中小企業の企業型DC導入メリットとは?公的年金との違いと運送会社の福利厚生を考える
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
【iDeCoを知っていても、企業型DCは知らない?】
「iDeCoはやっていますが、企業型DCはよく知りません」
企業型確定拠出年金(企業型DC)の相談を受けていると、そんな経営者に出会うことがあります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分自身で掛金を拠出し、老後の資産形成に取り組む制度です。
一方、企業型DCは、会社が設ける企業年金制度です。
どちらも確定拠出年金ですが、加入の仕組みや掛金の拠出方法などが異なります。
私はこれまで経験した企業型DCの制度設計・導入サポートをしてきた中には、経営者自身がiDeCoに加入していたものの、企業型DCの仕組みを知り、自社に導入したケースがあります。
興味深いのは、同じiDeCoから企業型DCへの移行でも、導入目的によって制度設計が異なることです。
今回は、2つの導入事例と、最近受けた経営者からの相談をご紹介します。
1. 事例① iDeCoから完全選択制DCへ――経営者自身の退職金づくり
最初の事例は、iDeCoで老後資産形成に取り組んでいた経営者です。
この経営者が企業型DCに関心を持った理由は、大きく2つありました。
① 税金や社会保険料の負担を軽減したい
② 経営者自身の退職金を準備したい
そこで検討したのが、完全選択制DCです。
完全選択制DCとは、給与や役員報酬の一部について、給与・報酬として受け取るか、企業型DCの掛金に充てるかを選択できる仕組みです。
例えば、毎月の役員報酬の一部を企業型DCの掛金に振り替えることで、現在の手取り収入と将来の資産形成のバランスを考えることができます。
掛金の税制上の取扱いや社会保険料への影響は、通常の給与・報酬として受け取る場合とは異なります。
また、制度の加入資格や掛金上限などの条件によっては、iDeCoよりも多くの掛金を拠出できる場合があります。
この経営者は、企業型DCを活用することで、税金・社会保険料の負担を見直しながら、自分自身の退職金づくりに取り組むことを選びました。
ただし、選択制DCによって社会保険料が軽減される場合、将来の老齢厚生年金や社会保険給付に影響する可能性があります。
目先の負担軽減だけでなく、将来受け取る給付との関係も理解したうえで制度設計することが重要です。
2. 事例② iDeCoからA+B方式へ――経営者と従業員の将来のために
2つ目の事例も、経営者自身がiDeCoに加入していた会社です。
しかし、こちらの経営者が重視したのは、自分自身の資産形成だけではありませんでした。
① 従業員の福利厚生を充実させたい
② 経営者自身と従業員の退職金を準備したい
そこで導入したのが、**基本給付金+加算給付金(A+B方式)**です。
この方式では、会社が一定額を拠出する部分と、従業員が給与の一部を掛金として選択できる部分を組み合わせます。
例えば、会社が毎月一定額を従業員のために拠出し、従業員は自分の生活状況や将来設計に応じて、追加の掛金を選択することができます。
会社が従業員の老後資産形成を支援しながら、従業員自身にも選択の機会を設ける仕組みです。
この制度設計の魅力は、会社からの福利厚生と、従業員自身の資産形成を組み合わせられることです。
また、加入資格などの要件を満たせば、経営者自身も制度を活用して将来の退職金づくりに取り組めます。
企業型DCは、経営者自身のためだけではなく、従業員の将来を支える福利厚生制度としても活用できるのです。
3. 同じiDeCoからの移行でも、制度設計はこれだけ違う
ここまでの2つの事例を整理してみましょう。
比較項目
完全選択制DC A+B方式
導入前 経営者がiDeCoに加入 経営者がiDeCoに加入
主な目的 税・社会保険料の負担軽減 福利厚生の充実
退職金づくり 経営者自身 経営者と従業員
制度設計 給与・報酬の一部を掛金として選択 会社拠出と選択制を組み合わせる
どちらの制度設計が優れているという話ではありません。
経営者が自分自身の退職金づくりを重視するのか。
それとも、従業員の福利厚生を充実させ、会社全体で将来の資産形成に取り組みたいのか。
その目的によって、適した制度設計は変わります。
企業型DCは、どの会社にも同じ仕組みを当てはめる制度ではないのです。
4. 「役員報酬を上げる以外に、会社の利益を活用する方法はありませんか?」
最近、こんな相談も受けました。
「会社の利益は出ているのですが、役員報酬を増やすのではなく、企業型DCを活用することで何かメリットはありませんか?」
この経営者は、役員自身の将来の資産形成や、税金・社会保険料の負担に関心を持っていました。
そこで私は、経営者自身の資産形成だけでなく、従業員の福利厚生という視点からも企業型DCを検討してみてはどうかとお話ししました。
会社に利益が出ているのであれば、その一部を従業員の将来のために活用するという考え方もあります。
従業員の福利厚生を充実させることは、会社への安心感や信頼感につながる可能性があります。
また、採用活動において、自社の福利厚生制度を伝える材料にもなるでしょう。
もちろん、企業型DCを導入したからといって、人材採用や定着が直ちに改善するわけではありません。
しかし、経営者自身のメリットを考えることが、従業員の将来を考えるきっかけになることもあります。
なお、この会社は現在、制度導入を検討している段階です。
どのような制度設計が適しているかは、会社の状況や従業員の構成などを確認しながら考えていくことになります。
5. iDeCoと企業型DC、何が違う?
