中小企業の人材不足対策とは?採用・定着・福利厚生を見直す前に考えたいこと
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
【「企業型DC」という制度をご存じですか?】
「企業型DCって何ですか?」
「大企業が導入する退職金制度ではないのですか?」
「うちのような小さな会社でも導入できるのですか?」
企業型確定拠出年金(企業型DC)について、経営者の方からこうした質問を受けることがあります。
企業型DCは、従業員や経営者の将来の資産形成を支援する企業年金制度です。
税制上の優遇があり、会社の福利厚生を充実させる方法としても活用できます。
ところが、企業型DCという制度自体を知らない経営者は、まだまだ少なくありません。
知っていても、「大企業の制度」「導入するのが難しそう」「投資の知識が必要なのでは」と考えている方もいらっしゃいます。
私はこれまで20社以上の企業型DCの制度設計・導入をサポートしてきました。
その経験から、中小企業の経営者にお伝えしたいことがあります。
企業型DCは、大企業だけの制度ではありません。小さな会社でも活用できる、将来の資産形成の選択肢なのです。
1. そもそも企業型DCとは、どんな制度?
企業型DCとは、会社が設ける年金制度の一つです。
基本的な仕組みは、それほど難しくありません。
会社が従業員のために掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選んで、将来の年金資産を形成していきます。
運用した資産は、原則として60歳以降に受け取ります。
企業型DCには、主に次のような特徴があります。
① 将来の老後資金を準備できる
毎月の掛金を積み立て、長期にわたって資産形成に取り組むことができます。
② 税制上の優遇がある
掛金の拠出方法に応じた税制優遇があり、運用益も原則として非課税です。受け取る際にも、受取方法などに応じた税制上の優遇があります。
③ 自分で運用商品を選べる
預金や投資信託など、制度で用意された商品の中から選択できます。
ただし、運用結果によって将来受け取る金額は変わり、元本割れの可能性もあります。
企業型DCは、国の年金に代わるものではありません。
国民年金や厚生年金という公的年金を土台にして、老後の生活をさらに支えるための制度です。
2. 企業型DCは、大企業だけの制度ではありません
「うちは従業員が少ないから、企業年金なんて関係ない」
そう考えている経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、企業型DCには、制度上、従業員が何十人もいなければ導入できないという決まりはありません。
必要な要件を満たせば、従業員が数人の会社でも導入を検討できます。
また、加入資格などの条件を満たす経営者自身が加入できる場合もあります。
つまり、企業型DCは、大企業の従業員だけでなく、中小零細企業の経営者と従業員にとっても、将来の資産形成を考える選択肢になります。
もちろん、制度の導入には費用や所定の手続きが必要です。
しかし、「会社が小さいから導入できない」と最初から諦める必要はないのです。
3. 経営者が企業型DCに関心を持つ理由は、さまざまです
これまで企業型DCの導入をサポートしてきた会社でも、最初から制度に詳しい経営者ばかりではありませんでした。
例えば、次のようなきっかけがありました。
・前職で企業型DCに加入していたので、自分の会社にも導入したい
・知人や取引先から企業型DCの話を聞いて興味を持った
・従業員の福利厚生を充実させたい
・社会保険料や税金の負担について考えていた
・賃上げ以外にも従業員へ還元する方法を探していた
・経営者自身の退職金を準備したい
このように、経営者の関心はさまざまです。
企業型DCの制度を詳しく知っていたから導入した、というケースばかりではありません。
むしろ、経営者が実現したいことを考える中で、企業型DCという選択肢に出会ったケースもあります。
企業型DCは、従業員の福利厚生、老後資産形成、経営者自身の将来への備えなど、複数の目的に活用できる制度です。
ただし、税金や社会保険料への影響は制度設計によって異なります。すべての導入方式で同じ効果が得られるわけではありません。
4. 助成金の相談から企業型DCの導入へ――ある美容室の事例
実際に、企業型DCを導入した小さな美容室の事例をご紹介します。
この美容室の経営者との出会いは、企業型DCの相談ではありませんでした。
きっかけは「賃上げと助成金」に関するセミナーでした。
経営者は、助成金を活用するために何をすればよいのかを知りたいと考えていました。
その後、面談を重ねる中で、就業規則や労働条件通知書など、職場環境を整えるための取り組みが始まりました。
そして、経営者と話をする中で、次のような思いが明らかになってきました。
