感情のコントロール術:自己マネジメントの鍵とは?
前回は「仕事をする上で起こるメンタル不調」の、理由・きっかけについて考えました。
そして「メンタルが不調の予防策」の一つとして、自分がどうしたいか、の「欲求」を知ること、をご提案しました。
では、仕事上の欲求とはどんなものがあるでしょうか。
そしてそれとどのように向き合えばいいでしょうか。
1.「欲求」とは?
心理学では欲求について様々な定義がありますが、ここでは「マズローの欲求階層説」に基づいて考えてみたいと思います。
マズローの欲求階層説とは、
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものである。」
ピラミッド状の階層を成し(なお、マズローの著書にはピラミッド階層についての言及はされていない)、マズローが提唱した人間の基本的欲求を、高次の欲求(上)から並べる。
自己実現の欲求 (Self-actualization)
承認(尊重)の欲求 (Esteem)
社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
安全の欲求 (Safety needs)
生理的欲求 (Physiological needs)
生理的欲求とは、生命を維持するための本能的な欲求で、食事・睡眠・排泄などを指します。
安全の欲求とは、安全性、経済的安定性、良い健康状態の維持、事故の防止など、予測可能で秩序だった状態を得ようとする欲求です。
この二つはほぼ満たされた状態にある人が多いでしょう。
3つ目の「所属の欲求」と「承認の欲求」が、仕事をする上で、場合によってはストレスを引き起こす理由と関わってくるものです。
2.組織の中で働く時の「所属欲求」と「承認欲求」
①所属の欲求
所属の欲求とは、「自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割があるという感覚」のことです。
仕事に限った欲求ではありません。家庭、友人、地域、最近ではインターネット上の集まりなども含めて、「自分がその中の成員であること、自分が受け持つ役目があること」は生きていくうえで重要な要素です。
会社に所属して働いているときは、より直接的な意味を持つでしょう。
入社すればだれもが「〇〇部〇〇課の△△さん」という立場に置かれます。
人事情報上だけでは不十分です。その名目に見合った役割を得て初めて欲求が満たされます。
昔は「窓際族」とか、最近では「社内ニート」なんて言葉もありますが、社員として出社しているのに、十分な業務や役目が与えられないと、所属の欲求が損なわれ、自分の存在意味を疑い出し、何をすればいいのか分からなくなり、仕事へのモチベーションがどんどん減少していきます。
また、自分が考える「会社での役割」と、与えられた「役割」が一致しないときもストレスになるでしょう。
②承認の欲求
承認の欲求とは、「自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求」のことです。
「承認欲求」という言葉が一人歩きしている向きがありますが、自分が所属している集団から、自分の役割や働きに対して『価値があるもの、意味があるもの、必要なもの』として認められたい、という気持ちです。
あわよくば『素晴らしい』と称賛されたい気持ちもあるでしょう。あって当然ですね。
仕事をする上では、承認の欲求は特に強く出るでしょう。
何故なら、承認=評価・賞賛されることは、その先にある会社の人事評価へつながることが多いからです。
人事評価は、そのまま職階や給与、待遇に反映されます。
従来より得るものが増えれば嬉しいし、減ったりすれば一大事です。欲求階層で言えば、より下位の「所属の欲求」や「安全の欲求」、「生理的欲求」にも影響しかねません。
そして組織とは、全体を効率的に動かして利益を上げるために、時として個人ではなく集団として社員を扱うことがあります。
集団になったとき、人は他者を「競争相手」とみなすことがあります。
一緒に働いて同じ目標に向かっているメンバーは、「所属の欲求」を満たしてくれる要素である反面、承認の欲求を満たそうとしたときに障壁とみなしてしまうと、これもストレスの原因となってしまいます。
3.仕事上の自分の欲求を知るには
まず、仕事面から見た所属の欲求とは、どんなものが考えられるでしょうか。
- 職場の環境(ハード面:通勤時間・手段、オフィスの環境、使う道具)
- 自分の役割(所属部・課、チーム)
- 自分の業務
- メンバー(上司、部下、同僚など)
が、どのような内容・条件だと自分が「社会に必要とされている、果たせる社会的役割がある」と実感できるのか、を考えてみるといいでしょう。
次に承認の欲求は、
- 待遇(雇用形態、職位、給与)
- 目標・役割に対する自分の成果・実績
- 成果・実績に対する評価(人事、上司、同僚)
などが考えられます。
今の自分に見合った承認レベルはどの程度か、を知っておく必要があるでしょう。
4.仕事上の欲求は「バランス」と「表現方法」が大事
欲求そのものは誰もが持つものですし、どんな内容か、も人それぞれです。
よく「承認欲求が強い」という表現を目にしますが、概ね否定的な評価を伴っています。
それはおそらく、バランスが偏っていたり、欲求の表現方法が間違ってしまっているから、ではないでしょうか。
ある会社の営業部に、同い年同士のAさんとBさんがいたとします。
Aさんは新卒で入社して5年目で、ずっと今の上司であるC部長と一緒に仕事をしてきました。
Bさんは転職組で、この会社は入社2年目です。前職も同業種で経験は豊富な人です。
あるとき新規の取引先を獲得することが部の目標となり、AさんもBさんも自分なりの方法で頑張りました。
結果として、Bさんのほうが多く新規取引先を獲得することが出来ました。
無事目標達成できたことで、部全体で飲み会を開きました。
目標達成できたのはBさんの成果によるところが大きかったので、みんながBさんをほめたり感謝します。
それを見ていたAさんはBさんへ嫉妬心を感じざるを得ませんでした。Bさんが多かっただけで、Aさんや他の人もそれぞれ貢献しているのに、場の盛り上がりはまるでBさん一人で成し遂げたような雰囲気です。
それが面白くないAさんは、社歴の長さでBさんに勝とうとして、わざとC部長の隣へ行ってBさんが知らない話題を大声で話し始めました。
Bさんはその様子を見て「自分が成果を出したのにAは分かっていない」と解釈し、負けじと同じくらい大きな声で今回の成功譚を語り始めました。
こうした光景はどんな会社でも珍しいことではないでしょう。自分がAさんだったりBさんだったりC部長の立場になることもよくあります。
AさんもBさんも、他の人たちも頑張ったのです。
Aさんはまた次頑張ればいいし、Bさんは自慢するのではなくコツを教えてあげれば二重に評価されたかもしれないのです。
「~~したい」「~~されたい」と思うことそのものはごく自然な感情です。
ただ、特に仕事の場では、そのまま表現してしまうと逆効果です。
欲求は、我慢するのではなく「調整」する。ぶつけるのではなく「見せ方を変える」ことが必要です。
それが出来ると、欲求が満たされないことへの不満やストレスは限界値に達することなく、「モチベーション」に変換されて、逆に欲求を満たす原動力になってくれるでしょう。
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次回は、「仕事上のストレスで生まれた不調をケアする方法」について考えたいと思います。
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