第39回 ノウハウ文書を記載するための仕事言葉
前編(第85回) に引き続き、後編(第86回)では知的財産経営とは何か、特に知的財産経営の中でのデザイン経営の意味を考えて見る。そして、デザイン経営を、「デザインを活用した経営」と表現するのではなく、「デザイン思考に導かれた知財を活用した経営」と表現すべきであるとの偏見を述べるのが、第86回の趣旨である。更に「デザイン思考」とはどのような手順の手法であるのかを具体的に説明する努力がなければ、デザイン経営の趣旨が、中小企業にメッセージとして伝わらないという筆者の愚見が、第86回の趣旨である。
目次
§1~§4 前編(第85回で説明)
§5 特許権には強い権利と弱い権利がある:
ハーバード大学経営大学院のM.E.ポーター(Porter)教授は、(イ)既存企業間の敵対関係、(ロ)新規参入の脅威、(ハ)代替品の脅威、(ニ)買い手の交渉力、(ホ)売り手の交渉力の5つの要因(ファイブフォース)で業界の競争構造を分析する手法を提案している。この内、知財経営で留意すべき要因として、既存企業間の敵対関係と新規参入の脅威がある。
キヤノンの元特許本部長丸島先生の“いい権利”とは、業績に反映されるコアコンピタンスとなりうる強い知的財産権ということになろう。業績に反映される強い知的財産権とするためには、既存企業間の敵対関係と後発会社の新規参入を防ぐ障壁を構築する必要がある。
ライバル会社が存在する業界においては、業績に反映される強い知的財産権とするためには、双方の読み合いの攻防が必要になる。ライバル会社が、自社の先願基本発明を見て、そこから改良発明を考えるのは極自然であるからである。又、業績に反映される強い知的財産権とするためには、後発会社の参入障壁を構築する必要がある。
例えば、甲社の先願特許発明(基本発明)Pに対し、特許発明Pに気がついたライバル会社乙社が後願の改良発明をし、甲社の特許発明P=A+Bに、上位概念・下位概念の関係にない新たな発明特定事項Cを付加してQ=A+B+Cの後願発明をして特許として登録されたとする。この場合、先願優位の原則から乙社の後願発明Qは甲社の基本発明Pを利用することになるから、乙社は甲社から実施許諾を得る必要がある。
一方、後願乙者の特許発明Qを先願甲社が自由に実施できるかに付いては争いがある。専用権説は、先願甲社は後願乙者の特許発明Qを自由に実施できるとするが、排他権説では、先願甲社は後願乙者の特許発明Qを自由に実施できない。
専用権説の場合においても、図4に示すような穴空き説によれば、先願甲社は後願乙者の特許発明Qを自由に実施できない。穴空き説は、先願特許発明Pの特許権には元々穴が空いているのだから、先願特許発明Pと後願特許発明Qは別発明であり、利用関係がないという主張であるので、乙社は甲社から実施許諾を得なくても、後願特許発明Qを実施可能となる。
【図4】1件の特許では強い権利にはできない
排他権説の場合において、甲社が乙社の発明特定事項Cを使用しないように工夫(迂回)して発明特定事項C*とすることができれば、甲社は実施可能である。しかしながら、乙社の発明特定事項Cが非常に経済的技術的に優れた技術的構成であって、どうしても発明特定事項Cを避けて使用することができない事情があれば、排他権説の場合は、甲社も乙社も実施することができない事態が生じる。
特許権は自社の独占排他権の中に他社の独占排他権が発生するという本質的な弱みを有している。自社の独占排他権の中に他社の独占排他権が発生する場合には、甲社は先発メーカーであっても、有利な立場が崩されてしまうことになる。
この特許権の本質的な弱みを考慮すると、1件の特許権のみで知財経営をすることは困難であるという結論に到達するはずである。上述したとおり、キヤノンの丸島先生は、自社の最初のアイディアの権利をライバル会社がどうかいくぐるように迂回するか、ライバル会社が自社のアイディアを迂回したとすれば、迂回した特許に対し、自社が更に変形をしてどのように対抗するかと考え、最初のアイディアを時系列に沿って広げて、ダイナミック(動的)な権利化するという戦略を考えていた。
図4から理解できるであろうが、競争の社会において、ライバル会社は自社の特許を模倣するような愚かな手段を選ばない。そうではなく、自社の特許の侵害にならないように、自社の特許の技術内容を迂回して、ライバル会社は自社の特許と製品(商品やサービス)を攻めてくるのである。丸島先生の知財戦略は、多数の特許の束によりパテント・ポート・フォリオをダイナミックに構築する努力がなければ、自社の特許と製品を、ライバル会社の攻撃から護ることができない、ということを示している。
