働き方:コロナ後のアジャイルな働き方:どこからでも働けるようにするために

小川芳夫

小川芳夫

テーマ:働き方

このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

新型コロナウイルスが流行する以前からVUCA(ヴーカ)は言われていました。VUCAとは、Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字です。不安定で、不確実で、複雑で、不明確といったところでしょうか。

コロナ禍になり、不安定性、不確実性、複雑性、不明確性は増していると感じます。

このような環境の下、アジャイルという言葉を最近良く見聞きするようになりました。
アジャイル、英語のagileで「機敏な」という意味の形容詞です。
アジャイルはソフトウェア開発で使われている開発方法の1つです。ソフトウェア開発で使われている方法が、ソフトウェア開発以外でも見聞きするようになっています。例えば、働き方、経営、組織文化。

このコラムはアジャイルな働き方について書きます。
私は今までにアジャイルな働き方に関して、下の3本のコラムを書いています。


2021年5月中旬に、クラウド上のホワイトボード・ツールの 米国MURAL社 が開催したウェビナー "Staying Agile With a Hybrid Product Team" が開催されました。このウェビナーはアジャイルなソフトウェア開発に振った内容になっていました。

このコラムでは、ウェビナーからエッセンスを抽出して、コロナ後のアジャイルな働き方に役立つ内容としたいと思います。

  1. はじめに、ハイブリッドなチームとは何か、どこからでも働けるとはどのようなことか、ということについて説明します。
  2. 次に、ハイブリッドなチームが協働できるようにするためのキーポイントを説明します。概念的な内容になりがちですが、できるだけ具体例も使いながら、わかりやすく説明します。
  3. 最後に、ハイブリッドなチームの協働の具体例を簡単に示します。


私がアジャイルな働き方と出会ったのは2014年頃です。アジャイルな働き方が腑に落ちるまで時間がかかりました。試行錯誤しながら約4年間アジャイルな働き方を実践しました。コロナ禍でVUCAの今、アジャイルな働き方は1つの有力な選択肢ではないか、と私は思っています。自身の経験を踏まえて、このコラムを書きます。

このコラムは次の3つの章で構成します。10分程度で読める内容です。


私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。

ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。


1. どこからでも働けるハイブリッドなチーム

コロナ禍でロックダウンされたり、外出制限が出ていた国では、WFH(Work From Home、在宅勤務)という言葉を良く見聞きしました。ワクチン接種が進んだ国では、しだいにオフィスに人が戻ることが予想されています。

他方、長期間在宅勤務していたため、生活リズムが在宅勤務に慣れてきたこともあり、在宅勤務を続けたいと考えている人も多いと聞きます。

このような背景から、WFHはWFA(Work From Anywhere、どこからでも働ける)という言葉に変わってきつつあるようです。チーム内のある人は自宅から、別の人はオフィスから、またある人は自宅でもオフィスでもない別の場所から働ける。WFAとはそのような働き方です。いろいろな場所で働くチームという意味で、ハイブリッドという言葉を使い、ハイブリッドなチームといいます。コロナ後を見据えた動きなのでしょう。

日本ではどうでしょう。

ほぼ100%テレワークという方もいらっしゃるでしょう。他方、ほぼ100%オフィスに出勤しているという方もいらっしゃるでしょう。

日本ではロックダウンや外出制限がないので「在宅勤務しなければならない」というマスト(must)な状況にはなりませんので、他国とは環境が異なります。一方で、自然災害は発生するかもしれません。スーパー台風、集中豪雨、地震、それに伴うインフラの損壊。これらは毎年のように日本のどこかで発生しています。交通機関が正常に動いていないため、長蛇の列の中待ち続ける光景を見ます。

オフィスに出勤しなくても働けるようにしておくことは意味があります。

また、優秀な人の確保という点からも、どこからでも働けるようにしておくことは意味があります。優秀な人とは「会社が必要としている人」とも言い換えられると思います。チームにとって「やめられてしまうと困る人」とも言えるでしょう。

例えば、親の介護でひと月のうち数日間田舎で生活する必要がある人。パートナーの勤務の関係で数年間海外に移住することになった人。私は会社員時代にこうした人たちと協働した経験があります。幸い時差が少ない国だったので、時差に悩まされることはなかったです。

私はグローバル・プロジェクトに長年携わっていました。北米、南米、欧州、アジア、アフリカといった地域の人たちとチームを組んで協働しました。在宅勤務の人もいましたし、オフィスで働いている人もいました。ハイブリッドなチームでした。時差の関係で、深夜や早朝に働くことは少なくなかったですね。どこか1カ所に全員集まって仕事をするというのは現実的ではなかったのです。チームの人員数が多かったですし、プロジェクトの期間が長かったこともあり、子育て中のお父さんやお母さんもいましたし、コスト面からもプライベート生活への悪影響の面からも長期間大勢が1箇所に集まるという選択肢はありませんでした。

