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鈴木壯兵衞

青森の新産業創出を支援し知的財産を守るプロ

鈴木壯兵衞(すずきそうべえ) / 弁理士

そうべえ国際特許事務所

コラム

第45回 不常識を非まじめに考えた小学生の特許(米国編)

2018年5月4日 公開 / 2018年5月13日更新

テーマ:発明の仕方

コラムカテゴリ:法律関連

 5月5日は子供の日である。

 第41回~第44回では日本の小学生の特許を紹介したが、今回は米国の小学生の特許を紹介する。今回の後段で説明するが、第42回で紹介したデザイン会社アイディオ(IDEO)が子供の発明を支援しているところは注目に値する。

    §1 米国特許第6029874号は9歳の小学生が出願した発明
    §2 米国には子供の発明の商品化を支援する会社がある
    §3 発明をサポートする仕組み作りの日米の差異

§1 米国特許第6029874号は9歳の小学生が出願した発明

 米国オハイオ州アムハースト(Amherst)のシュープ(Shupe)小学校のオースチン・メギット(Austin Meggitt)君が9歳のとき、自転車で野球のバット、グローブ、球を同時に運ぼうとして危うく事故に遭いそうになった。
 
 野球少年にとって、バット等の野球の道具を積み込んで自転車で運ぶのはフラストレーションのたまる不安な作業であったのであった。第42回で説明したデザイン思考の第1ステップの「観察・共感」のプロセスである。
 
  その当時、バット等の野球の道具を積み込んで野球少年が、安全に自転車を漕げる方法はなかった。メギット君は、どうしたら野球の道具を積み込んで自転車を安全に漕げるかと自分で考えた。デザイン思考の第2ステップの「問題定義(課題設定)」のプロセスである。

 メギット君は、図1に示すように、自転車のハンドルHに塩ビ(PVC)パイプをU字型にした支持棒(12,14)をアタッチメント18を介して取り付け、この支持棒(12,14)の中心フレーム部12にクリップ20を用いてバットを固定することを考えた。

【図1】メギット君の獲得した米国特許第6029874号の図面の一部

 そして支持棒(12,14)にフック22を付けてグローブをぶら下げた。更に支持棒(12,14)に袋をぶら下げて野球の球を入れた。これが、デザイン思考の第3ステップの「創造(アイデア出し)」と第4ステップの「プロトタイプ」のプロセスである。

 メギット君の発明により、野球の道具が自転車に取り付けられ、何らの障害もなくハンドル操作が可能で、安全に自転車が漕げることが分かり、近所の野球少年にも拡がった。これがデザイン思考の第5ステップの「テスト」のプロセスである。

 メギット君の発明は1998年の米国最優秀発明コンテスト(the 1998 national Ultimate Invention contest)で優勝を勝ち得た。そしてメギット君は、1998年10月20日に米国特許商標庁(USPTO)に特許出願し、2000年2月29日に米国特許第6029874号として登録されたのである。特許が登録されたのはメギット君がシュープ中学に通うようになった11歳のときである。

§2 米国には子供の発明の商品化を支援する会社がある

 全米発明コンテストで優勝を勝ち得たメギット君の発明は、13歳以下の子供の発明に投資する会社であるバイ・キッヅ・フォー・キッヅ(BKFK = By Kids For Kids)で製品化されるに至る。

                           http://www.bkfk.com/
                             
 BKFK の創設者でCEOはノーマン・ゴールドスタイン(Norman Goldstein)氏である。ノーマン氏の娘さんのキャシディ・ゴールドスタイン(Cassidy Goldstein)さんが11歳のとき、小さくなったクレヨン120を透明なプラスチックチューブ104に保持して絵を描く「クレヨン・フォルダ」を発明した(図2参照。)。
 
 そして、この11歳のときの2000年に、米国特許商標庁(USPTO)へ特許出願をし、2002年に米国特許第6402407号を取得した。2003年に出願したキャシディさんの2つ目の発明も2007年に米国特許第7232270号として権利化されている。

【図2】キャシディさんの獲得した米国特許第6402407号の図面の一部

 キャシディさんは2003年にニューヨークのランド・インターナショナル・オブ・ファーミングデール(Rand International of Farmingdale)とライセンス契約をし、5%のロイヤルティで「クレヨン・フォルダ」を販売するに至る。キャシディのお父さんは、娘の行動に感銘し、子供の発明を支援する会社Kids For Kids Co.(BKFK)をスタンフォードに設立したのである。
 
 BKFKは「デザイン思考」の提唱で有名なデザイン会社IDEOとの提携を2006年に発表した。BKFKはIDEOと一緒に子供の発明を支援するための教育やプログラムを推進するそうである(IDEOについては第42回参照。)。

