「負けるが勝ち」のうつ家族生活
家族がうつ病(またはその他精神疾患・精神障害)になったとき、家族は
『自分が対処しなきゃいけない、少しでも早い回復を目指そう、もし治ったら二度とうつ病になんてならないように頑張ろう』
と考えてあらゆる手を尽くそうとします。
けれど結果的に思ったようにならず、無力感に襲われる。
何故でしょうか。そしてそうならないために出来ることは何でしょうか。
1.家族のうつ病で無力感に至るまで
家族がうつ病等の心の病を発症したとき、大抵の家族は、ショックを受けたり慌てたりしながらも、「何とかしよう」と発奮するでしょう。
本を読んだり、主治医に相談したり、講演会に参加したり。
色んな知識を得て対処しつつも、しばらくすると「本の通りにならない」という壁に突き当たります。そして不安や疑念が湧いてきます。
自分の努力不足だろうか? 薬が効いてないのでは? もしかして違う病気? そもそも病気じゃなかったの?
色々原因を想像し、検証して、別の方法を試したりします。が、それでも思ったようにならない。
自分自身にも仕事がある、相手はうつ病で何も出来ないからその分自分が頑張らなきゃいけない、疲れたなんて言っていられない。
そしてふと考えます。
「私だけ頑張ってない?」
そう思った途端、今までのがむしゃらな努力が全て停止してしまいます。
辛い、苦しいと言ううつ本人の言葉も素通りします。
自分の仕事や生活への活力も無くなります。
うつ本人に対するイライラが増して、ついきつい言葉をぶつけてしまったり、今までやってきたことはすべて無駄だったのだ、と思ってしまいます。
2.やる気が無力感に変わる理由とは
一つ目は「早く」と先を急いでしまうことです。
焦って結果(普通に生活できる、以前と同じようになる、仕事復帰する、病院や服薬が不要になる)ばかりを目指して、小さな変化=成果を見落としてしまうのです。
二つ目は「回復させよう」という意気込み。
うつ療養の主体はうつ病本人です。しかしそれを失念してしまい、「自分(家族)が頑張って治すのだ」と思い込み過ぎてしまうことで、本人の状態を考慮しないアドバイスをしてしまいます。当然上手くいかないので、ガッカリし「無駄だった」と落ち込みます。
三つ目は「一般的なセオリーへの過信」です。
病気について学ぶことは非常に大事で有効です。しかし本に書かれている経過はあくまで一般的なもので、その通りに進むわけではありません。何故ならうつ病は環境要因がとても大きいからです。人それぞれ生活している環境やこれまでどうやって生きてきたか、がバラバラなのですから、他の人と同じ経過をたどるはずがないのです。
しかし本や通説の内容を信じすぎて、その通りにならないことで不安が募ってしまい、不安を解消したくて無理やり本の通りに進めようとしてしまったりします。
当然本人との摩擦が起きます。言い争いやケンカになり、うつの症状が悪化したり、家族側もストレスを強めてしまいます。
四つ目は「自分のキャパシティを考慮しない」ことです。
人はだれしも出来ることの限界があります。難易度だけでなく量にもあります。
しかし家族のうつ病以外のこと、仕事や家事などを以前と同じようにこなそうとしてしまいます。
特に「家のことで会社に迷惑をかけてはいけない」という考えが強すぎる場合、オーバーフローしてしまうのです。
3.燃え尽き症候群と学習性無力感
燃え尽き症候群とは、
「対人関係などに由来する過剰且つ慢性的なストレス刺激を経た結果として生じる情緒的消耗感。
主に、対人サービス従事者が一定の生き方や関心に対して献身的に努力したにもかかわらず、期待した結果が得られなかった場合により感じる徒労感や欲求不満、および、努力の結果、目標を達成したあとに生じる虚脱感などを指す。」
(wikipedia)
のことです。
自分の力で・少しでも早く・無限に努力してうつを回復させようとすれば、期待した結果を得られずに徒労感や虚脱感に襲われることは無理のないことです。
学習性無力感とは、
「長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象である。」
(wikipedia)
家族がうつ病(またはその他の病気)になってしまうことは、回避困難な環境です。そして家族だからこそ一緒に生活しながら支える役目を負うのもまた、回避不可能です。
すんなり家族としての役割を受け入れられなければ、「どうして自分ばかり頑張らなきゃいけないのか」という気持ちとの葛藤が生まれ、結果として無力感に陥ってしまうのでしょう。
4.うつ療養による無力感への対策は?
まずは「休む時間」を作りましょう。
休む、とは、この場合、仕事も家事もうつ病へのケアもしない時間を確保する、ことです。
最初にうつ病本人に、自分の状態を伝えましょう。頑張り過ぎて疲れてしまっていること、回復するために休む時間が欲しいことを分かってもらいましょう。
自分が働いていれば、会社にも相談しましょう。家族がうつ病で疲労が重なっている、家事をやらなければいけない時間が増えた、ストレスがたまっている、など、同じく自分の状況を伝えたうえで、仕事量の調整が可能か、を相談しましょう。
家事の量を減らすことも有効です。具体的には外部サービスを使いましょう。外食やお惣菜で済ませたり、家事代行をお願いすることも出来ます。
頻度を落とすことも、可能ならやりましょう。毎日洗濯しているなら、2日に1回とか、3日に1回とか。洗濯物がたまったって死にはしません。
今やっていることで止められる作業は止めてしまいましょう。気分転換になっていないなら習い事はやめる、地域活動も必須じゃないならやらない、実家に顔を出すのがしんどいなら状況を説明して回数を減らす、など、小さなことでも気持ちの上で余裕が生まれます。
また、小さな成功体験を積み重ねることも大事です。
上述したように、社会復帰や寛解(通院や服薬が不要になるレベルまで回復すること)だけを「成果」としていては、自分の努力を評価できることなどほとんどないでしょう。
先週は入れなったけど今週はお風呂に入れた、週に2回朝食を一緒に食べられた、食後に少し楽しく会話が出来た、など、日常を振り返ると何かしら変化はあるはずです。
そうした小さな変化の長い積み重ねの先にあるのが「社会復帰」です。ある日突然空から降ってくるものではありません。
5.無力感に備えるためには
以下の4つが、折角の努力を無力感に変えないためのポイントではないでしょうか。
うつ病回復に絶対のルールはない。あるとしたら「一人ひとりプロセスは違う」ということ
「早く」は考えない。そもそも無理。
家族は支える人であって、治すことは出来ない、と前向きに諦める
自分は一人しかいない、キャパシティを知って調整する
うつ病本人への配慮や「やったほうがいいこと」の情報は世の中にあふれていますが、家族へのケアについてはあまり語られません。
家族も重要なサポート要員、支える側として扱われるからです。
しかし家族と言えど病気に対しては素人です。医者やソーシャルワーカーのように頑張れるわけではありません。
家族も支えられるべき存在であることは、忘れないでくださいね。
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