「知的財産経営」においては、民法第709条の特則の土俵から離れて、如何にしたら不法行為を回避してライバル会社に勝てるかという観点における、緻密かつ複雑な技術開発の争いにも十分な留意が必要である。2025年のノーベル経済学賞のモキイア教授の指摘する「国同士の競争による創造的破壊」も、こうして生まれるのである。
少し前になるが、中国の国有企業が、日本の東北新幹線「はやて」の技術を基にした高速鉄道「和諧号CRH380A型」の特許 を、2010年に米国、欧州、インド、ロシア、ブラジルの5カ国に特許出願(PCT/CN2010/074455及びPCT/CN2010/074448)したというニュースが流れたが、これもライバル会社の攻撃に対する戦略に瑕疵があった結果である。川崎重工は海外に新幹線に関する特許を取得していないとのことであり、特許網(国際的なパテント・ポート・フォリオ)の穴を狙われたのである。
2011年6月以降になると、毎年のように日本を含む複数の指定国を有する新幹線関連のPCT出願が続々と中国の国有企業からされており、川崎重工等の日本の企業の新幹線関連の技術に関する特許網の穴が突かれているということになる。
§6 他社の登録された知的財産権を監視しないことは過失:
「つながる特許庁 in 青森」のパネルディスカッションで「うちは知的財産権なんか関係がない」と言っている会社があると聞いて、大変残念に思う。実は、事業をしている限り、他社の特許権、意匠権や商標権等の登録された知的財産権を監視しないことは過失になる。民法709条に規定された「過失」とは、「必要とされる注意を怠った」ということであるが、特許法第103条には、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、
その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
と規定されている。過失の推定規定である特許法103条は、1959(昭和34)年に民法709条の特則として創出された。
昭和 30年の特許法改正草案において、「他人の特許発明の属する分野の営業を営む者がその営業を行うに当たりその特許権を侵害したときは…原状を回復する責に任ずる。但しその者がその他人の特許発明を実施せざるよう相当な注意を払ったときはこの限りではない」とあり、その注意義務は特許公報調査とされている(露木美幸著、『特許法 103 条と責任法上の注意義務-産業財産権法の過失の推定規定の再検討-』、知財研紀要、 21: 21・1-20・8、 (2012)、p.3-5等参照。)。
特許法第103条は、他社の特許権の特許公報の調査をしない事業者は、必要とされる注意を怠っている事業者であると推定される、規定しているのである。よって、事業者は、インターネットのJ-Platpatで競合他社がどのような特許権を取得しているか、常に検索し、他社の特許公報の調査をする必要があり、他社の特許権に無関心ではいられない。
ポーランド生まれのフランスの経済学者L.オロウスキー(Wolowski)は、1869年に、「…特許は社会と発明者との間の純然たる契約なのである。もし社会が発明者に一定期間の保証を付与するならば、彼は自ら護ることを得たはずの秘密を公開する[クイド・プロ・クオquid pro quo(報償 / 応報的交換)]。これがまさに衡平の原則である」と説明している(Annales de la Societe d'Economie Politique, VIII i869-70, p.125,(1869))。社会と発明者との間の契約である以上、他社の特許権に無関心であってはならないのである。
意匠法第40条と商標法第39条にも同様な過失の推定規定があるので、他社の意匠権や商標権についても、無関心でいることは過失と推定されると、法律で決められているのである。前編の図2及び図3に示した行為規制方式の知的財産権の内で、特許権等の登録方式(方式主義)の知的財産権が公開されるのは、他社が知的財産権の内容を調査できるようにしているのである。実用新案法は無審査で登録されるので過失の推定規定はない。
常にJ-Platpatで他社の特許公報を調査する必要があるというのであるから、仮に自社が特許出願しないとしても、「うちは知的財産権なんか関係がない」と言っていてはいけないのである。しかし、日常的にJ-Platpatを検索して特許公報の明細書を読んでいると、「なんだこんなものが特許になるのか!!」と気がつくはずである。
自社の「らしさ」が知的財産であることに気が付けば、知的財産権は中小企業の足下にあることが理解できるはずである。更に、丸島先生のパテント・ポート・フォリオ戦略の意味も分かり、パテント・ポート・フォリオによりコアコンピタンスを構築する知的財産経営の意味も理解できるはずである。
