家族の理想像の具現化 ~ケアラーの役割と共有された目標~
うつ家族に必要な力の二つ目は「放置力」です。
放置、というとあまり良くないイメージがあるかもしれませんが、うつ病のリハビリと長期療養期間で家族が潰れないためにはとても重要なスキルです。
では、どんな風に「放置」すればいいか、考えてみましょう。
1.放置=適切な距離を置くこと
①心理的距離
大事な家族がうつ病になれば、心配でそのことばかり考えてしまうのは仕方のないことです。
しかし、自分にも生活もあればプライベートも仕事もある。うつ病の家族のことばかり考えていれば、それ以外が立ち行かなくなるのは当然の流れです。
うつ病であっても、「相手は相手、自分は自分」と距離を取ることが必要です。
②物理的な距離
私自身も経験がありますが、本人が心配なのと、「淋しい」と言われるのと、一人では何も出来ない・しようとしない状態を知っているために、必要でもないのに常に一緒にいようとしてしまいます。
これも長い目で見れば無理があります。
いきなり自分だけ実家に帰る、とか、そういう荒療治はデメリットが大きすぎますが、1時間⇒3時間⇒半日、のように、休日で物理的に離れている時間を作りましょう。
「家族の看護に縛られている」という疲労感から解放される必要があります。
③社会との距離
残念な現実ですが、うつ病をはじめとした精神的疾患への偏見はまだあります。
9人が心から心配してくれても、1人から批判的なことを言われれば、その意見に縛られ左右されてしまいがちです。
社会の中で生きているのですから、周囲を完全スルーすることは難しいですが、「自分達にとって、今メリットとなる意見」以外とは距離を取りましょう。
それは耳を傾けないのではなく、自分達の心の健康を保つための防御方法です。
2.手を出さないで「見守る」
①とりあえず本人にやってもらう
思考力も集中力も以前とは別人のようになったうつ病の人に、一人で任せるのは心配も多いかもしれません。
ただ、そんな状態にありながら本人が「やりたい」と思ったことは、泥の中から花が咲こうとしているようなもの。
まずは本人に任せましょう。
②口を出し過ぎる時はこちらがマインドレスになっている
「マインドレス」とは、マインドフルの逆です。
つまり、「心ここにあらず」「今・この瞬間を見ずに違うことを優先して考えている」状態です。
もしも~になったら、ばかり見て、本人の状態を見ていません。
そのことに気づけたら、自然と手も口も止まるでしょう。
③「一人で出来た」体験がうつ病には大事
うつ病前がどんな人だったか、を別にして、自信値が「ゼロ」になってしまうのがうつ病です。
自分は何も出来ない、何をやっても失敗する、周囲に迷惑かけてばかり……。
そう考えているなら尚更、「自分一人で出来た」という実感は、回復への大きな一歩になります。
その為には家族は手伝わず、本人に任せる必要があります。
3.「放置」と「見放す」は違う、ということをしっかり伝える
前述したように、本人がやりたいと思った自分自身のことは本人に任せることが重要ですが、それは決して「見放した」わけではないことを、言葉で伝える必要があります。
なぜならうつ病とは孤独感も半端なく抱えています。
今までならあれこれ口を出してきた家族が急に何も言わなくなったら、「もう家族からも見放された」と思い違いをする危険があります。
「まずは自分でやってみるといいよ。でも困ったら相談してね」
と伝え、うつ病家族の安全基地になりましょう。
≪安全基地とは≫
J.ボウルビィの「アタッチメント理論」において、子どもが成長過程において固有の大人との密な交流を体験することで、「何かあれば<固有の大人>のところへ戻れば大丈夫」と思えるようになります。そこから次第に活動範囲が広がっていく。その<固有の大人>を差して安全基地と呼びます。
4.≪注意≫希死念慮は放置しない
うつ病で最大の危険は「希死念慮」です。
これだけは放置してはいけません。
本人から「死にたい」「生きていてはいけない」等の言葉が出てきたら、まずはしっかりと話を聞きましょう。そして主治医またはその他専門家へ相談しましょう。
また、家族が話を聞くときに、「自殺は悪だ」という、あたかも一般論のような言い方で説得するのもやめましょう。それは言われるまでもなく本人が一番分かっています。それでも「死にたい」と思ってしまうくらい辛いのです。分かっていることを家族から言われると、「こちら(うつ病)の気持ちは分かってもらえてない」と、孤独感を増してしまう危険があります。
「あなたが死んでしまったら、私はとても悲しい」
のように、『私』を主語とした「アイメッセージ」で気持ちを伝えましょう。
家族だからこそ出来る説得方法です。
≪まとめ≫
うつ病療養期間はとにかく長いです。何度もいいます、言いたくないですが……。
一心同体、二人三脚でびったり密着して同化したままで生活すると、ほぼ確実に家族もうつ病になります。
より状況を悪化させないために、少しずつでも確実に回復していくためにも、適度な距離を保てる「放置力」を身につけましょう。