企業型DC、あなたの会社ならどう活用する?――導入前に考えたい3つのポイント
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「企業型DCを導入すると、会社の負担はいくら増えるのでしょうか?」
「従業員の税金や社会保険料は、どのくらい軽減されるのでしょうか?」
企業型確定拠出年金(企業型DC)について、経営者からよく聞かれる質問です。
企業型DCには、経営者や従業員の老後資産形成を支援する役割があります。一方で、会社の掛金負担や制度運営費、税金・社会保険料への影響は、制度設計によって異なります。
前回は、企業型DC導入前に考えたい7項目のうち、①導入目的、②従業員の状況、③制度設計についてお話ししました。
今回は、次の2項目を取り上げます。
④ 会社の負担と制度の継続性
⑤ 税金・社会保険料・公的年金への影響
現在、企業型DCの導入を検討している医療機関の事例も交えながら考えてみましょう。
4.企業型DCの会社負担は、無理なく続けられるか?
企業型DCの導入を考えるとき、まず確認したいのが会社の負担です。
企業型DCでは、原則として会社が掛金を拠出します。
例えば、従業員10人に対して、会社が1人当たり毎月5,000円を拠出するとします。
会社の掛金負担は、毎月5万円、年間60万円です。
これに加えて、制度導入時の費用や、制度を維持するための運営費なども必要になります。
また、従業員が増えれば、掛金負担も増える可能性があります。
企業型DCは、導入して終わりではありません。
会社の業績や従業員数の変化も考えながら、継続できる制度にすることが大切です。
【すでに退職金制度がある会社は、どう考える?】
現在、ある医療機関への企業型DC導入提案を準備しています。
この法人では、職員全員が中小企業退職金共済制度(中退共)に加入しています。
さらに、診療報酬のベースアップ評価料を活用し、職員の賃金改善にも取り組んでいます。
つまり、すでに退職金制度を設け、賃上げも実施している法人です。
このような法人に対して、私は中退共をやめて企業型DCに切り替えることを、最初から提案するつもりはありません。
むしろ、既存の退職金制度や賃金改善を維持しながら、職員の資産形成をさらに支援できないかという視点で考えています。
そこで選択肢となるのが、企業型DCのマッチング拠出です。
【マッチング拠出なら、会社の支援に職員自身の積立を加えられる】
マッチング拠出とは、会社が拠出する掛金に、希望する従業員が自分の掛金を上乗せできる仕組みです。
例えば、会社が毎月5,000円を拠出し、従業員が希望に応じて毎月1万円を追加拠出する場合を考えてみましょう。
会社が負担する掛金は毎月5,000円。
従業員が自分で拠出する掛金は毎月1万円。
合計1万5,000円が、その従業員の老後資産形成に充てられます。
従業員が追加拠出を希望しなければ、会社の掛金5,000円だけで積み立てることもできます。
※実際の掛金額は、法令上の拠出限度額や企業型年金規約などの条件によります。
ここで注目したいのが、2026年4月の制度改正です。
これまでは、マッチング拠出の従業員掛金は、会社の掛金を超えられませんでした。
しかし、2026年4月からこの制限が撤廃されました。
そのため、会社の掛金が毎月5,000円でも、法令上の拠出限度額などの範囲内で、従業員が1万円を拠出する制度設計が可能になりました。
会社が福利厚生として資産形成を支援しながら、従業員自身も将来に向けた積立額を考えられる。
会社の負担と従業員の自主的な資産形成を組み合わせられることが、マッチング拠出の魅力です。
もちろん、会社は掛金に加えて制度運営費なども負担します。
既存の中退共掛金や賃金改善の負担も含め、無理なく継続できるかを確認する必要があります。
なお、ベースアップ評価料による賃金改善については、その算定・報告要件に従う必要があります。企業型DC掛金を賃金改善額の代わりに扱えるわけではありません。
5.税金・社会保険料・公的年金への影響は?
