<メンタルケアラーが危ない!>燃え尽き症候群と予防対策

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアラー支援

<メンタルケアラーが危ない!>燃え尽き症候群と予防対策
「家族のうつ療養生活を支えてきたが、もう疲れた。何もできない」

そう思ってしまうことは少しも不思議ではありません。私もそうでした。
それでも頑張ろうと自分を奮い立たせているのかもしれません。
ですがそれを続けていると、いずれ燃え尽きてしまう恐れがあります。
「燃え尽き症候群」は、頑張った人が壊れてしまうとても悲しい状態です。避けたい事態です。
燃え尽きないためのポイントと予防策を身に着けて、ご自分のこともしっかり守りましょう。

1.頑張るケアラーが燃え尽きてしまう理由

①燃え尽き症候群とは

燃え尽き症候群、またはバーンアウトは、対人関係などに由来する過剰且つ慢性的なストレス刺激を経た結果として生じる情緒的消耗感。
主に、対人サービス従事者が一定の生き方や関心に対して献身的に努力したにもかかわらず、期待した結果が得られなかった場合により感じる徒労感や欲求不満、および、努力の結果、目標を達成したあとに生じる虚脱感などを指す。
極度のストレスがかかる職種やスポーツ選手が、一定の期間に過度の緊張とストレスの下に置かれた場合に発生することが多いと言われている。
情緒的消耗感とは「仕事を通じて、精力的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態」である。
(wikipedia)


「感情労働」という言葉があります。感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要な労働です。サービス業に限らず、人と接するときは少なからずこうした努力をしているでしょう。
仕事であれば就業時間が終われば終了です。
ですが家族との関わりにおいて「感情の抑制、緊張、忍耐」を続けていけば、「力を出し尽くして消耗してしまう状態」になるだろうことは想像に難くありません。

②メンタルケアラーと燃え尽き症候群の事例

ご主人がうつ病になり前職を退職して療養生活を続けているFさん(女性・40代)のケースです。

最初は「うつ病は数カ月で回復する」と聞いたので、夫には前職を休職して療養していましたが、会社の規定ギリギリまで休職しても復職できるほどには回復しなかったので退職しました。
それによりFさんは、当時派遣社員として働いていたのを急遽正社員として働ける職場へ転職しました。
そのおかげで生活は安定したものの、新しい職場で正社員としての責任を負いながら休む間もなく働き続け、家に帰った後は夫に代わって食事の準備や掃除洗濯に追われる毎日を続けました。それが自分の役割であり、何か一つでも手を抜けば今の安定が壊れてしまうと思ったからです。
そして突然、何もかもやる気が無くなってしまいました。うつ病の症状で眠れず辛そうにしている夫を見ても何も感じません。以前は正社員として入社出来た会社で、他の同僚のように自分も昇進してプロジェクトを成功させたい、とも思っていたはずなのに、機械的に仕事をこなす以外は何の情熱も感じなくなってしまいました。


家族のケアも、生活基盤を守ることも、一社員としての責任も全部大事なことです。ですが一人で抱え込むには重すぎました。
結果として、Fさんも「適応障害」の診断を受け、一か月会社を休職することになりました。

【参考】「働く人の疲労蓄積度セルフチェック(こころの耳)」

2.燃え尽き症候群の症状


一般的には以下の6つの症状が考えられます。

①身体的症状

慢性的な疲労感
睡眠障害(不眠、過眠など)
頭痛や身体の不調
免疫機能の低下による頻繁な風邪や病気

②感情的症状

無気力感や意欲の低下
不安やうつ症状
怒りやイライラ感
無感動感(感情の麻痺)

③行動の変化

仕事やケアに対する興味の低下
社交的な活動への関与の減少
自己孤立化や社会的な引きこもり

④認知的症状

集中力の低下
判断力の低下
記憶の障害
負の自己評価や無価値感

⑤対人関係の問題

他者とのコミュニケーションの困難
共感力の低下
対人関係でのトラブル

⑥仕事やケアへの意欲低下

仕事やケアに対するモチベーションの喪失
業務遂行の難しさ
実績の低下



3.燃え尽き症候群になりやすい人とは

①過度な負担とストレス

メンタルケアラーは本人のケア、家事、仕事、自分自身の生活など、多くの役割を抱えています。
その状態が続くことで過度の負担とストレスがかかり、身体的・精神的な疲労が蓄積されていきます。
そのせいで食事や睡眠、休息といった健康上欠かせない要素まで疎かになりがちです。

②感情の抑制と共感疲れ

メンタルケアラーは自分の感情を抑えて、病気の家族の前では「疲れた顔を見せてはいけない」と自分を装いがちです。
同時に、患者の感情や苦しみに共感しすぎ、それがメンタルケアラーの心身に負担を強めます。