ここで、iDeCoと企業型DCの基本的な違いを簡単に整理します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
個人が自分で加入し、原則として自分で掛金を拠出する制度です。
掛金は所得控除の対象となり、運用益も原則非課税です。
企業型DC(企業型確定拠出年金)
会社が制度を設け、加入資格を満たす従業員などが加入する企業年金制度です。
会社が掛金を拠出する仕組みを基本とし、制度設計によっては従業員が掛金の選択や追加拠出を行うこともできます。
iDeCoと企業型DCでは、掛金の上限や税制上の取扱い、加入の仕組みなどに違いがあります。
また、iDeCoで積み立てた資産を企業型DCに移換できる場合があります。
ただし、企業型DCに加入すれば誰でもiDeCoより多く拠出できるわけではありません。掛金上限や加入条件は、それぞれの状況によって異なります。
重要なのは、iDeCoと企業型DCのどちらが得かではなく、自分自身と会社の目的に合った制度を選ぶことです。
6. 企業型DCを「経営者だけの制度」で終わらせない
企業型DCを導入するきっかけは、経営者自身の退職金づくりや税負担の見直しでもよいと思います。
実際に、そうした関心から企業型DCを知り、導入に至った会社もあります。
しかし、企業型DCには、もう一つの大きな可能性があります。
それは、従業員の将来の資産形成を会社が支援できることです。
中小零細企業では、大企業のような退職金制度や企業年金制度を整備していない会社もあります。
そのような会社にとって、企業型DCは福利厚生を充実させる選択肢の一つになります。
従業員が将来の生活について考え、資産形成の知識を身につける機会にもなります。
私は、企業型DCを単なる税金・社会保険料の負担軽減策としてではなく、経営者と従業員の将来を支える制度として広めていきたいと考えています。
【まとめ――企業型DCは、会社の目的に合わせて活用できる】
今回ご紹介した2つの導入事例は、いずれも経営者自身がiDeCoに加入していたことが出発点でした。
しかし、企業型DCの導入目的は異なります。
一方は、税金・社会保険料の負担軽減と、経営者自身の退職金づくり。
もう一方は、従業員の福利厚生充実と、経営者・従業員双方の退職金づくりです。
さらに、会社の利益をどのように活用するかという相談から、企業型DCの検討が始まるケースもあります。
企業型DCは、会社の規模だけでなく、経営者の目的によっても活用方法が変わる制度です。
最初から詳しい制度の知識がなくても構いません。
「自分の会社では、どんな活用方法があるのだろうか?」
まずは、そこから考えてみてはいかがでしょうか。
次回は、企業型DCの導入を具体的に検討する経営者に向けて、「企業型DC導入前に確認したい7項目」を解説します。
企業型DCの制度設計・導入サポートについて
YUTOLI 社会保険労務士・FP事務所では、企業型DCの制度設計・導入をサポートしています。
これまでの企業型DC導入支援に携わってきた経験と、公的年金に関する専門知識を活かし、会社の目的や状況に応じた制度設計をご提案しています。
運送業・企業型DC・助成金専門社労士としての活動はこちら。
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