さて、このコラムはアジャイルな働き方について書いています。
アジャイル開発では「開発チーム内で最も効率よく効果的に情報を伝達する方法は対面でのコミュニケーションである」と言われています。


「そうだよね。やっぱり対面でのコミュニケーションじゃないと。」と感じた方も多いのではないかと思います。
ウェビナーに登壇した人たちは米国の会社の人たちなので、「対面でのコミュニケーション」ができない状況の下で、どうしたらアジャイルにできるのかを模索したそうです。そして今も試行錯誤を続けているようです。


次章では、ウェビナーで語られていた「ハイブリッドなチームが協働できるようにするため」のキーポイントについて、私の経験も合わせて書きます。


2. ハイブリッドなチームが協働できるようにするためのキーポイント

この章では、1章で紹介したハイブリッドなチームというものが、協働できるようにするためのキーポイントについて考えます。

☆デジタル・ファースト

ハイブリッドなチームは全員が1箇所に集まっているわけではないので、協働するためのITツールを使う必要があります。どのツールを何のためにどんな場面で使うのかがキーポイントです。この点は、この章の中で具体的に説明していきます。

次のような経験をしたことはありますか?
あなたはテレワークで自宅からオンライン会議に参加している。オフィスの会議室から複数の人たちがオンライン会議に参加している。
オフィスの会議室から参加している人たちがホワイトボードを使い始めた。カメラでホワイトボードを撮りながらあなたに共有します。ホワイトボードに書いている人の体が邪魔をしてホワイトボードがよく見えません。最初は見えないことを指摘しました。その後しばしば見えないことがあったので、指摘することを諦めてしまいました。

ハイブリッドなチームの場合、会議室のリアルなホワイトボードではなく、クラウド上のホワイトボードを使うべきです。例えば、MURALmiroLucidspark 、マイクロソフトやグーグルもホワイトボードを持っています。

☆ファシリテーションを活用する

オンライン会議に参加したことのある方へ質問です。

あなたが参加したオンライン会議は全員が発言していましたか?
サイレント・マジョリティーというか、何も発言しなかった人が複数いたのではないでしょうか?
そんな時、発言を促すような問いや働きかけはありましたか?


コロナ禍になり、eラーニングやウェビナーが一気に増えた感があります。eラーニングやウェビナーは基本説明者から視聴者への一方通行な情報伝達なので、オンライン会議になってもeラーニングやウェビナーのノリで参加してしまう人がいるのではないかと思います。

そもそもオンライン会議であれ会議室でのリアル会議であれ、人前で自分の考えを言いたい人、思いついたらすぐに口に出す人、自らは自分の考えを言わない人など、いろいろな人がいます。多様なのです。どちらが良いとか悪いというものではありません。このあたりの多様性について『会社の会議:従業員体験を向上させるファシリテーション:会議に活かす性格分類』 というコラムを書いています。ファシリテーターは、多様な人たちが会議に参加していることを意識する必要があります。

会議を開催する目的は下記3点ではないでしょうか。

  • 参加者全員で、課題について議論し、打ち手を合意形成すること
  • 誰が、何を、いつまでに、何の役割を持って、実施するのか、を合意形成すること
  • 今後、どのように実施状況を追跡するのか、を合意形成すること


ファシリテーターがいれば、意見が否定されることのない、心理的に安心安全な場を作ります。そして、全員から意見を引き出そうとします。リアル会議であってもオンライン会議であっても。1回の会議だけで習慣付くことは難しいかもしれませんが、何回かファシリテーターがいる会議に参加することで、安心して意見を言えるようになってきます。これは、会議に参加するモチベーションにつながります。自分の意見が議論に役立っているということを体験することで、充実感が増します。

ファシリテーターは議論を見える化します。発言者の意見はホワイトボードに書かれます。こうすることで、自分の意見が聞いてもらえた、自分を受け入れてもらえた、という安心感や充実感につながります。
オンライン会議の場合は、クラウド上のホワイトボードを使って、議論を見える化します。


ファシリテーター以外のチームメンバーの方々には、ファシリテーションを活用した会議とはどのようなものか、理解してもらうことが必要です。ファシリテーターがチームメンバーに説明して理解してもらうのが良い、と私は考えます。

