
これを持っている人は、ネガティブ感情を抱えている自分を受け入れることが出来ます。
受け容れることで、ネガティブ感情が何を意味しているのかを分析出来ます。
そして「こうすればよかった、今後のためにこうしよう」という対策を見つけることが出来ます。
その対策は自分を危険から守るための対策です。対策が見つかれば感情は役目を終えるので、次第に弱まっていきます。
対策を見つけた自分は、感情を手放して、対策を実行するための行動に移ります。
気が付けばネガティブ感情そのものをスルー出来るようになっています。
③感情の後から理性的思考が追い付く
先ほども触れましたが、ショックな出来事が起きて感情が一気に急上昇して、しばらく経ってから理性的思考が登場します。
しばらく後、といっても数秒です。しかし感情に囚われているとその数秒がとても長く感じます。
待ちくたびれて、後からやって来た理性的思考の存在に気づかず、アラートを出しまくる感情にばかり囚われてしまいがちです。
しかし感情は必ず弱まっていきます。感情が弱まれば理性的思考の存在に気づきます。
その瞬間も、誰しも経験しています。所謂「引っ込みがつかない状態」です。
理性的思考が優位になるまで、じっと待ちましょう。それからどう行動するか考えましょう。
4.感情のコントロールに、感情は使わない
①感情に感情で立ち向かうのは昭和?
「○○なんて昭和かよ」とか「時代は令和なのに」という言い方、よく聞きますよね。
私も思いっきり昭和世代なのでよくわかります。あの頃と今とでは社会の仕組みも人の意識も大きく変化しました。良いことだと思います。
昭和の頃に常識のようにまかり通っていたのが「根性論」です。気合や根性で全て解決する、という考え方です。今となってはとんでもない理屈です。
しかし、感情のコントロールを「感情」を使って行おうとすることもまた、根性論と同じではないでしょうか。
感情は感情ではコントロール出来ません。
②無理なポジティブ志向はネガティブ感情を強める
ポジティブな状態はとても良い状態ですね。物事の良い面を捉えて、そこに意識を集中し、自分や周囲にとってメリットのある行動を取ることが出来ると、色んな面で良い影響が期待できます。
しかし辛さのど真ん中にいるときに、やみくもに「ポジティブになろう!」としても、それは無理があります。40度近い熱があるときに「身体に良いから散歩をしよう」としても無理ですよね。周囲も止めます。「元気になってからすればいいよ」というでしょう。それが正解です。
しかしメンタル面ではこれと同じような無茶を平気でしていないでしょうか。
自分の尊厳を傷つけられるような暴言を吐かれたのに、無理に「この経験にも意味があるんだ、あの人は私のために良かれと思って言ってくれたんだ、今後の関係性を考えれば感謝しなければいけないんだ」と考えるのは、前向きというより無謀です。
更に、ポジティブになろうとし過ぎることで、そうなれない自分に対して自信を失うことにもつながります。
今抱えているネガティブ感情だけでなく、別の面も被害を受けることになるのです。
③感情のコントロールは「行動」と「マインドフルネス」
先ほど「感情を感情でコントロールできない」とお話しました。
ではどうやってコントロールすればいいでしょうか。
まず1つ目は「行動」です。簡単に言えば「身体を動かす」ことです。
◆家事
◆仕事
◆散歩
◆ストレッチ、ヨガ
◆手作業
何でもいいです。頭以外の部位をメインで動かす作業に取り掛かりましょう。
時間が経てば自分の意識が感情から行動に集中し始めます。その間に感情はどんどん衰退していきます。
2つ目は「マインドフルネス」です。
マインドフルネスとは、「今、この瞬間」の自分自身に意識を向けることです。良い悪いも決めません。息をして、座って前を見て、もやもやする感情を持て余している自分をそのまま感じ取ることです。
マインドフルネスについての誤解の一つに「安心して気持ちが楽になることが目的」というものがありますが、これは違います。
マインドフルに今この瞬間の自分に意識を集中することで、結果として気持ちが楽になることもあります。あくまで結果です。目的ではありません。
「楽になりたい」と考えると、楽になることを邪魔する要素を「悪いもの」と判断して否定したり抑え込んだりします。それはマインドフルな状態ではなく、感情に囚われている状態です。
身体を使った行動を活用し、マインドフルに自分を観察することで、感情に支配されている状態から脱することが出来るようになります。
5.<エクササイズ>感情をコントロールしてみよう
①自分の生活の中で、手軽に取り掛かれる「行動」を選ぶ
日中会社で働いているか、家の中で家事や育児をしているか、学校にいるか、など、過ごし方は人それぞれです。
自分の生活パターンの中で、感情のコントロールに活用しやすい「行動」を予め探しておきましょう。
◆デスクの整理整頓
◆共有部分の掃除、片付け
◆洗濯物のアイロンがけ
◆不要な書類をシュレッダーする
◆一駅隣りまで歩いてみる
