企業型DCは会社にも従業員にもメリットがある?――掛金負担と税金・社会保険料を考える
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「うちの会社には退職金制度があります」
経営者からそう聞くことがあります。
ところが、従業員に話を聞いてみると、自分が退職金制度の対象なのか、会社がどのような仕組みで退職金を準備しているのか、よく知らないことがあります。
会社は従業員のために費用を負担している。それなのに、従業員には福利厚生としての価値が伝わっていない。
これは、少しもったいない話ではないでしょうか。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入を検討するときにも、同じ問題があります。
これまで2回にわたり、企業型DC導入前に考えたい7つのポイントを紹介してきました。
第1回では、①導入目的、②従業員の状況、③制度設計。
第2回では、④会社の負担と継続性、⑤税金・社会保険料・公的年金への影響。
最終回となる今回は、残る2項目を考えます。
⑥ 従業員への説明と投資教育
⑦ 既存の賃金・退職金制度との整合性
6.従業員は、制度を理解して利用できるか?
企業型DCでは、会社が拠出した掛金を、加入者自身が選んだ商品で運用します。
預貯金、保険商品、投資信託など、制度で用意された商品の中から選び、その運用結果によって将来の受取額が変わります。
運用益が期待できる一方、元本割れの可能性もあります。
だからこそ、制度を導入する際には、従業員への説明が欠かせません。
例えば、従業員からこんな質問が出るかもしれません。
「投資をしたことがないのですが、大丈夫でしょうか?」
「商品はどうやって選ぶのですか?」
「途中で転職したら、積み立てたお金はどうなりますか?」
「60歳になるまで引き出せないのですか?」
こうした疑問を抱えたままでは、企業型DCの魅力は伝わりにくいでしょう。
【投資教育は、商品を勧めることではない】
企業型DCを実施する事業主には、加入者への投資教育について法令上の責務があります。加入時の教育に加え、加入後も継続して教育の機会を提供するよう努めることが求められています。
ここでいう投資教育とは、特定の金融商品を勧めることではありません。
資産運用の基本、リスクとリターンの関係、長期・積立・分散投資の考え方、運用状況の確認方法などを理解してもらうことです。
そして、もう一つ大切なのが、公的年金との関係です。
老後の生活を支える基盤には、国民年金や厚生年金があります。
企業型DCは、それらの公的年金に上乗せする資産形成の仕組みです。
「公的年金で何が保障され、企業型DCで何を準備するのか」
この全体像を知ることで、従業員は自分の将来について考えやすくなります。
企業型DCの導入は、従業員が金融や年金について学ぶ機会にもなるのです。
7.既存の賃金・退職金制度と整合しているか?
現在、企業型DCの導入を検討している、ある医療機関があります。
この法人には、すでに中小企業退職金共済制度(中退共)があります。
ところが、制度の内容や自分自身の加入状況を十分に理解していない職員がいます。
さらに、就業規則に定めた加入資格と、実際の加入状況に一致していない部分も確認されました。
ここで考えたいのは、企業型DCを導入するかどうか以前の問題です。
「会社が定めた退職金制度は、実際にそのとおり運用されているのか?」
ということです。
【退職金制度があっても、職員に伝わっていない】
中退共は、事業主が掛金を負担し、従業員の退職時に退職金が支払われる仕組みです。
長年にわたり掛金を負担していても、従業員が制度の存在を知らなければ、その価値を十分に実感できません。
まして、就業規則や退職金規程に定めた加入資格と、実際の運用が異なっていれば、従業員への説明も難しくなります。
このような場合、まず確認したいのは、誰が制度の対象で、いつから加入資格を満たし、実際にはどのように取り扱われているかということです。
加入漏れがあれば、その経緯を確認し、既存の退職金規定に基づく取扱いや必要な対応を検討しなければなりません。
企業型DCを新しく導入しても、過去の退職金制度の問題が自動的に解消するわけではないからです。
【中退共をやめて、企業型DCに切り替えればよいのか?】
私は、そう単純には考えていません。
中退共と企業型DCでは、制度の性格が異なります。
中退共は、従業員が退職したときに退職金を支給する制度です。
一方、企業型DCは、原則として60歳以後の老後資産形成を目的とする制度です。
運用によって将来の受取額が変わる点も異なります。
どちらが優れているという話ではありません。
退職時の生活を支える制度なのか。
老後の資産形成を支援する制度なのか。
会社が何を目的として制度を設けるのかによって、選択肢は変わります。
既存の中退共を維持しながら、企業型DCを追加する方法もあります。
ただし、その場合にも会社の掛金負担や制度運営費を考え、継続できる仕組みにする必要があります。
また、既存制度を変更するのであれば、従業員の退職金に関する権利や労働条件への影響を慎重に確認することが大切です。
【企業型DCは、既存制度を見直すきっかけにもなる】
この医療機関への提案を考える中で、改めて感じたことがあります。
それは、新しい福利厚生制度を導入する前に、今ある制度が従業員に伝わっているかを確認することの重要性です。
退職金制度の対象者は明確か。
就業規則や退職金規程と、実際の運用は一致しているか。
従業員は、自分が受けられる福利厚生を理解しているか。
こうした点を整理したうえで企業型DCを検討すれば、新しい制度を導入する目的も、より明確になるのではないでしょうか。
【福利厚生の価値は、制度の数だけでは決まらない】
企業型DCを導入すれば、それだけで従業員の満足度が上がるのでしょうか。
私は、そうとは限らないと思います。
大切なのは、会社がどのような考えで制度を設け、従業員に何を提供しようとしているのか。
そして、その思いが従業員に伝わっているかどうかです。
退職金制度を設けている。
会社が毎月掛金を負担している。
それだけでも、従業員の将来を支える取り組みには違いありません。
しかし、従業員がその存在や価値を知らなければ、会社が期待する福利厚生の効果は十分に発揮されないかもしれません。
企業型DCには、従業員が自分の積立資産や運用状況を確認できるという特徴があります。
また、投資教育を通じて、公的年金や資産形成について学ぶ機会も生まれます。
私は、こうした「見える化」と「学ぶ機会」も、企業型DCの大切な価値だと考えています。
【まとめ――制度をつくることより、制度が機能すること】
企業型DC導入前に考えたい7つのポイント。
今回の2項目は、次のとおりです。
⑥ 従業員への説明と投資教育
制度の仕組みや運用リスクを理解してもらい、加入後も継続して学べる環境を整えること。
⑦ 既存の賃金・退職金制度との整合性
就業規則・退職金規程と実際の運用を確認し、既存制度との関係を整理すること。
企業型DCを導入すること自体が、経営の目的ではありません。
「従業員の将来を、会社としてどう支援していくのか?」
この問いに向き合い、自社に合った制度を考えることが出発点です。
そして、その制度が従業員に理解され、実際に活用されてこそ、福利厚生としての価値が生まれるのではないでしょうか。
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(公式LP)https://yutoli-sr.com/
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