うつ病を受け容れるステップ

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:ケアラー支援

うつ病を受け容れるステップ

自分自身がうつになった場合でも、家族がうつになった場合でもそうですが、「なった」ことを受け容れることはそう簡単な問題ではありません。
しかし否認し続けることもまた、現実的ではないですよね。

どのようにうつ(又はその他疾患、障害)を受け容れていくのか、今どこにいて今後どんなステップへ進んでいくことが出来るのか。
その流れを知ることで、回復・適応への道が開けていきます。

1.障害受容のステップ

病気や障害を自分のものとして受け容れることを「障害受容」といいます。
大まかな流れとしては、以下の5ステップがあります。

  1.  ショックの段階…自分に生じた現実に衝撃を受ける時期。反面、その生涯を重大なものとは捉えられず、不安はそれほど強くない。
  2. 回復への期待の段階…障害を伴ったことを認める段階。しかし永続するものとは考えず、回復への期待も大きい。
  3. 悲嘆の段階…障害の重大さを認めざるを得ない段階。障害によって人生設計や希望が阻害されることを感じ始めて、衝撃を受け混乱を体験する。
  4. 防衛/回復への努力の段階…障害の重大さに圧倒され、抑うつ・逃避などの心理的防衛が見られる時期。その中で、自分の弱さや意欲のなさに真の問題があることを自覚し始める段階。それと共に回復や適応への努力が開始される。
  5. 適応の段階…新たに獲得した価値観とともに現実を生き始める段階。

2.すぐに受け入れられないのは当たり前

不眠、食欲不振、意欲の低下などの自覚症状が続いていたとしても、現実として医師から「うつ病です」と言われて、すぐに納得できる本人も家族も少ないでしょう。
それは、ショックだ、というのもありますが、「すぐに良くなる」という希望(楽観)もあるからです。実際、比較的早く回復するケースもあるので、そう考えることは不思議ではありません。
また、楽観視しているわけではなくても、確定診断が出たことで、「気のせいだ」と思い続けていた人は自分の悪い予想が当たってしまったことがショックで否認したくなります。

問題が大きいほど、受け容れるまでに時間がかかるのは当たり前なのです。

3.家族も同じようなプロセスをたどる

<1>のプロセスはうつ病になった本人の辿るステップですが、同居家族もほぼ同じようなステップを辿ると思われます。
ただ、自分自身ではないので、感じている辛さや困りごとは微妙に違います。
なので、重大に考えすぎたり、逆に楽観視し過ぎたりする場合があります。

また、うつ病本人の進度とズレる(本人より先に進む、または後追いになる)場合に衝突が起こる可能性もあります。
例えば家族のほうが先に適応段階まで進んだ場合、悲嘆や否認段階で止まっている本人に対して焦りを感じてしまったり、逆に本人のほうが先に適応段階に進んだ場合、それが楽観視しているように見えたり、受容を回避することで本人が抱えている困難を理解しづらくなったりするかもしれません。

4.悲嘆の段階をどう受け容れるかが重要で難しい

③の悲嘆の段階では、今まで生きてきた中で培ってきた価値観や将来像が損なわれる体験をします。

例えば結婚して親になって子どもが出来て…、という段階を順調に進んできた人が、うつ病により休職や退職を余儀なくされ、予定していた収入を得られなくなったことで、家族計画や住宅取得計画を変更せざるを得なくなったりします。
自分がずっと望んできたものはもしかしたら得られないかもしれない、という現実は、想像以上の喪失感を覚えるでしょう。そう簡単に乗り越えられるものではありません。
かといって、悲嘆し続けていると、将来が暗く閉ざされたものにしか見えず、現在の環境の否定的な面ばかり気になってしまい、抑うつ感は高まる一方です。
うつ病で一番注意したい希死念慮が高まりやすい段階でもあります。

辛さの表現方法として「死にたい」「生きていても無駄」等の言葉が本人からもれてくると、家族は不安と恐怖で混乱します。
そうなってほしくなくて、「そんなこと言っちゃだめ」「死ぬなんて言わないで」と、自分の恐怖を打ち消したくて本人の辛さの発露を否定することもあります。
家族から「死にたい」と言われて落ち着いていられる人などいませんからごく自然な反応なのですが、本人としては現在の辛さそのものを否定されたような拒絶と孤独を感じて、更に悲嘆の内側に閉じこもってしまいます。

④の「自分の中の真の問題の自覚」と⑤の「新しい価値観の獲得」のためにも、③の悲嘆段階で自分の辛さ、ショック、喪失感と根強く向き合えるか、が重要であり、慎重さが必要でしょう。

5.適応段階へ到達するための、新しい価値観の獲得

うつ病という新しい条件が加わった今、それが無かった時と同じ生活や同じ将来像を求めるのは中々難しいです。
自分、または家族がうつ病である、という現実を加味した上で、新しい方向性(価値観)を模索する必要があります。
これは家族によって色んな形があるでしょう。

夫がうつ病になった→妻も働く
妻がうつ病になった→夫が今までよりも家事育児を負担する、どちらかの両親と同居して手伝ってもらう
うつ病になって大学を中退→通院しながら別の学校へ入り直す

など、将来像だけでなく、生活手段も含めて再構築するようになります。
新しい価値観と共に再生した人生の始まりです。
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人によっては①がなく②から始まったり、④と⑤がほぼ同時期に訪れることもあるかもしれません。
こうした流れがあることを知ることで、自分や自分達家族が今どこにいるのか、次にやってくる段階は何なのか、それに対してどうやって対応することが出来るか、を考えることが出来ます。

流れがあることを知らないと、③が永遠に続くと思ってしまうかもしれません。
一番辛い③を乗り越えることで、回復→適応への道が開ける、ということ、知っていただきたいと思います。

≪参考文献≫
新・精神保健福祉士養成講座〈2〉 精神保健の課題と支援 第2版(日本精神保健福祉士養成校協会 (編集)、2015/1/30)

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西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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