③自己犠牲と価値の喪失感

メンタルケアラーは自分のニーズや欲求を犠牲にしてまで、病気の家族をサポートしようとします。これが続くと、自己犠牲感がたまっていき、自己価値を見失ってしまいます。

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④社会的孤立

これは私も経験がありますが、メンタルケアラーは患者のために多くの時間やエネルギーを費やすことが一般的であり、その結果、友人や他の家族との交流が減少し、社会的な孤立感が生じることがあります。
「心配させてはいけない」という思いもあるし、「余計なことを言われたくない」という本音もあります。
誰かから言われる言葉が余計かどうか、というより、それを受け入れる余裕もなくなってしまっているのです。



4.燃え尽き症候群の予防方法


例えば仕事が原因で燃え尽き症候群になったとしたら、配置転換してもらったり転職することを検討するでしょう。
ですが病気の家族のケアによって起きた燃え尽きだと、同じような手段は中々取れません。家族で同じことをする場合は、別居や離婚という選択肢になってしまいます。

メンタルケアラーが燃え尽き症候群を予防するためには、以下の3つの予防方法をお試しください。

①家族も医療にかかる

<2>の燃え尽き症候群の特徴を見ていただいて気づいた方もいらっしゃると思いますが、うつ病の症状と酷似していますよね。

  • 睡眠障害
  • 意欲の低下
  • 不安感
  • 集中力の低下
  • 他者とのコミュニケーションの困難
  • 自分への無価値感


など。
「燃え尽き症候群」とは状態を示す言葉で、病名ではありません(疾病分類に記載がない、という意味です)。
そしてこうした症状は、

  • うつ病
  • 不安障害
  • 適応障害

として診断される可能性があります。上記事例のFさんも適応障害でした。
ですので、自分自身も専門医にかかって治療を受ける必要があります。

②ほどよい距離を取る

家族のケアから距離を取ろうとしたとき、別居や離婚のような大きな距離ではなく、自分自身を守れて家族の療養生活も支えることが可能な距離を取ることをお勧めします。

距離を取る時には3つの視点が必要です。
一つ目は「物理的距離」です。
住環境によっては難しいかもしれませんが、出来ればケアラーは一人になれる空間を持ちましょう。
家の中に自室を持てるとベストですが、難しければ家の外に「サード・プレイス」を作りましょう。
目の前に病気の家族がいれば、そちらに意識が集中し、自分自身の辛さに向き合う余裕は無くなります。目の前にいない状態を作りましょう。

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二つ目は「行動の仕分け」です。
燃え尽き症候群になってしまうようなケアラーは、何から何まで自分がやろうとしている可能性があります。
それを少しずつ減らしていきましょう。
例えば「掃除」と大括りにすると、病気の家族に任せることは難しいです。
ですが「まとめたごみを集積場に出す」とか「1日1回洗面所のタオルを替える」など、本人の状態に合わせて小さいサイズのタスクをお願いしましょう。
お願いする作業量はこの際関係ありません。
「やってくれる」
「お願い出来た」
という体験が大事です。
そして本人にとってもリハビリのチャンスになります。

三つめは「心理的距離」です。
家事も仕事も療養ケアも、全部丸ごと自分のこととして抱え込むから、重くなってつぶれてしまうのです。
これはケアラーだけの責任ではないと、私は考えています。
精神疾患に限らず、家族に何かしらの問題が起きると、それを全部「家族内でどうにかしなさい」という無言の圧力を社会から感じます。
話は逸れますが、認知症やひきこもり、不登校、依存症なども同じです。
ですが本来、これらは専門家の知識とスキルが必要な重大事なのです。
すぐに相談先や委託先が見つからないとしても、「自分だけがやらなきゃいけないことではない」と思えることが大事です。

③自分の認知を見直す

上記2つと重なりますが、何はせずとも自分自身をケアしていただきたいです。
しかしメンタルケアラーの「セルフケア」とは、まず最初に「ケア中心」になってしまっている自分の認知を見直す必要があります。

今、ごく当たり前の健康的な日常サイクルを送れていますか?
出来たらご自身の1日を丁寧に振り返ってみてください。
恐らく気が付かないうちに「ケア中心の生活」になっていないでしょうか。
時間や行動だけでなく、何かを選んだり決定するときに、病気の家族に合わせることが自然になっていませんか?
それが間違っている、ということではありません。
大事なのは割合です。
1週間ずっと病気の家族に合わせ続けているなら、これからは3日に1度、2日に1度は「自分基準」の選択をしましょう。
外出したいならする、食べたいものを食べる、見たいテレビを見る。寝たい時に寝る。
良い意味で自分の生活から「うつ療養」要素を減らしましょう。