中国の春秋時代(紀元前770~前430年)末期に孫武が著した兵法書(孫子)の謀攻篇は、「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。」と教えている。ナポレオンも孫子を愛読したと言われいる。
よって、他社の知的財産権を監視し、調査する作業によって、コアコンピタンスとなりうる「らしさ」を見いだすことが知的財産経営の第一歩である。
§7 「デザイン経営」とは課題を見いだす手法:
前編(第85回)の冒頭で述べた「つながる特許庁 in 青森」のテーマは、『デザインの力で青森を彩る!~価値と魅力の探求へ~』であった。しかし「デザインの力」とは何であろうか。
「デザイン」の語源はラテン語の「designare(デジナーレ)」であり、15~16世紀のルネサンスの頃に、「デザインする」という動詞で使われていたようである。
ラテン語の「designare」=「de」+「Sign=印、記号、計画、設計、考案、選択、指定、任命」と分解でき、英語の(designate)に対応する。ラテン語の接頭辞として「de」には分離・除去・降下・否定・反対等の意味がある。
ラテン語の「de」を「下に」という味合いで考えると、「designare」全体では「下に印をつける」「計画を記号で表す」「設計する」という意味になる。よって、「デザインする」は、デッサンする(dessin)と同じように、「ある目的を達成するために構想を練り、計画し、それを具体的な形(記号や図面など)で示すこと」となる。
一方、「de=否定」の意味で捉えると、ラテン語の「designare」全体では、「既存のモノを破壊すること」、即ち、J.A.シュンペーター(Schumpeter)やモキイア教授の「創造的破壊」の意味合いと重なる。
ウェブスター第3版(Webster’s Third New International Dictionary)は、designをto conceive and plan out in the mind 心に想をはらみ、計画すること); to devise or propose for specific function (特定の機能を満たすために工夫または提案をすること); to create, plan or calculate for serving a predetermined end(特定の計画に従って、創造したり計画したり計算したりすること)等のように説明している。
「つながる特許庁 in 青森」のセッション①の対談「デザインの力~デザインで企業と地域を活性化~」の中で、特許庁長官からは、「デザイン思考の考え方で対話型の経営をするのが、デザイン経営である」のような趣旨の説明があった。特許庁長官の発言を鑑みると、デザイン経営を、「デザインを活用した経営」と表現するのではなく、「デザイン思考に導かれた知財を活用した経営」と表現し、更に「デザイン思考の考え方」とはどういうものなのかの説明がなければ、デザイン経営の趣旨が、知財を良くわからない中小企業にメッセージとして伝わらないと考える。
特許庁長官が言及したデザイン思考(Design Thinking)は、スタンフォード大学のD.ケリー(Kelley)教授が1990年代に提唱した考え方が有名である。
ケリー教授のデザイン思考は、図5に示すような、「(a)観察・共感」→「(b)課題設定」→「(c)アイデア出し(アイディエーション)」→「(d)プロトタイプ」→「(e)テスト」の5つの時系列の手順で、“人”に焦点を徹底して当て、人が何を求めているかを考える方法である。
【図5】デザイン経営は、人が何を求めているかを考えるデザイン思考に依拠している。
先ず、図5の1番目の「(a)観察・共感」の手順は、対象者(多くは顧客)を観察する実際に目で見たり(オブザベーション)、自分自身もコミュニティに属して一緒に生活をする(エスノグラフィ)プロセスである。
次に、図5の2番目の「(b)課題設定」の手順は、オブザベーションやエスノグラフィで得られた共感をもとに、人が何を困っているのか、人がどんなことが不便なのか等の人の課題を見いだすプロセスである。
3番目の「(c)アイデア出し(アイディエーション)」の手順は、2番目の手順で見いだされた課題に対して、「ブレインストーミング」「親和図法(KJ法)」「ワールドカフェ」などの方法によって、どんな解決手段があるかのアイデア出しを行って、課題に対する答えを導こうとするプロセスである。
