ドライバー不足なのに、なぜ採用できないのか?――「人を採る会社」から「人に選ばれる会社」へ ナビタイム調査から考える、運送会社の「採用・定着」の本当の課題
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「いい人が応募してこない」
「採用しても、すぐに辞めてしまう」
「最近の若い人は、何を考えているのか分からない」
中小企業の経営者から、こんな声を聞くことがあります。
人手不足が深刻になる中、人材の採用と定着は経営上の大きな課題です。
しかし、私はここで、経営者に一つ問いかけたいと思います。
「自社が人を選ぶことばかり考えていませんか?」
採用面接では、会社が応募者を評価します。
経験はあるか。能力はあるか。長く働いてくれそうか。
もちろん、それは大切なことです。
しかし、応募者も同じように会社を評価しています。
給与はどうか。休日は取れるか。職場環境はどうか。将来に向けた支援はあるか。
会社が人を選ぶように、働く人も会社を選んでいる。
この当たり前のことを、経営者はどこまで意識しているでしょうか。
そして今、その「選ぶ基準」に変化が生まれようとしています。
1.経営者が知らない制度を、若者は学校で学んでいる
2022年度から、高校の家庭科では、資産形成を含む金融経済教育が充実しました。
家計管理や生活設計だけでなく、金融商品の特徴、リスクとリターン、長期的な資産形成についても学ぶようになっています。
もちろん、授業を受けた若者が全員、投資や年金制度に詳しいわけではありません。
それでも、学校教育の中で「将来のお金を自分で考える」という機会が設けられたことには、大きな意味があります。
一方、企業型確定拠出年金(企業型DC)の話を経営者にすると、制度そのものを知らない方もいます。
企業型DCという言葉は聞いたことがあっても、iDeCoとの違いや、従業員にとってのメリットまでは知らない。
私は、それ自体が悪いことだとは思いません。
経営者がすべての制度に詳しい必要はないからです。
しかし、ここに一つの認識の違いが生まれる可能性があります。
経営者が知らない資産形成の仕組みを、これから入社する若者の方が知っている。
もし、そうした若者から採用面接で質問されたら、どう答えるでしょうか。
「御社には、企業型DCがありますか?」
「退職金制度は、どのようになっていますか?」
「従業員の資産形成を支援する制度はありますか?」
これからの経営者には、こうした質問に向き合う場面が増えるかもしれません。
2.求職者は給与だけを見て会社を選ぶのか?
もちろん、給与は重要です。
休日や労働時間、職場環境も、会社を選ぶうえで欠かせない条件でしょう。
福利厚生制度が充実していても、給与水準が低く、長時間労働が常態化している会社が、簡単に選ばれるとは思いません。
しかし、給与や休日などの条件が近い会社が二つあったら、どうでしょうか。
一方には退職金制度があり、会社がその内容を分かりやすく説明している。
もう一方には制度があるのかどうかも分からず、質問しても明確な説明がない。
求職者は、どちらの会社に安心感を持つでしょうか。
さらに、企業型DCによって会社が老後資産形成を支援し、従業員への金融教育にも取り組んでいるとしたら。
それが採用の決定打になるとは限りません。
しかし、会社の姿勢を伝える材料にはなるはずです。
私は、これからの福利厚生には、**「制度があるかどうか」だけでなく、「会社が従業員の将来をどう考えているか」**を伝える役割もあると思います。
3.大企業からの転職者は、企業型DCを知っている
もう一つ、経営者に知っていただきたいことがあります。
企業型DCは、転職しても、それまで積み立てた年金資産を一定の条件の下で持ち運べる制度です。
例えば、大企業で企業型DCに加入していた人が、中小企業に転職するとします。
転職先にも企業型DCがあれば、原則として、その資産を転職先の制度に移すことができます。
転職先に制度がない場合には、iDeCoなどへの移換を検討することになります。
つまり、企業型DCに加入していた人にとって、転職先に同じ制度があるかどうかは、無関係な話ではありません。
経営者は「うちは中小企業だから、企業年金なんて関係ない」と考えている。
一方、応募者は、前の会社で企業型DCを利用しており、転職後も資産形成を続けたいと考えている。
このとき、会社と応募者の間には、福利厚生に対する認識の違いがあります。
