精神障害者の就労について考える
うつ病に限らずメンタルな病気で仕事を辞めざるを得なくなった時、一番の懸念点はお金だと思います。
給与分をどこから得るか、どこで出費を抑えられるか、困ったときに使える支援制度はあるのか。
段階に分けてまとめました。
1.退職前から「傷病手当金」を活用しよう
病気になってすぐに退職を考える人は少ないでしょう。
まずは主治医から診断書をもらって休職する人がほとんどです。
ただ休むだけだと有給を使い切ったら無給になります。
連続4日目以降からは「傷病手当金」の支給対象となりますので、数カ月単位の休職が決定したら申請しましょう。
傷病手当金は、加入している健康保険組合の制度です。
まれに会社が支給してくれると思って、「働いていないのに同僚たちの実績からもらうみたいで申し訳ない」と考えて躊躇する方がいますが、会社が支給するものではありません。
休職手続きをしたときに人事総務部等から案内されると思いますが、それが無かった時は自分から問い合わせてみましょう。
加入している健康保険組合(保険証に名称等記載があります)に問い合わせても教えてくれます。
過去12か月間の平均給与の2/3相当が最大1年6カ月間支給されます。
退職後も満期になるまでは支給されますので、しばらくは安心です。
2.通院が続くなら「自立支援医療(精神通院医療)」を申請しよう
メンタルの病気は通院治療も長い期間かかることが多いです。しかも発症当初のしんどい時は週1回など頻度も高いでしょう(安定すれば月1回程度に減っていきます)。
その都度診察代と薬代を3割負担していると、かなり大きな費用負担になります。
通うクリニックと薬局が固定したら、「自立支援医療」を申請しましょう。
収入によっては非該当もありますが、大抵は通常の3割負担が1割負担、または限度額までに抑えることが出来ます。
1年毎の更新と、初回と2年に1回は主治医の診断書が必要になります。
申請先は市町村となります。
障害者手帳等は必要ありません。
3.初診日から半年経ったら「障害者手帳」の申請
初診日(うつ病で初めて医療機関を受診した日)から6カ月以上経過したら、障害者手帳を申請しましょう。
正式名称は「精神障害者保健福祉手帳」と言います。症状が重度のほうから1級~3級があります。
手帳を保有することで直接的な金銭支援はありませんが、年末調整や確定申告の時に障害者控除を申請出来たり、携帯電話の通信料の障害者割引を利用できるなどのメリットがあります。
また、手帳を保有していることで公営住宅の抽選で優遇があったり、将来的に障害者雇用枠で社会復帰をするときにも活用出来ます。障害者福祉サービスを利用するときに手帳があると手続きが楽になります。
手帳を持つことでデメリットはありますか? という質問を受けますが、私は無いと思っています。
もしあるとすれば、「自分は(一時的であっても)障害者なのだ」ということを受け入れる必要がある、ということかもしれません。
4.1年半経っても働けなそうなら「障害年金」を請求しよう
病気になってからご自身で、またはご家族と、医療の手を借りながら色々努力をしても、それでも中々状態が安定せず再就職のめどが立たない、ということもあり得ます。
その時は障害年金の請求を検討しましょう。
障害年金には「基礎年金」と「厚生年金」の2種類があります。
初診日にどちらの年金制度の加入者だったか、で変わります。
詳細は煩雑なので下記ページをご参照いただけると助かりますが、大きなメリットは定期的にまとまった現金が支給される、ということです。
単純にお金がもらえる、ということだけでなく、それによって生活不安が減り、メンタルが安定し、家族も安心出来ます。更に自分が自由になるお金を持てることで「何かしよう」と思えるくらいまで回復し、結果として社会復帰が早まります。
専用の診断書を主治医に作成してもらう必要があったり、初診日を証明する書類が必要だったりと諸経費もかかりますので、しっかり検討する必要はあるでしょう。
5.再就職の道も色々ある
①就労移行支援⇒障害者雇用枠での復帰
就労移行支援とは、障害者が職を得て就労するための支援をしてくれる事業所です。
必要なスキルを身につけたり、休職中に崩れた生活リズムや体力を取り戻したり、タイミングを見て一緒に求職活動もしてくれます。
就労後も、最大3年までは「就労定着支援」として仕事や生活上の悩み相談に乗ってくれます。
必ずしも障害者雇用枠でなければいけないということはありませんが、無理に以前と同じような仕事に戻ると、余程配慮してくれる職場でない限りは再発の危険があります。
リハビリの一環として、自信がつくまでは障害者雇用枠で働くのもおすすめです。
②ハローワークで「就職困難者」登録⇒基本手当を長く受給する
転職活動をするときは、まずはハローワークへ行くでしょう。その時に手帳を保有していると「就職困難者」として登録することが出来ます。
就職困難者とは、1. 身体障害者、2. 知的障害者、3. 精神障害者、4. 刑法等の規定により保護観察に付された方、5. 社会的事情により就職が著しく阻害されている方などが該当します
(ハローワークホームページより)
すると、原則90日までの基本手当(失業保険)の受給期間が、150日~360日(被保険者期間と年齢によって異なります)まで延長されます。
また、月2回必要な「求職活動実績」も、月1回までで認定してもらえます。
慌てず急がず、ゆっくりと今の状態に見合った就職先を探すことが出来ます。
③求職者支援制度で月10万円の支給+求職サポート
職業訓練は皆さんご存じだと思います。
「求職者支援制度」とは、職業訓練(無料)を受けながら、月10万円の支援を受け、修了後は求職活動をサポートしてもらえる制度のことです。
給付金の受給には条件がありますが(収入面、保有資産など)、給付金無しで職業訓練だけ受けることも可能です。
新しいスキルを身につけて、新しいキャリアへ進む後押しになるでしょう。
6.住まいに困ったら「住居確保給付金」を活用しよう
「住居確保給付金」という制度をご存じでしょうか。
主たる生計維持者が離職・廃業後2年以内である場合、もしくは個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合において、一定の要件を満たした場合、
市区町村ごとに定める額(※)を上限に実際の家賃額を原則3か月間(延長は2回まで最大9か月間)支給します。
(※)生活保護制度の住宅扶助額
支給された給付金は賃貸住宅の賃貸人や不動産媒介事業者等へ、自治体から直接支払われます。
(厚生労働省)
という制度です。
賃貸住宅にお住いの方に限定されてしまいますが、収入が大きく減ったときに一番負担がのしかかるのが固定費の中でも家賃ではないでしょうか。
すぐに安いところに引っ越すのも難しいです。転居は更にまとまった費用が掛かります。
給付金は直接大家さんや不動産会社に支払われるので、延滞という不安もありません。
相談先はお住まいの地域の福祉事務所、生活困窮者自立相談支援機関となります。
7.困ったときのための支援制度
うつ病で無職になる、という状況は、仕方がないとはいえ不安を増大し病気を悪化させる要素とも言えます。
福祉制度は誰か特定の人のためだけのものではありません。
困ったときはどんな人でも活用出来ますし、するべきです。
そのために公金(税金)が投入されていますし、毎月保険料を支払っているのです。
今の生活を支えるために、是非ご検討ください。