うつ病家族に必要な〇〇力 -放置力-
家族がうつ病(その他精神疾患)になる、という状況は、言うまでもなくネガティブでショックな状況です。
病気になった本人は勿論、ほとんどの家族にとっては「青天の霹靂」状態で、パニックになったり事態を恨めしく思ったりするでしょう。
しかし、長い目で、本当に長い期間を経たあとで、その体験から大きく成長するケースがあります。
どんな流れで、どんな要素が揃うと、辛い体験が「心の成長」へ繋がるのか、その為にどんなことが出来るのか、を、考えてみます。
1.家族がうつになった時の、家族側の心の反応と変遷
以前、【うつ病を受け容れるステップ】という記事を書きました。
家族がうつ病になった、という事実に対しショックを受け、それを受け容れることが出来ず葛藤する時期を経て、時間をかけて適応していく、という流れがあります。
適応する、ということは、その状況(家族がうつ病であること)を受け容れて生活するということです。
これはとても大事なことで、受け容れることが出来ないと、日常生活がストップし、家族側のメンタルヘルスも脅かされる危険があります。
とはいえ、そう簡単に適応できるものでもない。
また、将来に対する不安は、時間の経過とうつの回復度が比例しなければ、むしろ高まっていってしまいます。
経験者から「いつかきっと良くなるから」と言われても、自分達は違うのでは、と、否定的な意味で個別化してしまいます。
自分達家族が、うつ病家族の中でも「普通ではない」と思ってしまうと、より一層相談したり助けを求めたりしづらくなってしまいます。
四苦八苦して、七転八倒して、本人とケンカしたり主治医と戦ったりしながら、ようやく「これはこれとして受け容れるしかないのだ」と、諦めも含めた「適応状態」に至る人が多いのではないでしょうか。
そこまで辿りつけたことは素晴らしい。
しかし、当初には予想していなかった苦労に山ほど遭遇したことでしょう。
更に言うと、適応したとはいえ、将来への不安が消えたわけでもなく、受け容れた現状を歓迎しているわけでもありません。
どうにか現状維持、という状況の方が多いのではないでしょうか。
2.適応しても怖い「共倒れ」と「家族崩壊」
福祉用語で「貧困線」というものがあります。
ある一定レベルを超えると貧困(生活出来ないレベル)になる、という意味ですが、これが二段階構成になっています。
すでに貧困ラインに至ってしまっている層と、現状では普通の生活が保てているけれど、何か一つでも生活を脅かす要素(家族員の誰かの失業・疾病・障害など)が起きると貧困ラインに突入してしまう層の二つです。
家族がうつ病になった時、その家族のメンタルは、これとよく似た状態にあると感じます。
お互いに補い合い、病気を受容し、その生活にも適応したとはいえ、ギリギリの状態でやっと保っている、というのが現実ではないでしょうか。
ちょっとした意見のズレで、以前にはなかったような大ゲンカに発展したり、家族側が不調を感じても我慢し続けた結果悪化させてしまったり、丁度金銭的に厳しい時に引っ越しが必要になったり、など。
こうしたことが続くと、一度は適応したはずのうつ療養生活の中で、再び共倒れなどの不安が膨らんできます。
それを避けたいからこそ、頑張って適応段階までたどり着いたのに、そう簡単に安定を長続きさせてくれないのがうつ療養生活です。
綱渡り、という表現が、まさにぴったりかもしれません。
3.本当の意味で「共倒れ・家族崩壊」の危機を回避するには
頑張って適応状態をキープしたとして、その先にどんな展望が待っているのでしょうか。
勿論うつが回復し、少しずつでも心身と生活が安定していくことが本来の目標です。
しかしそこだけを見つめていると、中々近づいてこない目標に、生活へのやりがいよりも疲労のほうが積み重なってしまいます。
うつ病だけでなく、メンタルな病気は一進一退を繰り返すものですから。
そうした毎日を過ごす中で、「日々の生活への価値」を感じられるとしたら、どうでしょうか?
支えるため、現状維持、そしていつかかなうだろう「うつ病の回復・社会復帰」ばかりを見つめるのではなく、今の生活自体が自分達に何らかの利益をもたらしてくれる、と考えたら。
「心的外傷後成長」(Posttraumatic Growth)という考え方です。
辛く苦しい経験をきっかけとした、心の成長のことを指します。
「トラウマ」と聞くと、PTSDは有名ですね。
人生や価値観を一変させるような出来事によって、メンタルヘルスが大きく損なわれる症状です。
しかし、トラウマ的出来事は、全ての人に置いてPTSDへつながるものではありません。
中にはその経験を経て、大きく心が成長していく人もいます。
私は、家族のうつ病もまた、「人生や価値観を一変させるような大きな出来事」だと考えます。私自身がそうでした。
ただ、「我慢していれば成長する」というものではありません。
トラウマ体験を経て心の成長へつながるためには、必要な要素がいくつかあります。
その要素を得て、どんな経過で成長し、成長したらどんな自分になれているか。
そしてそのために今から出来ることは何か、について、次回以降お話したいと思います。
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<参考文献>
「ネガティブな体験後の心理的成長に関わる概念の文献的検討」千葉 柊作、東北大学大学院教育学研究科研究年報、2020-12-22
「マインド、フルネス傾向が外傷後成長(PosttraumaticGrowth)生起に与える影響について」村田紗裕美
「困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ」上野雄己、飯村周平、雨宮怜、嘉瀬貴祥、Japanese Psychological Review 2016
「心的外傷後成長の考え方 -人生の危機とポジティブな心理的変容-」飯村周平 中央大学大学院 文学研究科 January 2016
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