アイデア出しに用いる「ブレインストーミング」とは、複数の人が集まって、あるテーマに関するアイデアを自由に、制限なく出し合い、互いに刺激し合う集団発想法である。「親和図法」は、新QC7つ道具の一つとなるグループ思考の方法である。東京工業大学で文化人類学を研究された川喜田二郎教授が考案した手法の一部であり、あいまいな問題や混沌とした状況に対して、集められた多数の言葉のデータを「親和性」に基づいて分類し、整理して「表札」を付けるグループ思考の方法である。
図5のアイデア出しの段階に用いる「KJ法」は、川喜田二郎(KAWAKITA Jiro)先生の名前のイニシャルに由来し、「親和図法」とは、ほぼ同じ手法ではあるが、「親和図法」の「表札」を付けた分類の構造化のプロセスを更に行う点で異なる。例えば、データや分類間の因果関係を矢印で結ぶ、似た分類を更に大きな分類に纏める。データ間に相反関係があれば、相反関係も記し、統合化を行い、新しいアイデアを創出するグループ思考の方法である。
【図6】デザイン経営の原点となるKJ法
図5の3番目の「アイデア出し」のプロセスで用いる「ワールドカフェ(The World Caf?)」は、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、少人数で対話を繰り返しながら多様な意見や知識を共有するグループ思考の方法である。「アイデア出し」の参加者はテーブルを移動しながらメンバーを入れ替えて話し合い、結論を出すことよりも、参加者全員が自由に意見を交換し、相互理解を深めたり、新たな気づきや新しいアイデアを創出することを目的とする。
図5の4番目の「(d)プロトタイプ」の手順は、3番目の手順で出たアイデアをもとに、実際に答えとしてのプロトタイプを作るプロセスである。
5番目の「(e)テスト」の手順は、4番目の手順でえられたプロトタイプを元にテストを行い、そこで得た課題を元に、また3番目の「アイデア出し」以降の手順を繰り返し、課題に対する答えを見いだすプロセスである。
ケリー教授のデザイン思考では、3~5番目の答え(Problem Solving)を出す手順よりも、2番目の「(b)課題設定」の手順における問題を定義すること(Problem Finding)の方が大切としている。
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科の原研哉教授も、「アートは、個人が社会に向き合う個人的な意思表明であって、……(中略)……。一方、デザインは基本的には個人の自己表出が動機ではなく、その発端は社会の側にある。社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスにデザインの本質がある」と述べている(原研哉著、『デザインのデザイン』、岩波書店、(2003年)、pp.28-29)。「社会の多くの人々と共有できる問題を発見」とは、ケリー教授の「(a)観察・共感」→「(b)課題設定」のプロセスに対応する。
デザイン思考の考え方は、§6で説明したJ-Platpatを検索して、公開された他社の知的財産権の内容から技術的課題を見いだすことが、自社のデザイン経営の第一歩であることを示唆している、ということに気がついて頂けたら幸いである。
§8 デザイン思考は日本で生まれたグループ思考の方式
デザイン思考を提唱したケリー教授は、スタンフォード大学の中に、Hasso Plattner Institute of Designいう教育機関を2005年に設立した。このスタンフォード大学の教育機関には「d-school」という通称が用いられている。「design」の頭文字である「d」をシンプルに表現した通称のようである。
d-schoolは、革新的なアイデアを生み出し、アイデアを形にするための創造的なプロセスを、ワークショップやプログラムを通じて教える研修を実施し、シリコンバレーのイノベーションを支える重要な役割を担っている。
2014年の日本創造学会研究大会基調講演で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科の前野隆司教授(現武蔵野大学ウェルビーイング学部長)は、スタンフォード大学d-schoolのスタッフから、「日本人はデザイン思考を学ぶ必要はない、デザイン思考はアメリカ人が川喜田先生から学んだグループ思考の方式だから」と言われたという。
川喜田先生は、KJ法の原理を1964年に提唱されている。1967年に出版された著書『発想法-創造性開発のために』(中央公論社)で、広く知られるようになった経緯がある。KJ法は、§7では3番目の「(c)アイデア出し(アイディエーション)」の手順の手法として説明したが、グループで集めたアイデアや意見を視覚的に整理するグループ思考の手法であり、グループ思考はデザイン思考の基本となる考え方である。