また、会議室でのリアル会議に比べて、オンライン会議のファシリテーションは数段難易度が高くなります。ファシリテーターの方は、自分のファシリテーションを振り返りスキルアップすることを習慣にして、自分たちのオンライン会議のファシリテーションスキルを磨くことが大切です。

☆自分の考えを自分で書く

会議室での会議の場合、発言者の意見はファシリテーターか書記役の人がホワイトボードに書きます。
一方、オンライン会議の場合、参加者自らが自分の意見をクラウド上のホワイトボードに書く(タイプする)ことができますので、そのようにします。


あなたは今までに、話が長くて今一つ何を言いたいのか理解できない、という人に会議で出会ったご経験はありますか?
こういう人はいます。珍しい話ではありません。

会議室での会議の場合、ファシリテーターがその人に何が言いたいのかを、聴き出しながら確認しながら、リアルなホワイトボードに書きます。改善活動などで付箋を使って、会議参加者に付箋に意見を書いてもらって、付箋をホワイトボードに貼りながら意見をグルーピングしたりしたご経験をお持ちの方がいらっしゃると思います。親和図法ですね。ざっくり一言を書く人、小さい字で付箋にぎっしりと書く人、粒度がバラバラな場合があります。ファシリテーターが粒度合わせをしながら、議論を進めていただろうと思います。

自分の考えを自分で書いてもらうということは、意見間の粒度がバラバラになりがちです。
ファシリテーターがチームメンバーに「ファシリテーションを活用した会議とはどのようなものか」を説明し理解してもらうときに、この点もしっかり伝えるべきです。
例えば、PREPというフレームワークを紹介し、これを使うことを提案して、合意されたならば、意見はPREPで書いてもらう・言ってもらうということを、グラウンド・ルールに加えたら良いのです。


PREPとは、Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(結論)の4つの頭文字で、PREPの順に簡潔に話したり書いたりします。
例をあげます。

  • 結論(Point):生産性を高めるためにアプリでの電子マニュアルを導入すべき。
  • 理由(Reason):現状、紙媒体のマニュアルを使用しているが、メンテナンス不足による問題が起きている。また、作成および管理業務に人的コストがかかっている。
  • 具体例(Example):飲食店の調理マニュアルは毎月新しいメニューに更新する必要があり、作成、印刷、配布が面倒。アプリなら低コストで短時間に更新・配信可。
  • 結論(Point):電子データでマニュアルを管理できるのは便利。生産性を高めるためにアプリでの電子マニュアルを導入すべき。


リアルなホワイトボードの場合、上記のPREPを全て記述すると多くの場所を取ってしまいますし、ビジーな感じになってしまいます。クラウド上のホワイトボードであれば、例えば「生産性を高めるためにアプリでの電子マニュアルを導入すべき」を書いておいて、理由・具体例・結論はコメントに記しておく、というやり方ができます。コメントの中身はコメントアイコンをタップかクリックすると表示されます。なお、現時点でこのようなコメント機能がないホワイトボードもあります。

また、クラウド上のホワイトボードは、ITツールですので、図形を書いたり、図形で囲ったり、画像を貼り付けたり、動画を貼り付けたり、音声を貼り付けたり、リンクを貼り付けたり、文字以外の情報を貼り付けることが可能ですので、使い方次第で簡単にわかりやすく議論を見える化することが可能です。

自分たちが使うツールの具体的な活用方法を自分たちで決めることは、ハイブリッドなチームで協働するときのキーポイントです。

☆チームメンバー間の信頼を維持する

ハイブリッドなチームはいろいろなところで働いています。対面でない場合が多いと想定されます。

メンバー同士で尊敬尊重し合い、相互理解に務め、励まし合い、合意したことを実施することにコミットすることが大切です。

ファシリタティブなリーダーシップを持って、チームビルディングしチームの関係性を高めることが非常に重要である、と私は考えます。

ファシリタティブなリーダーシップとは、『組織力強化:withコロナのリーダーシップ:ファシリタティブなリーダーシップとは』 で紹介したとおり下記になります。

リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。ファシリタティブ (facilitative) は「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞で、ファシリタティブなリーダーシップは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。

リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、会社の成長に大きく貢献します。

なお、リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。

ハイブリッドなチームでは、対面で協働する場合に比べて、より信頼の醸成と維持に務めることが大切になります。

☆非同期コミュニケーションを活用する

対面でのコミュニケーションは時間と場所を共有してコミュニケーションしますよね。この形のコミュニケーションを「同期コミュニケーション」と言います。AさんとBさんが会話している場面を想像してください。Aさんが「お元気ですか?」と尋ねたとしましょう。Bさんは「おかげさまで元気です。」と返したとしましょう。このように同じ時間を共有していることを「同期」と表現しています。電話で会話しているような感じです。

