ケアラーのセルフケアを考える

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアする人のメンタルケア

ケアラーのセルフケアを考える
家族をケアすることは、家族の役割とはいえ決して楽なことではありません。
けれど一時的だったとしても担わないわけにはいきません。
辛い役割や経験はストレスを生みだします。
ストレスはケアしなければケアラー自身が倒れてしまいます。

ケアラー特有のストレスと、それに対するセルフケアについて考えました。

1.ケアラーのストレス例

①生活上のストレス

毎日の生活はどうしたってストレスの連続です。疲れるし、面倒だし、慣れたことだから面白味や新鮮味は薄いし、頑張ったところで誰に褒められることも感謝されることも無いし。
ただでさえストレスが「塵積も」なところに、「家族のケア」という重大な役割が追加されます。
毎日30分かけていた作業が、ケア対象者分も自分が請け負ったり、「自分しかやる人がいない」という状況が逃げを許さないため、切迫感もプラスされます。

②ケア対象者とのコミュニケーション

ケアを必要とする状態にある人は、その人にしか分からないようなセンシティブさを抱えます。
そういう人と一番近い距離で接するケアラーは、当然ながら対象者のネガティブな針に触らないようにしながらコミュニケーションをとる必要があります。
ただどうしても完璧に避けることは出来ないので、どこかで衝突することもあります。
それによるストレスや、「何を気をつければいいんだ…」と途方に暮れてしまうこともあるでしょう。

③たまる疲労

1日は24時間です。大体7時間くらい睡眠して、9時間会社にいて、家と職場の往復時間、食事、入浴など考えると、本来自分の時間は微々たるものです。
その上でケア対象者に割く時間が増えるとなると、冗談ではなく寝る時間くらいしか休む暇がありません。それも「健康的な睡眠が取れていれば」の話です。
疲労は日々蓄積して、それがケアラーの体だけでなくこころの余裕も奪っていきます。

④ケア対象者の代行

日々の生活のケアだけでなく、本人が行うことを代行しなければいけない場面が出てきます。
選択、決定、意志表示の代行です。
本人でなければ出来ないけれど、病気の症状によってはそれが出来ません。第三者はその代理を配偶者に求めます。
何が正解か分からないまま、本人の意思を可能な限りくみ取って意思決定を代行するのは、並大抵のことではありません。

2.ケアがなぜストレス化するのか

①自分のことが二の次になる

家族のケアという行動だけでなく、それらを優先して行う毎日を過ごしていると、「自分のことは後回し」にする習慣が無意識のうちに出来上がります。
例えば肩が痛いとか頭痛がするとかの不調があっても、「あとで少し横になろう」とか、「あとで」が口癖になります。
でも「あと」の時間が来てもその時はまた別のケアがあって、結局「あとでやろう」としていた自分へのケアは出来ないままです。

②マイペースが崩れる

同居家族がいたとしても、ある程度は自分の心地よいマイペースが人それぞれあります。
夕方6時にいつも夕食を取っていたのを、ケアの関係で8時にせざるを得なくなるとか、そうすると生活上のタスクの順番を入れ替えなくてはいけなくて、そのために気を付けることが増えて、緊張する時間が長くなったりします。
結果として自律神経が乱れてイライラしやすくなったり睡眠の質に影響したりします。

③自分で自分のストレスに気づきにくい

ケア生活の中心はケア対象者です。本人の状態が悪化することがないよう、回復へ向かえるように色んな人たちが配慮をします。
家族はそうした「支援体制下」での、とても重要なケア提供者と見做されます。
そして仕事でやっているわけではない・家族だからやって当たり前と思われるので、ケアラーにどの程度の負荷がかかっているか、周囲は関心がありません。
その結果として、ケアラー自身も自分のストレスに無関心になりがちなのです。

①・②・③の結果として、自分で自分に不満を抱えるようになってしまいます。

3.ケアラー特有のセルフケア

①自律神経ケア

まずは一番最初にケアすべきは体でしょう。体が大事というより、メンタルケアよりも効果が出やすく、取り組みやすいからです。
特に睡眠の質を落とさないことが最重要です。
自律神経は1日24時間のリズムをキープすることである程度はバランスを取ることが出来ます。
生活リズムを守るためにも、疲労を回復させるためにも、睡眠時間とその質を損なわないように心がけましょう。

②自分の気持ちを言語化する

「辛い時は相談しましょう」というメッセージはよく聞きますが、それ以前に「辛いんだけど何を相談すればいいか分からないから相談出来ない」というのが実情だと思います。
ある程度具体的なアドバイスが欲しい、という場合は、普段から自分の気持ちを言葉にする練習をしておきましょう。
気持ち、とは、辛さ・実績・努力・工夫・希望・欲求・モチベーションなど、浮かび上がってくる感情や考え全てが対象です。
日頃から「夫との会話が激減していることが辛い」と自分で分かっていると、いざ誰かに相談出来る場になったときにすぐ伝えることが出来ます。
また、もやもやした非言語の感情はそれだけで不安を呼び寄せます。自分が納得できる言葉に出来ることで気持ちが安定しやすくなります。

言語化の方法としては、SNSで発信、日記、ジャーナリングなどがおすすめです。

③セルフ・コンパッション

要するに「自分で自分を優しく労わる」ことです。
ケアラーさんのお話を聞いていると、もう本当に真面目で他人に優しくて一生懸命で努力家で我慢強いです。頭のいい人も多い。なのにそれゆえに自分に対してダメ出しばかりしています。家族を思うからこそかもしれませんが、「もっと頑張れるはず」と追い込んでしまっています。
自分に満足することは、努力の終了ではありません。満足している状態のまままた頑張ればいいのです。むしろそのほうが頑張れます。
疲れてストレスでつぶれそうな自分を、慰めて、労わって、褒めて、許して、励まして、安心させてあげましょう。

4.ケアラーの役目は「存在していること」

家族のケアをするようになると、「自分が治してあげないと」「回復させないと」「社会復帰させないと」いけない、と思ってしまっているかもしれません。
でも病気を治すのは主治医の役目です。
職場復帰は会社と産業医の役割です。
回復するかしないかは、本人のモチベーションが大きく左右します。

ケアラーは、傍にいることが役目なのです。

一緒にいるだけで役目を果たしています。だから「あれもこれも」と頑張り過ぎないで、それよりも先に自分自身をケアして疲れを癒してください。

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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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