5.燃え尽き症候群から回復する方法

では、燃え尽き症候群から、またはなりかけてるかも?と思った状態から回復するには、どんな方法があるか見ていきましょう。

①自分の状態と向き合い、受け入れる

現在地の確認です。自分が健康な状態ではない、と自覚するのは怖いですよね。ですが何が出来て何が出来ていないのか、不足しているのかを知ることが第一歩です。

②専門家の力を借りる

精神疾患がすでに専門家による援助が必要です。それを家族が一手に引き受けること自体に無理があるのです。
病気本人には主治医がいます。その主治医に相談する、という方法もありますが、主治医から見たクライエントは患者です。家族ではありません。あくまで患者視点からのアドバイスになるでしょう。
メンタルケアラー側の視点に立って助言してくれる専門家と繋がりましょう。

③休息とリラックスの確保

休息する時間を作りましょう。
休息の重要性は分かっていても、「暇が出来たら」と思っていたら永遠に休めません。
最初のうちはアラームを使ってでも休みましょう。しばらく続けるうちに、休んだほうがいいタイミングが分かって、休むことの効果も実感するようになり、意識しなくても休息出来るようになります。

④仕事やケア、家事の調整

毎日の自分への負荷を減らす根回しをしましょう。
仕事の負担が大きすぎるなら、家庭の事情を含めて上長へ相談しましょう。
家事は家族(病気本人含めて)に分担の相談をしましょう。それが難しい場合は家事代行や福祉サービスの利用を検討しましょう。
ケアについては主治医と病気本人の三者での相談になりますね。本来本人が出来るはずのことを何らかの理由によって出来ていない可能性もあります。それを放置することは回復を遅らせる危険もあります。今の状態で出来ることがあるはずですから、家庭内のタスクの切り分けのためにも相談しましょう。

⑤サポート資源の活用

上述した家事代行や福祉サービスといったフォーマルなサポート資源はもちろん、友人、実家の両親、きょうだい、知人などから受けられるサポートを活用しましょう。
自分の代わりに何かをしてもらうだけがサポートではありません。
病気本人、またはメンタルケアラーの話(多分愚痴?悩み相談かな)を聞いてもらうことも大きなサポートです。
辛い気持ちを親しい人とシェアすることで、感情と思考が整理出来ます。整理出来ると余裕が生まれます。余裕が出来ると燃え尽き症候群は遠ざかります。

⑥自分のニーズを知る

ニーズとは、単純に「欲しいもの」ではありません。
そのもっと根底にある、自覚出来ていない欲求です。
例えばとても疲れている時は「何もしたくない、このまま寝てしまいたい」と思いますよね。
ですがケアラーが心から望んでいるのは、何もしないで寝ることを繰り返す生活ではないでしょう。
本当はどんな状態になりたいでしょうか。
それを十分に自覚することで、再度モチベーションがあがります。

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⑦積極的に自分を楽しませる

休息し、リラックスし、気持ちを親しい人に聞いてもらって、仕事や家事の負担が減って来たら、積極的に自分の楽しいことを取り込んでいきましょう。
趣味は、実は資格や特技などよりはるかに自分を助けてくれます。
趣味は自分が好きなことですよね。何かやるものなら得意なことでしょう。
それに没頭している間は余計なことを考えません。得意なことを楽しむから自己効力感も上がります。
忙しい生活の中で忘れていた趣味を取り戻しましょう。



6.今すぐ出来る3ヶ条


<4>に取り組むより先に、今すぐ出来ることもご紹介します。
以下の3点は本当に今から出来ますから、是非試してみてください。

①毎日のタスクから必須度の低いものを止める
②セルフコンパッション:1日10回自分を褒める
③リラクゼーション:1日30分自分だけの時間を作る


毎日忙しく過ごす中で、「やっておいた方が後々いいだろう」という作業が含まれていませんか?それを止めましょう。今すぐに。
そして自分をたくさん褒めましょう。1つ2つならすぐ思いつくかもしれませんが、足りません。10回褒めてください。
そして30分間、自分のためだけの時間を持ちましょう、累積でもいいですが、出来ればまとめて30分取りましょう。そのために帰宅が遅くなってもいいです。30分早く帰ったところで家の中は変わりません。

7.燃え尽き回避は自分のためだけにあらず

いかがでしたでしょうか。
メンタルケアラーにとっての燃え尽き症候群は、病気になった家族を支えるため、ひいては自分と家族みんなを守るために最大限頑張ろうとした結果です。
ですがそのために自分が生きていることがつまらなくなってしまっては本末転倒です。

燃え尽き症候群になってしまうのは、自分だけが原因ではありません。
だからそれを予防するためにも回復するためにも、周囲にたくさん力を借りましょう。
そしてケアラーが燃え尽きを回避するための行動は、病気本人のリハビリの促進や、お互いの関係強化にもつながります。

自分のためだけではなく、家族みんなのためになるのです。

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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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