では、「非同期」とは何でしょう。
同じ時間を共有しないということです。「同期」を電話に例えるなら、「非同期」はメールに例えることができます。「お元気ですか?」とメールで尋ねても、即時に返信する必要はないし、そもそも出来ませんよね。これが「非同期」です。


コロナ禍の中、テレワークをしている人からは、zoom疲れやslack疲れ等の言葉が生まれました。
仕事上のやりとりで、メールやチャットや電話などを使っている方は多いと思います。ほぼ全ての人かもしれませんね。電話は相手の時間を強制的に奪います。集中しているときに電話がきて集中が解かれてしまった。こんなご経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。チャットは同期にも非同期にも使えるのですが、なんだかんだ言って同期コミュニケーションになっているのではないでしょうか。

大切なことは、同期コミュニケーションと非同期コミュニケーションとのバランスを取ることです。
一般的な解決方法は、正直言って、どうでも良いのです。あなたのチームにとっての最適解をチーム全員で合意し運用してみることが大切です。あなたのチームにとっての「ハイブリッドなチームが協働するためのルール」を創るのです。


とはいえ、何もたたき台がないと考えにくいでしょうから、一例として少し書いておこうと思います。
何かのITツールを使うのであれば、どんな目的でどんな時に使うのかを決めることです。例えば、slackに雑談専用チャネルを立てて、ここは非同期にする。1対1のチャットの場合、忙しいときには◯◯分くらい待ってほしいと言っても良いことにする。電話する場合は、相手の忙しさを1対1チャットで確認してからかける。グループチャットの場合は、できる限り即座に対応する(最長1分以内に対応する)。こんな感じでしょうか。

クラウド上のホワイトボードを使う場合は、非同期の恩恵を最大化するべきです。
リアルな会議室に置かれているホワイトボードは、会議室を退出する際に消す必要があります。ホワイトボードの写真を撮ったりしている方もいらっしゃるでしょう。一方、クラウド上のホワイトボードは消す必要がありません。いつもクラウドにあります。


例えば、チームで営業戦略を立てることになり、ある商談についてSWOT分析をして、その後クロスSWOT分析で戦略を立てることになったとしましょう。SWOTは、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、驚異(Threats)の4つの頭文字を並べたものです。よく使われているフレームワークです。下図2つは、私のフレームワーク研修の資料からの抜粋です。(タップやクリックで拡大します)
SWOT
クロスSWOT

リアルな会議室で開催する営業戦略会議であれば、会議時間の中でSWOTを作っていきます。各自付箋に書いたものをホワイトボードに貼ったりすると思います。ブレストを使うことも多いかと思います。同期型です。

クラウド上のホワイトボードであれば、空欄のSWOTを書いておいて、営業戦略会議が始まる前に、各自で時間のあるときにホワイトボードにログインして付箋を貼ることができます。非同期型です。このコラム内で前に書いたように、人前で自分の考えを言いたい人、思いついたらすぐに口に出す人、自らは自分の考えを言わない人など、いろいろな人がいます。ブレストは時間的制約をかけて、ある意味時間のプレッシャーをかけてアイデアを出させる手法です。この時間的ストレスが嫌いな人もいます。少し自分の時間を使って考える方が好きという人もいます。実際、ブレストで出したアイデアは、後になって例えばコーヒーでも飲みながら振り返ってみると、自分のベストな考えではなかった、と思ったことのある方もいらっしゃるのではないかと思います。

チームには、積極的に人前で自分の考えを表明する(付箋に書く)ことに躊躇する人がいる場合があります。比較的内向的な人もいるでしょう。だからといって、その人のアイデアに価値がないわけではありません。外交的・内向的という性格的な面と、アイデアの良否は関係ありません。そもそも多様な人たちの集まりなのですから、どのアイデアも否定されることなく尊重されるべきです。「チームメンバー間の信頼を維持する」の節で書いたとおりです。内向的な人でも、非同期にクラウド上のホワイトボードに入って自分の考えを書くことができます。

クラウド上のホワイトボードを使って、会議が始まる前に議論の準備を済ませておくと、会議は内容の濃いものになり、時間短縮が期待できます。営業戦略会議が始まる前に、各自で時間のあるときにホワイトボードにログインして付箋を貼っておけば、会議開始時点で議論のたたき台となるSWOTが出来上がっています。さらに、会議参加者は事前にたたき台を見ていますから、自分の考えを持って会議に参加することができます。