 図3は『中小企業白書2017年版』中小企業庁編p104に「第2-1-8図として記載された起業意識の国際比較を示す図である。図3に示されたレーダーチャートは、『平成27年度起業・ベンチャー支援に関する調査「起業家精神に関する調査」報告書』(平成28年3月(株)野村総合研究所)より中小企業庁が作成したものであるが、米国では「周囲に企業に有利な機会がある」「企業するために必要な知識、能力、経験がある」等の面で非常に優れていることがわかる。

 【図3】起業意識の国際比較(出典:『中小企業白書2017年版』中小企業庁編p104)

 一方、日本は図3のレーダーチャートに示された5項目の内で、米国、英国、ドイツ、フランスの何れにも遙かに劣っていることがわかる。特に上述した「周囲に企業に有利な機会がある」「企業するために必要な知識、能力、経験がある」において欧米諸国に比べ意識が非常に低いことが分かる。

 なお、メギット君は19歳になった2008年に、メギット君はBKFKを離れてテキサス州ダラスのベース・フォー(Base4)とライセンス契約を結ぶに至った。
 

§3 発明をサポートする仕組み作りの日米の差異  

  以前日本の大學教授の特許に対する意識が、米国の大學教授の特許に対する意識より低いのはなぜかと考えたことがある。それで、小学校、中学校、高等学校の知財教育は日本と米国と異なるのかを少し調べたが、日本と米国とで大きな差異はないように思われた。又、日本とドイツとの比較においても、小学校、中学校、高等学校の知財教育に大きな差異はないようであった。
 
 確かに米国憲法第1条第8節第1項に「著作者及び発明者に、一定期間それぞれの著作及び発明に対し独占的権利を保障する」と規定されているので、米国の初等教育の社会科や歴史の授業で少し特許等について説明がある学校も存在するようである。その辺は少し米国の方が知財教育に積極的な場合もあるかも知れない。 
 
 第41回の山本良太君の特許第3862693号及び第42回の石黒紀行君の特許第4356903号は発明協会の「発明とくふう展」に出品している。第44回の道脇愛羽さんの例では7歳のときの発明が2016年に登録された特許第5934831号については詳細を説明しなかったが、特許第5934831号の『円弧軌道走行装置』は2016年の発明協会の「第74回全日本学生児童発明くふう展」で恩賜記念賞を受賞している。
 
 これらの事例は、全日本学生児童発明くふう展や少年少女発明クラブ等の発明協会の行っている青少年創造性開発育成事業のおかげといえよう。日本の「学生児童発明くふう展」に対応するものとして、米国にはメギット君が出品した米国最優秀発明コンテストがある。
 
 しかし、米国最優秀発明コンテストはザ・ディスカバリーチャネル(the Discovery Channel)、メディア・ワン( Media One)、ザ・ラーニング・チャネル(The Learning Channel)というメディアによって主催されている点が日本とは異なることであろう。
 
 メギット君は全米発明家殿堂(National Inventors Hall of Fame)の「少年発明の国立展示室(National Gallery for America's Young Inventors)」に1999年の会員として展示されていることも日本とは異なることであろう。
 
      http://www.nmoe.org/gallery/1999/i99_meggitt.htm
 
 小学生が特許出願する事は素晴らしいが、特許出願に関して親の理解があることが必要で、出願費用は親の負担になるであろう。しかし、問題は、権利化後の特許の管理費や事業の展開におけるサポート体制であろう。
 
 第43回の神谷明日香さんは、特許第5792881号の取得後、「株式会社やくにたつもの、つくろう」を親が支援して設立した。第43回では「都城科学技術プラザ」に出品して実用新案登録第3052744号を登録した丸野遥香さんが、小学5年生のとき「子供会社 ハルカファミリー」を親が支援し設立したことも紹介した。
 
 権利化後の特許の活用に関して、米国にはBKFKのような子供の発明の商品化を支援する会社がある。そしてBKFKは、IDEOと連携して、子供の発明を支援するための教育もしている。このあたりを考慮すると、日本の大學教授の特許に対する意識が米国の大學教授の特許に対する意識より低いのは、日本と米国との文化的な差異のようにも思われる。
 
 米国特許法施行規則(37 CFR)第 1.63条(c)項の規定によれば、米国特許商標庁に出願する際に、発明者である子供が特許明細書の内容が理解できれば、年齢制限がない。日本の場合は法定代理人がいなければ未成年は出願できないので、米国の方が子供に対して特許出願の自由度が大きいと言えよう。

 日本か米国かを問わず、いずれにせよ、子供に特許出願をさせるには、その親が特許を含めた知的財産権に対する理解をしており、社会の仕組みや文化として子供の特許発明の支援ができるようになることが大切であろう。
 
 【図4】未就学児童に知財の勉強をさせるのは難しい。が、未就学児童であっても発明は可能である。
      (奥が5歳、手前が3歳:写真はそうべえ国際特許事務所の会議室にて撮影)


       辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
           そうべえ国際特許事務所は非まじめな発明の段階を支援します。
                       http://www.soh-vehe.jp

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