物流2024年問題の最大の落とし穴――年間960時間以内でも36協定違反になる理由

吉元康裕

吉元康裕

テーマ:労働時間制度

運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。

【「年間960時間以内だから大丈夫」と思っていませんか?】

2024年4月、トラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用されました。

いわゆる「物流2024年問題」です。

あれから2年半が経過しました。

「ドライバーの残業時間を年間960時間以内に抑えた」

「36協定も労働基準監督署に届け出ている」

「だから、2024年問題への対応は終わった」

そう考えている運送会社の経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

年間960時間以内であっても、自社の36協定に違反している可能性があるのです。

私は2026年9月1日、東京都トラック協会城東地区6支部合同研修会で、「2024年問題最大の落とし穴」をテーマに講師を務めました。

今回のコラムでは、その研修会でお伝えした内容をもとに、運送会社の経営者にぜひ理解していただきたい36協定の本質について解説します。

1. 物流2024年問題で、国が決めたのは「年間960時間」という上限

労働基準法では、法定労働時間は原則として1日8時間、1週40時間です。

これを超える時間外労働や法定休日労働を行わせるには、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

2024年4月から、自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用されました。

原則となる限度時間は月45時間・年360時間です。

臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付き36協定によって、年間960時間以内の範囲で時間外労働を行わせることができます。

ここで、経営者に理解していただきたいことがあります。

年間960時間とは、法律で定められた上限であって、各会社で認められる残業時間そのものではありません。

実際に何時間まで時間外労働を行わせることができるかは、法律の範囲内で会社と従業員代表が締結した36協定によって決まります。

つまり、年間960時間以内に収めていても、自社の36協定で定めた上限を超えていれば、協定違反の問題が生じるのです。

2. 36協定の本質を理解していますか?

私は、ここが物流2024年問題の最も重要なポイントだと考えています。

36協定とは、会社と労働者の過半数代表者などが、時間外労働や休日労働について取り決める労使協定です。

労働基準監督署に提出するためだけの書類ではありません。

会社と従業員が、時間外労働をどの範囲まで認めるのかを話し合い、合意するものです。

ところが、運送会社の36協定を確認していると、次のようなケースがあります。

① 厚生労働省の記載例を、そのまま転記している

② 実際の残業時間を確認せず、月80時間などの数字を記載している

③ 年間960時間より少なく記載しておけば、労働基準監督署から指摘されにくいと考えている

④ 協定で定めた時間と、実際の時間外労働が一致していない

誤解しないでいただきたいのは、年間960時間より少ない時間で36協定を締結すること自体は、何も問題ないということです。

例えば、実際の時間外労働が年間600時間程度で収まる会社なら、その実態を踏まえて適切な時間を協定すればよいのです。

問題なのは、自社の実態を把握せず、36協定の意味も十分に理解しないまま、数字だけを記入して届け出てしまうことです。

36協定は、監督署に見せるための書類ではありません。

この基本を、まず理解していただきたいのです。

3. 「6回・80時間」で協定すると、年間750時間になる?

ここから、具体例で説明します。

トラックドライバーについて、特別条項付き36協定を次のように締結した会社を考えてみましょう。

① 限度時間を超えて労働させることができる回数:年6回

② 特別条項による1か月の時間外労働の上限:80時間

③ 通常の限度時間:月45時間

この場合、各月の時間外労働の上限を合計すると、次のようになります。

通常の月

45時間 × 6か月 = 270時間

特別条項を適用する月

80時間 × 6か月 = 480時間

年間合計

270時間 + 480時間 = 750時間

つまり、この協定内容では、各月の上限を最大限利用しても年間750時間です。

仮に、あるドライバーの年間時間外労働が800時間だったとしましょう。

法律上の年間960時間以内には収まっています。

しかし、協定内容が先ほどの例のとおりであれば、月ごとの上限や特別条項の回数を超えることになります。

法律の960時間を守っていても、自社の36協定には違反している。

これが、私が研修会で「物流2024年問題最大の落とし穴」としてお伝えしたことです。

なお、この750時間は、通常の限度時間を月45時間とした場合の計算例です。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制では、原則の限度時間が月42時間・年320時間となるため、別途確認が必要です。

4. 「6回」「80時間」「750時間」と書いてはいけないのか?