「将来は従業員を増やしたい」
「店舗も増やしていきたい」
「福利厚生を充実させたい」
「従業員に、自分で考え判断する機会を与えたい」
最初の関心は助成金でした。
しかし、本当に実現したかったのは、会社と従業員の将来を考えた職場づくりだったのです。
そこで、就業規則などの整備とともに、企業型DCの導入を提案しました。
この美容室では、2026年8月に企業型DCを導入しました。
経営者からは、こんな言葉をいただきました。
「説明を聞いて、初めて企業型DCのことが理解出来ました。」
この言葉が、とても印象に残っています。
最初から企業型DCに詳しかったわけではありません。
制度を知り、自分の会社で何を実現したいのかを考え、導入を決めたのです。
私は、このような事例こそ、中小零細企業に企業型DCを広げるうえで大切だと考えています。
5. 企業型DCの導入は、難しく考えすぎなくてもよい
企業型DCを導入するには、制度設計や規約の整備、従業員への説明などが必要です。
また、会社が掛金を負担する方式、給与の一部を掛金として選択できる方式、会社の掛金に従業員が上乗せするマッチング拠出など、複数の仕組みがあります。
こうした話を最初から聞くと、難しい制度だと感じるかもしれません。
しかし、経営者が最初から制度の仕組みをすべて理解している必要はありません。
まずは、こんな疑問から始めればよいのです。
「うちの会社でも導入できるのだろうか?」
「従業員には、どんなメリットがあるのだろうか?」
「会社はいくら負担するのだろうか?」
「自分の退職金づくりにも活用できるのだろうか?」
その疑問を一つずつ解消しながら、自社に合った制度設計を考えていけばよいのです。
企業型DCを知らないことは、導入を検討できない理由にはなりません。
むしろ、知らなかった制度を知ることで、経営の選択肢が広がるかもしれません。
6. 私が中小零細企業に企業型DCを広めたい理由
日本の年金制度は、国民年金と厚生年金という公的年金を基本としています。
公的年金は、老後の生活を支える重要な社会保障制度です。
しかし、老後に必要な生活費や、どのような暮らしを望むかは、人によって異なります。
だからこそ、公的年金の仕組みを正しく理解したうえで、自分自身でも将来の資産形成について考えることが大切だと思います。
企業型DCは、そのための選択肢の一つです。
私は年金事務所での行政協力を通じて、老齢年金、障害年金、遺族年金など、2,000件を超える年金相談に携わってきました。
その経験から、公的年金の重要性とともに、将来に向けた資産形成について正しい知識を持つことの大切さを感じています。
そして、企業型DCを活用できるのは、大企業だけではありません。
美容室、不動産会社、医療・介護事業者、運送会社など、さまざまな中小企業にも可能性があります。
特に運送業界では、人材確保や従業員の高齢化、処遇改善などの課題があります。
賃金や労働時間の改善に取り組むことはもちろん重要です。
そのうえで、従業員の将来の資産形成を支援する福利厚生制度として、企業型DCが選択肢の一つになると考えています。
企業型DCを、特別な会社だけの制度にしたくない。
中小零細企業の経営者や従業員にも、企業年金を活用する機会を広げたい。
それが、私が企業型DCの制度設計・導入支援に取り組む理由の一つです。
【まとめ――まずは企業型DCを知ることから始めませんか?】
企業型DCは、従業員と経営者の将来の資産形成を支援する制度です。
大企業だけでなく、一定の要件を満たす中小零細企業でも導入できます。
福利厚生の充実、従業員への還元、退職金づくりなど、さまざまな目的で活用を検討できます。
もちろん、導入すればすべての経営課題が解決するわけではありません。
会社の状況や従業員の年齢構成、給与水準などを踏まえた制度設計も必要です。
しかし、そうした詳しい検討は、企業型DCという選択肢を知ってからでも遅くありません。
知らないまま選択肢から外してしまうのは、もったいないことです。
「自分の会社でも導入できるのか?」
「従業員や経営者に、どんなメリットがあるのか?」
まずは、そこから考えてみませんか。
次回のコラムでは、企業型DCの導入を具体的に検討する経営者に向けて、「導入前に確認したい7項目」を解説します。
企業型DCの制度設計・導入サポートについて
YUTOLI 社会保険労務士・FP事務所では、企業型DCの制度設計・導入をサポートしています。
これまで20社以上の企業型DC導入支援に携わってきた経験と、公的年金に関する専門知識を活かし、それぞれの会社の目的や状況に応じた制度設計をご提案しています。
運送業・企業型DC・助成金専門社労士としての活動はこちら。
公式LP:https://yutoli-sr.com/
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