会社が知らないからといって、応募者にとって重要でないとは限らないのです。
4.「企業型DCを入れれば採用できる」は、まったく違う
ここまで読むと、「では、企業型DCを導入すれば採用に有利になるのか」と思う経営者もいるかもしれません。
しかし、私はそう単純には考えていません。
企業型DCを導入したからといって、求職者が集まるとは限りません。
従業員が辞めなくなるわけでもありません。
給与、休日、労働時間、職場環境、仕事内容、人間関係。
働く人が会社を選ぶ理由は、さまざまです。
企業型DCは、その中の一つの選択肢にすぎません。
むしろ、私が経営者に考えていただきたいのは、別のことです。
「自社は、働く人から選ばれる理由を説明できますか?」
この問いに、すぐ答えられるでしょうか。
給与が高い。
休日が多い。
働きやすい。
それも立派な理由です。
しかし、それだけではない会社の魅力もあるはずです。
従業員の成長を支援している。
将来の生活を考えている。
退職後の資産形成まで視野に入れている。
企業型DCは、そうした会社の考え方を具体的な制度として示す方法の一つです。
5.福利厚生は「会社が与えるもの」から「従業員が価値を判断するもの」へ
企業型DCに限らず、退職金制度や福利厚生には、会社が費用を負担しているものが数多くあります。
しかし、従業員が制度の内容を知らなければ、その価値は十分に伝わりません。
会社は「これだけ従業員のために負担している」と考えている。
一方、従業員は「うちの会社には、たいした福利厚生がない」と感じている。
そんな認識の違いが生まれることもあります。
私は、企業型DCの導入を検討する医療機関への提案を通じても、この問題を改めて考えています。
すでに退職金制度があるのに、その内容が職員に十分伝わっていない。
会社が負担している福利厚生の価値を、職員自身が理解できていない。
このような状態では、新しい制度を増やす前に、今ある制度を整理し、説明することが必要でしょう。
福利厚生は、会社が用意したという事実だけでは、その価値が決まらない。
従業員がその制度を知り、自分にとってどんな意味があるのかを理解して、初めて価値を実感できるのではないでしょうか。
6.金融教育を受けた若者は、会社の何を見るのか?
今後、学校で金融教育を受けた若者が、企業の採用面接を受けるようになります。
その人たちが、全員企業型DCに関心を持つわけではありません。
しかし、資産形成を考えることが以前より身近になれば、会社の福利厚生を見る目も変わっていく可能性があります。
そして、企業型DCを導入している会社では、従業員への投資教育が求められます。
これは、単に金融商品を選ぶための教育ではありません。
公的年金の仕組みを知る。
長期的な資産形成について考える。
リスクとリターンを理解する。
自分の将来の生活を考える。
こうした機会を会社が提供することにも意味があります。
企業型DCは、会社が掛金を拠出する福利厚生制度であると同時に、従業員が自分の将来について考えるきっかけにもなります。
ただし、繰り返しますが、企業型DCの導入そのものが目的ではありません。
大切なのは、会社が従業員の将来をどう支援したいのかという考え方です。
【おわりに――選ばれる会社になるために、何を変えるのか?】
人手不足の時代、経営者は採用に苦労しています。
しかし、「いい人が応募してこない」と嘆くだけでは、状況は変わらないかもしれません。
応募者を評価する前に、自社が応募者からどう評価されているのか。
その視点が必要ではないでしょうか。
給与や休日だけでなく、働く環境、成長の機会、将来への支援。
会社が提供する価値を、働く人の立場から考えてみる。
企業型DCや退職金制度は、その一つの材料です。
私は、これからの中小企業経営者には、次の問いを持っていただきたいと思っています。
「自社は、人を選ぶことばかり考えていないか?」
そして、もう一つ。
「働く人から選ばれるために、自社は何をしているのか?」
会社が人を選ぶだけの時代から、会社も働く人に選ばれる時代へ。
金融教育を受けた若者の登場は、その変化を考える一つのきっかけになるのではないでしょうか。
運送業・企業型DC・助成金専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/
最後までお読みいただきありがとうございます。