企業型DCの魅力として、税制上の優遇措置が挙げられます。
ただし、ここで注意したいことがあります。
企業型DCは、どの制度設計でも税金や社会保険料が同じように軽減されるわけではありません。
特に、選択制DCとマッチング拠出の違いを理解しておきたいところです。
【マッチング拠出は、所得税・住民税の負担軽減につながる】
マッチング拠出で従業員が負担する掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になります。
例えば、毎月1万円を拠出すれば、年間12万円が所得控除の対象になります。
その結果、所得税や住民税の負担軽減につながります。
実際の軽減額は、本人の所得や適用される税率などによって異なります。
一方、マッチング拠出の従業員掛金は、給与から控除して拠出する仕組みです。
そのため、マッチング拠出によって、原則として社会保険料の算定対象となる報酬が減るわけではありません。
ここは、選択制DCとの大きな違いです。
【選択制DCでは、社会保険料が変わる場合がある】
完全選択制DCや、選択制を組み合わせたA+B方式では、給与の一部を企業型DCの事業主掛金に振り替える仕組みを設けることがあります。
この場合、制度設計や報酬水準によっては、社会保険料の算定対象となる報酬が減り、保険料負担が軽減される場合があります。
ただし、給与を1万円振り替えたからといって、社会保険料がその分に応じて軽減されるとは限りません。
健康保険や厚生年金保険では、標準報酬月額の等級によって保険料が決まるためです。
さらに、標準報酬月額が下がると、将来の老齢厚生年金や、傷病手当金・出産手当金などの給付額に影響する可能性があります。
したがって、現在の税金・社会保険料の負担軽減と、将来の年金・社会保険給付への影響を合わせて考えることが重要です。
【税金・社会保険料だけで企業型DCの価値を判断しない】
企業型DCには、掛金の拠出時だけでなく、運用時や受取時にも税制上の優遇措置があります。
運用益は原則として非課税です。
また、老齢給付金を一時金で受け取る場合には退職所得控除、年金で受け取る場合には公的年金等控除の対象となります。
ただし、受取時の税負担は、他の退職金や公的年金の受給状況などによって異なります。
そして、忘れてはいけないのが運用リスクです。
企業型DCでは加入者自身が運用商品を選択し、その結果によって将来の受取額が変わります。元本割れの可能性もあります。
税制上のメリットだけでなく、長期的な資産形成の仕組みとして理解することが大切です。
【企業型DCは「会社が負担する制度」から「会社と従業員が将来を考える制度」へ】
今回ご紹介した医療機関のように、すでに退職金制度があり、賃金改善にも取り組んでいる法人があります。
そのような会社にとって、企業型DCは既存制度を置き換えるためだけのものではありません。
中退共による退職時の給付を維持しながら、企業型DCで原則60歳以後に向けた資産形成を支援する。
会社が掛金を負担し、希望する従業員はマッチング拠出によって自分の資産形成にも取り組む。
このような組み合わせも考えられます。
私は、企業型DCの導入を検討する経営者には、税金や社会保険料の軽減額だけでなく、次のことも考えていただきたいと思っています。
「自社の従業員に、どのような将来への支援を提供したいのか?」
会社が無理なく続けられること。
従業員が制度を理解し、自分の意思で資産形成に取り組めること。
その両方があってこそ、企業型DCは福利厚生としての価値を発揮するのではないでしょうか。
【まとめ――会社の負担と従業員のメリットを両方考える】
今回は、企業型DC導入前に確認したい7項目のうち、2つを取り上げました。
④ 会社の負担と制度の継続性
掛金だけでなく、制度運営費や将来の従業員数も考慮し、無理なく続けられる制度にすること。
⑤ 税金・社会保険料・公的年金への影響
選択制DCとマッチング拠出では、税金・社会保険料への影響が異なります。目先の負担軽減だけでなく、将来の給付への影響も理解すること。
企業型DCの制度設計は、会社の目的や従業員の状況によって変わります。
大切なのは、制度のメリットを知ったうえで、自社に適した仕組みを選ぶことです。
次回は、最後の2項目をご紹介します。
⑥ 従業員への説明と投資教育
⑦ 既存の賃金・退職金制度との整合性
「退職金制度があるのに、従業員はその存在を知らない」
そんな実際の相談事例から、職員に伝わる福利厚生とは何かを考えます。
【企業型DCの制度設計・導入サポートについて】
企業型DCは、会社の負担や従業員の状況、既存の退職金制度などを踏まえて設計することが大切です。
経営者自身の退職金づくりから、従業員の福利厚生の充実まで。自社に合った活用方法を一緒に考えてみませんか。
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