ここまで準備することを、あなたのチームにとっての「ハイブリッドなチームが協働するためのルール」にすることができれば、会議はコロナ禍前と比べて、かなり異なるものに変わる可能性があります。
もちろん、ファシリテーターは必須です。


この節では、同期型と非同期型のコミュニケーションを説明し、あなたのチームにとっての「ハイブリッドなチームが協働するためのルール」を創ることを提案しました。キーポイントは、自分たちのチームにとって「ハイブリッドなチームが協働するということはどういうことなのか」という問いについて深く考えるということです。
アジャイルに働くのですから、ず〜っと考え続けていてはダメです。考えたことを試し、振り返り、新しく考えたことを試し振り返る。これを繰り返すことで、深く考えることになるはずです。


☆チームで協働することに対するマインドセットを変える

「非同期コミュニケーションを活用する」の節では、非同期コミュニケーションと同期コミュニケーションのバランスを取ることを提案しました。キーポイントは、自分たちのチームにとって「ハイブリッドなチームが協働するということはどういうことなのか」という問いについて深く考えるということでした。

そもそも、ハイブリッドなチームであるか否かにかかわらず、チームで協働する意義は何なのでしょう。
「チームリーダーが考えたことに従わせること」というチームもあるかもしれません。「各メンバーが持っている能力を解き放って、チームの成果を最大にすること」というチームもあるかもしれません。私個人は後者の方が良いと思いますが、前者が必ずしも悪いというわけではありません。


コロナ禍以前のハイブリッドなチームがなかった頃とは異なる協働のしかたが必要かもしれません。
働き方が変わるのであれば、マインドセットも変える必要が出てくる場合があります。


例えば、議事録
『会社の会議:議事録は何のために作成するのか:議事録の意味を考える』 というコラムで書いているとおり、何時何分に誰が何を言ったという文字起こし(トランスクリプト)は人間がやる仕事ではなくなりつつあります。もし、あなたの会議の議事録が、録音から文字起こしをしたようなものであるなら、それは機械がやってくれるようになりそうです。

次に、議論の見える化
クラウド上のホワイトボードには、図形を書いたり、図形で囲ったり、画像を貼り付けたり、動画を貼り付けたり、音声を貼り付けたり、リンクを貼り付けたり、文字以外の情報を貼り付けることが可能ですので、使い方次第で簡単にわかりやすく議論を見える化することが可能です。リアルな会議では、ファシリテーターがホワイトボードに板書していたかもしれませんね。ハイブリッドなチームの協働であれば、ファシリテーターだけではなく、参加者が書き込むことが可能ですし、そうするべきだ、と私は考える者です。このように協働の仕方が変わるので、マインドセットも変える必要が出てきそうです。

ファシリテーターの観点から。
あたなのチームのオンライン会議はチャット・コメントが盛んに行われますか?例えば、チャット・コメントが盛んに書き込まれるのであれば、ひとりのファシリテーターだけではさばき切れないでしょう。付箋を貼る場合は付箋の数が大量になるかもしれません。ファシリテーターが一人だけでは足りないかもしれません。

チームによって、かなりばらつきがあると思います。
あなたのチームにとっての「ハイブリッドなチームが協働するためのルール」を創りながら、マインドセットを変えていく必要があるのだろう、と私は考えます。


3. ハイブリッドなチームの協働の具体例

2章ではSWOTとクロスSWOTの例を出しました。

この章では、クラウド上のホワイトボードにクロスSWOTのフレームワークを貼り付けた後に、非同期でSWOTに付箋を貼っている、という例を説明します。題材として、2章のSWOTの例を使います。

強み(Strengths)として「地元の新鮮な素材を使用」という付箋を貼りました。この付箋にはコメントがついています。下図の黄色い吹き出しのアイコンがコメントです。(下図は画像のタップかクリックで拡大します)
クロスSWOT例 コメント折り畳み

この例では、私が非同期で会議が始まる前にコーヒーを飲みながら書き込みました。
同様に、チームメンバーの誰もが、付箋を貼ったりコメントを入れたりすることができます。


コメントには、地元の新鮮な素材を使用していることが何故強みなのかを書きました。
「地元農家◯◯さん△△さん◯△さんとは時間をかけて信頼を築いた。品質と味には自信がある。」ことが強みです。
上図の黄色い吹き出しのアイコンをタップしたりクリックすると、コメントが見えます。(下図は画像のタップかクリックで拡大します)
クロスSWOT例 コメント表示

リアルなホワイトボードでは、コメントは口頭で説明するのが精一杯でしょう。ホワイトボードの大きさの制約もありますから。クラウド上のホワイトボードの大きさは広大なので、大きさの制約はないと考えて大丈夫です。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 

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