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第21回 明治時代初期における東北6県からの特許出願

鈴木壯兵衞

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テーマ:青森県の特許

 我が国の特許制度ができた最初の6年の間に、東北6県のうち、累計で最も特許出願をしたのは福島県である。

§1 東北6県の県民による明治初期の登録特許50件を調べてみると

 このコラムの第20回(明治時代における青森県からの特許出願)と同様に、独立行政法人「工業所有権情報・研修館」(INPIT)の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を用いて、明治18年8月~明治25年3月までに東北6県の県民に関係する特許として登録された、最初から50番目までの特許を検索した。表1には、そのうちの最初から20番目までの特許の一覧を示す。
 
 【表1】 明治初期に東北6県の県民から出願されて登録された最初の20件の特許

 明治23年10月登録までのトップ20件で見ると、東北6県中一番多いのが福島県であり8件の特許が累計で登録されている。次いで山形県が累計6件で、宮城県が累計3件、岩手県が累計2件、秋田県が累計1件で青森県は累計0件である。

 第20回で説明したように、「寄留(きりゅう)」は、日本の旧法令の制度であり90日以上本籍外において一定の場所に住所または居所を有することであるが(寄留法1条)、昭和27年に廃止されている。

§2 東北6県の最初の特許取得者は岩手県の佐々木喜平治さん

 東北6県の県民に関係がある特許として、表1のテーブルの最初の行(レコード)に出てくるのは、明治19年3月22日に岩手県南岩手郡仁王村字内九十番地の佐々木喜平治さんが特許出願し、明治19年6月7日に登録された『搗米(つきまい)器械』の特許第212号である。

 【図1】

 図1に示した特許第212号の図面の奥(後部)に上端の一部が覗けるが、器械装置の後部に複数の臼(タ)が配置されている。そして、図1の中央部手前の円柱形の重り(ニ)の下部を、重り(ニ)の下(ナ)に結合したロープを、滑車を介して左右に振ることにより、支点(ロ)を中心に重り(ニ)が振り子運動をする。重り(ニ)の振り子運動に伴い、重り(ニ)をぶら下げているつり下げ棒(ホ)にT字型に結合している竿(ト)がシーソー運動をする。この竿(ト)のシーソー運動によって、竿(ト)の両端に連結している2本の縦棒(リ)が左右交互に上下する。2本の縦棒(リ)が交互に上下することにより、複数の臼(タ)にそれぞれ納められた稲籾の籾殻が脱穀される器械装置のようである。

§3 明治初期においては、福島県からの特許出願が最も多かった:

 表1の20件を含む明治時代の東北6県の50件について、各県毎にその特許登録の累計件数を示して棒グラフで比較したのが図2である。



 図2に示すように、青森県からは累計1件、秋田県からは累計2件、岩手県からは累計4件、宮城県からは累計8件、山形県からは累計14件が登録され、一番多いのが福島県で累計21件である。全累計50件の内8割強が福島県から特許出願され登録されていることが分かる。明治23年10月登録までのトップ20件でも、東北6県中一番多いのが福島県で、累計全20件の内4割であったが、明治25年3月までのトップ50件ではその傾向がより顕著になったように思われる。

 明治24年7月6日に岩手県東盤井郡黄海村百十番地寄留の阿部常藏さんが出願した『改良桑葉切機』に係る特許第1500号が明治25年3月4日に登録されている。この特許第1500号が東北6県で50番目の特許であるので、全国1500件のうちの50/1500=1/30が東北6県から特許出願され、その8割強が福島県からの特許出願であったという計算になる。

 即ち明治18年8月14日に登録された特許第1号から約6年8月の期間に日本中で1500件の特許が登録され、その1/30が東北6県の関係する特許であることがわかる。
 
 特許庁の発表しているデータからは2014年の単年の特許出願件数で、東北6県中で一番多いのが宮城県であり、831件/年となっている。次いで、山形県の291件/年、福島県の273件/年、岩手県の194件/年、青森県の119件/年で最下位が秋田県の108件/年であり、図2に示す傾向とは異なる状態となっている。

§4 産業上の生産高と特許出願件数の相関


 我が国最初の詳細な全国物産表とされる1874年(明治7年)の内務省の「府県物産表」には、農業生産物、工業生産物、原始生産物のデータがある。ここで、原始生産物とは、林産物、水産物、鉱物、畜産物等である。

 当時は、工業と農業の分化が進んでいなかった。表1のリストの「発明の名称」からも農村工業品的な特許発明の多いのが分かる。

 北海道大学/東京大学の山口和雄先生が、「府県物産表」から繭,生糸,綿,綿糸,麻,織物,藍,菜種,油,蠟,煙草,茶,酒,醤油,砂糖,紙,疊莛類の農村の商品化に関係する17品目の総額の生産高のデータをまとめられている(山口和雄、『「明治7年 府縣物産表」の分析』、北海道大学経済学会経済学研究=THE ECONOMIC STUDIES,第1巻、p23-58)。

 山口先生が分析のため選定された商業的農産物及び農村工業品としての17品目のデータを、東北6県について整理すると、以下のようになる。

        宮城県657,052円
        岩手県433,934円
        福島県1,045,610円
        水澤県673,136円
        磐前県945,532円
        若松県578,288円
        青森県432,654円
        山形県438,832円
        酒田県145,756円
        置賜県560,091円
        秋田県853,401円

 これらの農村の商品化に関係する17品目の総生産高の値を、当時の地図上に示したのが図3である。図3は明治4年当時の地図であり、当時の青森県には現在の北海道の一部が含まれている。

 図3から分かるように現在の福島県は明治9年に福島県、磐前県(一部は宮城県に)及び若松県の3県が合併したものであり、福島県の1,045,610円、磐前県の945,532円及び若松県の578,288円を合計すると、2,569,430円となり明治7年当時において、東北6県で最大の農村工業品等の生産高を誇る県であったことが分かる。

 現在の山形県は、明治9年に山形県、置賜県(おきたまけん)及び鶴岡県(図3に示した旧酒田県)の3県が合併したものである。山形県の438,832円、酒田県の145,756円及び置賜県の560,091を合計すると、1,144,679円になるので、明治7年当時において、山形県は東北6県で第2の農村工業品等の生産高を誇る県であったことが分かる。

 経済産業省の工業統計調査から得られた2013年工業生産額のランキングで1位は福島県で4.76兆円で、明治7年当時の1位を譲っていない。2013年工業生産額のランキングでは福島県に次ぐのは宮城県の3.73兆円となっており、以下山形県の2.40兆円、岩手県の2.27兆円、青森県の1.52兆円で最下位が秋田県の1.11兆円である。
 
 明治初期の特許出願は農村工業品等の生産額のランキングに依存するところ大と思われるが、最近の特許出願件数のランキングは各県の工業生産額のランキングとは異なる要因が働いているように思われる。

辨理士・技術コンサルタント(工学博士 IEEE Life member)鈴木壯兵衞でした。
そうべえ国際特許事務所ホームページ http://www.soh-vehe.jp
 

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鈴木壯兵衞(弁理士)

そうべえ国際特許事務所

外国出願を含み、東京で1000件以上の特許出願したグローバルな実績を生かし、出願を支援。最先端の研究者であった技術的理解力をベースとし、国際的な特許出願や商標出願等ができるように中小企業等を支援する。

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