デザイン研究において「デザイン思考」という言葉が最初に用いられたのは、1987年のハーバード大学のP.G.ロウ(Rowe)教授の『デザインの思考過程(Design Thinking)』と思われる。その前の1973年に、スタンフォード大学R.マッキム(McKim)教授が、『視覚的思考の経験(Experiences in Visual Thinking)』でデザイン工学分野における「デザイン思考」の概念を著しているが、川喜田先生のKJ法の提案の方が早い。
スタンフォード大学では、その後1980年代から1990年代にかけてR.ファステ(Faste)教授が、マッキム教授の業績を拡張している。そして、ファステ教授のスタンフォード大學の同僚ケリー教授が、デザイン思考のビジネスへ応用の研究を1990年代に開始し、その研究が2005年のd-schoolに発展している。
日本創造学会研究大会基調講演での話は、スタンフォード大学d-schoolのスタッフが、KJ法が単なる整理分類ではないことを、見事に見抜いていたということを示している。
§6でJ-Platpatを検索することを説明したが、前編の図2及び図3に示した特許権、意匠権、商標権等の権利付与方式の知的財産権は、知らなかったでは済まされない絶対的独占権である。J-Platpatは、自社のらしさが絶対的独占権であるか否かが確認し、自社のコアコンピタンスが抽出できる便利なツールである。
なお、前編の図2及び図3に示した知的財産基本法第2条第2項で規定された行為規定方式の権利は、他人が独自に創作したものには及ばない、相対的な支配権なので、「相対的独占権」と言われる。相対的独占権は、ものまねしをしてはいけない権利であるが、ものまねをしたか、しないかの証拠となる文書を残す必要がある。証拠能力を考えれば、権利化しないとしても、知的財産を文書化して自社のコアコンピタンスとすることが必要であるということに十分な留意が必要になる。
例えば、上述したグループ思考に関連するミーティングの経過を記録せず、日付入りの文書として残す習慣を有しないことは、重大な過ちになる恐れがある。権利付与方式の権利として申請に足る具体的成果が得られる以前のレベルや段階であっても、日付入り文書に記録として残す習慣を確立することが知的財産経営になる。将来、知的財産権の所有者や発明/考案/創作日などが問題とされる事態が発生した場合、こうした記録文書が有用であり、企業活動記録の一部としてグループ思考のプロセスを残しておくことは、健全な知的財産経営の基本である。
「つながる特許庁 in 青森」で宮下知事は、青森県の特徴を自慢され、他県が特徴を勘違いしている場合があることを説明された。デザイン思考により自社の「らしさ」を抽出したら、その抽出された「らしさ」が、果たしてコアコンピタンスとなり得る本物の「らしさ」であるのか、勘違いの「らしさ」であるのかを、J-Platpatというツールを用いて確認する必要がある。特に研究・開発の担当者は、自社の研究・開発プロジェクトの開始前に、他社の知的財産権が存在するか否かを確認するIPマップやIPランドスケープを使用する必要がある。
「IPマップ」とは、競合企業との攻守に関わる最適な知的財産戦略を立案するために、膨大なIntellectual Property(知的財産)の情報をJ-Platpatを利用して可視化し、社内で可視化した結果を共有し、自社のコアコンピタンスを抽出するものである。又、IPランドスケープは、Intellectual Property(知的財産)とLandscape(景観や風景)を組み合わせた造語で、将来を見据えた経営戦略・事業戦略を立案するために、J-Platpat等から得られる知的財産情報を活用し、経営者や事業責任者に分析結果を提案し、自社のコアコンピタンスを抽出するものである。
パテントマップやIPランドスケープを使用しないで、研究・開発プロジェクトの終了後に、他社の絶対的独占権の存在し、勘違いの「らしさ」であったことに気がつくのであれば、その研究・開発プロジェクトに費やした時間と労力は無駄になるということである。
J-Platpatを用いた検索により自社のコアコンピタンスを抽出する業務を、日常的な習慣にして欲しい。公開された他社の知的財産権を日常的に検索し、他社の知的財産権の内容から、デザイン思考の手法を用いて、自社の技術分野における技術的課題を見いだし、更にその技術的課題を社内で議論することが、デザイン経営になることを、是非認識して頂きたい。
辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
そうべえ国際特許事務所は、知的財産経営やデザイン経営のご相談にも積極的にお手伝いします。
http://www.soh-vehe.jp



