一貫性がもたらす安心感—うつ病患者を支える家族の心得
今回は「うつ療養中の過ごし方」シリーズの最終回です。
うつ療養生活の中で家族の方に覚えておいていただきたいこと、うつ療養についてよくある疑問について考えてみました。
1.うつ療養中の家族側の心得5つ
①時間を味方にする
辛い時、しんどい時は、えてして「きっとこれが良くなることなんてない、ずっとこの状態が続くんだ」と思い込んでしまいがちです。
状況が悪いときは思考が硬直化しているので、冷静になって効果的な対策を取ることが出来ません。
でも「なんとかしたい」という気持ちはあるから、思い付いたことを色々試したりしませんか?
辛い中必死でやった対策がほとんど効果が無いと、更に気持ちが凹んでしまいます。
その時は、「ずっとこの状態が続く」ということはない、と、思い出してほしいです。
すこーーしずつかもしれませんが、必ず状況は変化します。
そして人は良くも悪くも馴れる生き物です。
うつ療養の辛さにも「耐性」が付いてきます。
馴れてきたこと、初期から少しは変化したうつの症状を見て、冷静さが戻ってきます。冷静になれれば具体的で現実的(=ポジティブ)な対策を考える余裕が生まれます。
その時に共通しているのは「時間の経過」です。
放っておいても勝手に経過してくれるのが時間です。
辛い時は時間の流れに任せましょう。
②うつ病の人の話を遮らない
うつ病の人と会話をする時、「何か相手にとって有益なことを言ってあげなければ」と意気込み過ぎて、相手の話を遮ってしまう場合があります。
特にうつ症状が重い時は、思考がゆっくりになって、言葉が出てくるのもゆっくりで、話にもまとまりがなく、『結局何を言いたいんだろう?』と、聞いていてじれったくなったりします。
話の着地点が分からないから、つい最後まで聞き終わる前に
「~~したほうがいいよ」
「~~は良くないと思う」
「それは~~がいいって聞いたよ」
のように、途中で口を挟んでしまいがちです。
お気持ちはよく分かりますが、相手がすっかり話し終わるまでじっくり聞きましょう。
最後まで聞いたところで、結局結論やテーマはないかもしれません。
しかし、職場ではないので、家族相手なら、とりとめのない会話もアリだと思います。
むしろそういう話が出来る相手は家族くらいです。
聞いているほうとしては、そのような話のどこに意味があるのか、と思われるかもしれませんが、誰かに話すことで、自分の気持ちを整理出来たり、黙って聞いてもらえることで受け容れてもらえたように思えて、それがうつ病の人の自己肯定感に貢献することがあります。
うつ病の人が話し始めたら、相手が気が済むまで遮らないで聞いてみましょう。
③家族自身の悩みや愚痴の吐き出し先を作る
とはいえ、家族も相手に合わせて生活し続けるだけでは、我慢の連続で、早い段階でダウンしてしまいます。
うつ病になってしまったことは気の毒だと思うししっかり支えていこうと決意出来ても、体の老廃物のように愚痴や悩みが積み重なっていくのは当然です。
むしろしっかり向き合っているからこそ、悩みは尽きません。
そしてうつ病関係の悩みは、これまで経験したことが無いのですから、一人で抱え込んでもすぐに有効な解決策が思いつくことも難しいでしょう。
家族の辛い気持ちを聞いてくれる人、共感してくれる人、マイナスな気分の解消に付き合ってくれる人を作りましょう。
「人」ではなくても、趣味やレクリエーションでスッキリするのでもいいと思います。
身近な人や実家家族だと本人の耳に入りそうでイヤだ、というなら、インターネットなどで同じ経験をした人を見つけて話をしたり、カウンセラーやソーシャルワーカーなどに聞いてもらうのもいいでしょう。
特に専門家なら守秘義務があるので、第三者に漏れることは絶対にありません。
④うつ本人がやるべきことは手を出さない
うつ病になって出来ないことがたくさんあっても、それでも本人にしか出来ないことがあります。
1つは、休職中の職場との連絡。
特に仕事が原因でうつ病になった場合は、連絡を取ること自体がストレスになるかもしれませんが、ここで奥さんやご主人が間に入ると、家族のストレスが増えるだけです。
入院中などで本人が連絡を取ることが難しいような場合は除いて、職場とのやり取りは極力本人に任せましょう。
2つ目は、主治医との会話。
通院が続くと、診察室に入って主治医から聞かれるのは「どうですか?」という、非常に大雑把な質問です。私も最初は戸惑いました。
既に基本的な状態は知っているうえで、前回診察時からの「差分」を聞き取ろうということなのでしょうが、「どうですか?」だけでは何を話していいのか分かりません。困ってしまって黙り込んでしまう人もいます。
