共感しすぎて辛い!家族のネガティブ感情への対処法と共感疲労防止のポイント
前回は「家族のうつ生活から得られるもの ①心の動きと回避したいものというコラムで、家族がうつ病になった時、多くの家族が辿るだろう心の動きについて考察しました。
色んな体験や周囲の意見、自分の中の葛藤を経て現状に適応したとして、その適応が薄氷の上にあるなら、何かの拍子でまた元の不安定に戻ってしまったり、「また辛かった時にもどってしまうのでは」という不安に付きまとわれてしまいます。
家族のうつ病というトラウマ的体験の先に何が得られるのか、を知って、「適応段階」の更に上を見つめることで、心の安定はより盤石になっていくのでは、ということを、心的外傷後成長の理論に沿って考えてみました。
1.適応段階の先にある「心的外傷後成長」
心的外傷後成長とは、
●トラウマ的体験(地震や戦争被害、災害、事故、性的被害など、その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事)後にみられる心の成長
●辛く苦しい経験をきっかけとした心の成長
を指します。
災害や事故に遭遇した人が、その後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することがあるのは広く知られています。
しかし、辛い経験をした人の全てがPTSDを発症するわけではありません。
それと同じように、辛い経験をした人の全てがPTGに至る、ということでもありません。
自分の人生観を一変させるような経験をした後に、その状況をどのように受け止めるのか、によって変わってきます。
また、その間にいくつかの必要な要素が加わることでも変化します。
うつ病になってよかった、という意味ではありません。
家族(または本人)がうつ病になった、という経験を通して、新たな価値観や認知(ものの見方)を獲得することで、それ以前よりも人として成長できたことを自分で実感出来たり、その後の人生への展望が明るくなる、という状態です。
家族がうつ病になった時、その状況への適応段階を「ゴール」としてしまうよりも、その更に先のステップがあることを知ると、適応段階では得られなかった「安心」と「人生の方向性」を見出すように、心の動きが変わってくるのではないでしょうか。
2.PTG(心的外傷後成長)に至る過程
①深く考え、反芻する
大きな出来事を体験すると、しばらくの間は気がつけばそのことばかりを考え続けています。
どうしてこうなったのか、何がいけなかったのか、回避することは出来なかったのだろうか。
辛い、悲しい、苦しい、こんな気持ちは早く終わってほしい。
など、考えようとしなくても自動的に湧き上がってくる感情や思考の渦に、自分が巻き込まれていくような感覚です。
②嘆きや悲しみの減少
沈思黙考や反芻の時期が過ぎると、少しずつ嘆きや悲しみのようなネガティブ思考が減少していきます。
実際には減ることはないかもしれませんが、少しずつ慣れてくることで、体験当初と比べると強度が下がっていくのでしょう。
体感値としてのネガティブ度が下がっていくことで、意識的に事態と向き合おうという気持ちが湧いてきます。
③自己開示
事態と向き合おうと思えると、自分の気持ちを形に表すようになります。
具体的には
●人に話す
●書く(日記、SNSなど)
のように、どんなことが起きて、それに対して自分がどう感じたか・考えたか、これからの不安や悩み、何を知りたいのか、何が必要か、等について、外に対して表現する=自己開示します。
④体験への見方が変わる
自己開示によって自分の体験を語る作業を繰り返すことで、他者からのコメント、励まし、中には批判や、他の人の体験談、専門知識などと接触するようになります。
それらを時間をかけて自分の中に取り込んでいくことで、トラウマ的体験への見方(認知)が変化していきます。
そして、いつしか以前には無かったような心の柔軟さ、回復力、許容量の増大、新しい価値観などを獲得できています。
それが「心的外傷後成長」出来た状態です。
3.心がPTGへ向かうための3大要素
①レジリエンス
「個人内的要因と環境要因のダイナミックな相互作用によって、個人を困難な状態から回復へ導く力」
という意味です。
自分にとってストレスフル・トラウマ的体験をした時、メンタルが損なわれたり葛藤が生まれます。
そうした心の状態と、外部との関わりによる双方向の作用を経て、辛い状態から回復していく力のことで、復元・耐久・復元していくことが出来ます。
先天的なものではなく、生きていく中で養っていくことが出来るスキルです。
②マインドフルネス
すでにとても有名で、当コラムでもしょっちゅう出てくる概念ですが、
「意図的に、今この瞬間に、価値判断することなく注意を払うこと」
です。
人は特に意識せず思考を巡らすと、今この瞬間ではない時空(過去や未来)のことばかり考えています。
あの時こうすればよかった(過去)、こんなことが起きたらどうしよう(未来)のように、です。
しかし、過去や未来のことばかり考えていても、具体的で現実的な対策は思い浮かばず、必要以上の危機感や後悔を自分に植え付けるだけです。
マインドフルネスによって、必要以上の反芻や後悔から自分を解放し、今この時がどんな状態か、を、良い悪いの判断ではなく冷静に観察出来ることで、それに対する対策を考えるきっかけがつかめます。
③ソーシャルサポート
「社会的支援」で、周囲の人々から与えられる物質的・心理的支援の総称です。
具体的には
●家族
●友人、知人、職場の関係者
●市区町村の担当者
●医療、福祉の専門家
などとの関わりや、そうした人達からのサポート、具体的な支援サービスの活用まで含まれるでしょう。
自分の心の外との関わりは、胸の内でぐるぐる考えているだけの時よりも大きな刺激を受けます。
そこで受けた刺激を、「反芻」や「沈思黙考」によって自分の中で咀嚼⇒消化し、自分なりの解釈によって事態の解決のための対策立案への材料とすることが出来ます。
また、支えてくれる人がいる、という安心感によって、不要に不安や恐怖を増大させずに、心を落ち着かせて状況に対処することが出来るようになります。
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では、PTG(心的外傷後成長)に至ったら、うつ病家族はどのように変容するでしょうか。
また、その為にこれから出来ることは何でしょうか。
次回は上記について考えてみたいと思います。
<参考文献>
「ネガティブな体験後の心理的成長に関わる概念の文献的検討」千葉 柊作、東北大学大学院教育学研究科研究年報、2020-12-22
「マインドフルネス傾向が外傷後成長(PosttraumaticGrowth)生起に与える影響について」村田紗裕美
「困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ」上野雄己、飯村周平、雨宮怜、嘉瀬貴祥、Japanese Psychological Review 2016
「心的外傷後成長の考え方 -人生の危機とポジティブな心理的変容-」飯村周平 中央大学大学院 文学研究科 January 2016
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