数分で出来るものから少し長めの時間が必要なものまで、バリエーションがあるといざという時便利です。
②マインドフルに自分と向き合う
マインドフルネスとは、自分の行動や思考の動きを細かく意識することです。
◆マインドフルに呼吸する
鼻から・口から吸って、吐く。
空気が身体の中でどう流れるのか、その時肺や腹部、その他の部位はどう動いているのか感じ取る。
鼓動の速さはどれくらいか、手や足はどんな状態だと楽なのか。
目は閉じているか、聞こえている音は何か。
3~5分くらいやってみましょう。
◆マインドフルに食事をする
誰かと一緒だと出来ないので、一人で食事をするときにやってみましょう。
箸を持って、何を食べるか決めて、一口分持ち上げて口に入れる。
舌の上に食べ物が乗ると味を感じます。ゆっくり歯を動かして咀嚼し、よく噛んでから飲み込みます。
食べ物の味や香り、食感に意識を向けます。一口一口をゆっくり噛み、食べることで食事をより楽しむことができます。
◆マインドフルに歩く
歩くのも食事同様に一つずつ動きを意識することでマインドフルネスの役に立ちます。
太ももに力を入れて脚を持ち上げ、かかとが地面につきます。
つま先に力を入れて地面を蹴ります。同時にふくらはぎに力が入ります。体が前に動きます。同じことを反対側の脚で行います。
同時に自分の顔はどこを向いているでしょう。腕はどう動いていますか。呼吸は浅いですか、深いですか。
③ジャーナリング
ジャーナリングとは「書く瞑想」とも呼ばれます。予め決めておいたテーマに沿って、5分・10分間ずっと書き続けます。
感情のコントロールに活用するなら、その感情をテーマにジャーナリングしてみましょう。
『怒りを感じている時、何を考えていたか』
少し振り返りながらの作業になるでしょう。怒った理由や状況分析、どうしてこんなに腹が立ったのか、過去に似たようなことがあったからか、また同じことが起きたらどうしたいと思うのか、など。
書けば書くほど思考が広がっていきます。書いているうちに『怒り』とは関係ないことを書いているかもしれませんが、それもOKです。
自分の思考と向き合うことが目的ですので、正しいも間違いもありません。
6.今すぐできる感情のコントロール方法 3選
①その感情は自分に利益をもたらすか?
感情の根源は本能ですから、感情がまるっと無意味ということはないでしょう。
しかし「囚われ続けること」は、別です。
私たちを強く縛り続けるのは、主にネガティブな感情です。
それに囚われ続け、行動が制限され、事実を歪曲して解釈することは、果たして自分の今後の人生に利益をもたらすのか、を、考えてみましょう。
②感情に囚われたまま30分歩いてみる
怒りや悲しみ、不安を感じたままでいいです。30分歩き回ってみましょう。
「こんな気持ちのままじゃ何もできない」と思うほど感情に囚われていたはずなのに、歩けましたよね。
感情に支配されたままでも、明るい気分になれなかったとしても、行動することは出来るのです。
感情は本当の意味では自分を支配することなどできない、と実感出来ます。
③「私は(ネガティブ感情)だ」を言い換える
ネガティブな感情に支配されている時は、感情が自分そのもののように感じてしまいます。
そこから脱出するためには、感情は自分の一部に過ぎない、と理解する必要があります。
自分のネガティブ感情を引き起こすような、自分の特徴をピックアップしてみましょう。
例えば「怖い、ムカつく、恥ずかしい」等かもしれません。
『私はムカついている』
を
『私は、あの人がムカつく、という感情を持っている』
に置き換えてみましょう。
「ムカつく」という部分は変わっていませんが、他にも感情がありそうだ、と気づくのではないでしょうか。
Aさんに対してムカつく。Bさんには申し訳ないことをしたと思う。Cさんにはあとで愚痴を聞いてもらおうと思う。
など。Aさんに対しても違う感情が湧いてくるかもしれません。
それによって、今抱えている感情が全てではないことに気がつくことが出来るでしょう。
7.まとめ
①感情のコントロールが難しいのは、自分自身と一体化してしまうから
②感情のコントロールのポイントは、感情と自分自身を分けて考えること
③感情は打ち消そうとすると逆効果。受け容れることで弱くなる
④感情のコントロールに感情を使わない。行動とマインドフルネスがカギ
感情も思考も、自然勝手に湧いてくるものを「無いものにしよう」とすることは二次的な問題を抱える原因になります。「感情すらコントロールできないなんて情けない」と考えたことはないでしょうか。その状態です。
感情のコントロールとは、感情の種類を無理やり置き換えたり、無感動になることではありません。感情に振り回されないことです。
感情は何かを知らせるサインです。そのサインをこちらがしっかり読み取れば、役目を果たして消えていきます。
強引にねじ伏せるのではなく、特徴と役割を知ってマネジメントしていきましょう。
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