そこで家族が気を使わせて代理で生活状況などを話してしまうと、情報共有自体は可能ですが、本人の言葉ではないので実際の症状の程度が正しく主治医に伝わりません。
また、「自分のことなのに自分で話せなかった」「本当は違うのに家族が勝手に伝えた」のようなすれ違いも起こりかねません。
診察室まで同行したとしても、極力家族は会話に口を挟まないようにしましょう。
⑤どうしていいか分からない時は「放置」する
「うつ病の人に『頑張れ』は言ってはいけない」のように、うつ病の人とのコミュニケーションは通常とは少し違います。
頑張らせようとする意図はないとしても、何気ない一言が違う解釈に繋がりかねません。
それくらい過敏で、ある意味偏った状態にあるのです。病気ですから。
どう接したらいいか分からない時は、無理に声かけしなくていいです。放置しましょう。
放置、というとまるでネグレクトのように聞こえるかもしれませんが、衣食住の世話を放棄する、というのではなく、「見守り」の姿勢を取る、と言うことです。
うつ病に限らず、四六時中気を使われ続ける、というのも、息苦しいものです。
少し放っておいて、思い付いたことがあればその時声をかけましょう。
もしくは相手から動き出すのを待ちましょう。
「何もしない」空白の時間を持つことで、「自分から動こう」という自主性を思い出すことへもつながります。
2.うつ療養に関するQ&A
①「毎日の過ごし方」の家族側が気を付けるポイントは?
主治医から何かアドバイスや指導が出ている場合は、本人がそれを守れるよう手伝いましょう。
ただ、強制はしなくていいと思います。
出来ないなら出来ないなりの理由があるはずなので、それを一緒に考えて、次の通院時に伝えましょう。
それ以外は、衣食住を欠かさないように見守りましょう。
②回復のきざしは何がありますか?
少しずつ「自分から動く」様子が出てきます。
ずっと入らなかったお風呂に入ったり、ひげを剃ったり、季節に合わせた服を買ったりするかもしれません。
行動ではなく、「この先どうしようか」のような、ずっと避けてきた会話を自分から持ち出すかもしれません。
しかし症状が一進一退なのは同じなので、大袈裟に喜んだり先を急いだりしないように気をつけましょう。
③一人暮らしでうつ病になった時の注意点
もし実家があって頼れるなら、自分で最低限の家事をこなせるくらい復活するまでは親と同居する、というのもアリですね。
そういう頼れる先がない時は、まずは市町村の保健センターや「精神保健福祉センター」に相談してみましょう。
公的機関は困った時にこそ使い倒すべきです。
④散歩ってうつ病にどんな効果があるの?
まず、太陽の光を浴びることで、崩れた体内時計が調整されます。
体内時計が正しく働くと、夜眠れるようになります。
夜の睡眠がとれるようになると、体と頭の疲労が取れやすくなり、思考力が回復してまとまった考え事が出来るようになります。
歩くと体力を使うので、お腹がすきます。食欲不振気味だった人も食事をとれるようになり、疲れた分、夜の睡眠が促されます。
歩く、という動作に集中することで、余計なこと(過去への後悔、未来への不安)を考えない時間を作れます。
ただ、「散歩に行こう」と思えるようになったこと自体がうつ病が回復してきている証拠でもあります。
⑤うつの人にやってはいけないこと
色々あると思いますが、私が一番NGだと思っているのは「犯人捜し」です。
うつ病になった理由、原因、きっかけを把握しておくことは再発防止のために必要ですが、やり過ぎると
「あの時もっと~~していれば」
「どうして~~出来なかったのだろう」
「あの人さえいなければ」
のように、思い出したところで役に立たず、うつ病の人が自分を責めるだけの回想になります。
ある程度うつの原因が分かっているなら、過去をほじり過ぎるのはやめましょう。
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全4回で考察してきた「うつ療養中の過ごし方」ですが、如何でしたでしょうか。
うつ病本人が出来ること、家族が出来ること、主治医にしか出来ないこと、他の人(公的機関含む)に頼ったほうが楽なことなど、色々あります。
その全てに共通するのが「誰もが一人の人としての尊厳を持っていることを忘れない」と言うことだと思います。
うつ病だから何も出来ない⇒家族が全部やってあげなきゃ、と言うことはありませんし、家族も全部やってあげられるほど強くありません。必要なら逆に家族がうつ病の人を頼ってもいい。
うつ療養生活を経ることで新しい家族としての形が見えてくることを信じています。
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