いいえ、そうではありません。

例えば、ドライバーの時間外労働が年間700時間以内に収まる会社であれば、年間750時間という協定でも問題なく運用できる可能性があります。

むしろ、長時間労働の抑制という観点から、適切な時間数を設定することには意味があります。

問題は、その数字が自社の実態に合っているかどうかです。

私は研修会で、次のような趣旨のお話をしました。

「自社の実態を踏まえて、960時間より少ない時間で協定するなら、それでいいんです。しかし、実態を考えず、厚生労働省の見本どおりに書いて届け出るのは違います」

厚生労働省の記載例は、書類の記入方法を理解するためのものです。

その数字を使えば、どの運送会社でも適切な36協定になるという意味ではありません。

実際には年間800時間程度の時間外労働が発生しているのに、記載例を参考に年間750時間しか認められない内容で協定してしまえば、実態と協定内容が食い違います。

また、実態に合わせるということは、現在の長時間労働を無条件に認めることでもありません。

時間外労働を減らすための取り組みと、現実に必要な業務を適法に行うための協定内容を、併せて検討する必要があります。

5. ドライバーの特別条項付き36協定、3つの確認ポイント

トラックドライバーの特別条項付き36協定には、「様式第9号の3の5」を使用します。

特に確認していただきたいのは、次の3点です。

① 限度時間を超えて労働させることができる回数

一般の労働者では、月45時間を超える時間外労働は年6か月までという制限があります。

しかし、自動車運転業務には、この回数制限が適用されません。

そのため、専用様式の自動車運転者の欄では、回数の記載が任意となっています。

ここに「6回」と記載して協定すれば、その回数が協定上の制約となります。

一般の労働者とドライバーの規制の違いを理解して記載する必要があります。

② 1か月の時間外労働の上限

ドライバーについては、一般の労働者に適用される時間外・休日労働の合計が月100時間未満という上限規制は適用されません。

しかし、だからといって無制限に設定できるわけではありません。

改善基準告示による拘束時間や休息期間などの制限を踏まえ、労使で適切な時間を協定する必要があります。

月80時間という数字も、すべての運送会社に共通する正解ではありません。

③ 1年間の時間外労働の上限

自動車運転業務の法定上限は、年間960時間です。

しかし、協定する時間数は、会社の実態や労使の合意に基づいて決めます。

年間600時間で運用できる会社なら、その範囲で協定すればよいでしょう。

一方、実際には年間800時間程度の時間外労働が発生している会社が、理由もなく750時間と協定するのであれば、問題が生じる可能性があります。

大切なのは「960時間と書くこと」ではなく、「自社の実態と36協定の内容を一致させること」です。

もちろん、臨時的な特別の事情がないにもかかわらず、特別条項を恒常的な長時間労働のために利用することは適切ではありません。

6. ドライバー以外の従業員にも注意が必要

運送会社には、ドライバー以外にも、運行管理者、倉庫作業員、事務職など、さまざまな従業員がいます。

これらの従業員については、実際の業務内容などに応じて、一般の労働者の時間外労働の上限規制が適用されます。

一般の労働者について、特別条項による主な上限は次のとおりです。

① 年間の時間外労働は720時間以内

② 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満

③ 時間外労働と休日労働の合計は2~6か月平均80時間以内

④ 月45時間を超える時間外労働は年6か月まで

また、運行管理者という役職名だけで、労働基準法上の管理監督者になるわけではありません。

ドライバーの年間960時間だけに目を向けるのではなく、会社全体の労働時間管理を確認する必要があります。

7. 36協定だけでなく、改善基準告示も守る

ここまで36協定の重要性について説明しました。

しかし、36協定を適切に締結・届出しても、それだけでドライバーの労働時間管理が完了するわけではありません。

トラックドライバーには、改善基準告示による拘束時間、休息期間、運転時間などの基準もあります。

例えば、36協定の範囲内で時間外労働を行っていても、拘束時間が改善基準告示の上限を超えていれば問題になります。

また、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの休息期間が不足している場合にも注意が必要です。

この点については、前回のコラム「36協定を守れば大丈夫?運送会社の改善基準告示と労働時間管理」で詳しく解説しました。

36協定と改善基準告示は、どちらか一方を守ればよいという関係ではありません。

両方を確認する必要があります。

8. 物流2024年問題は、2024年だけの問題ではない

2024年4月から始まった時間外労働の上限規制は、今も続いています。

36協定は、締結・届出を済ませれば終わりというものではありません。

協定の有効期間中も、実際の時間外労働が協定の範囲内に収まっているかを管理する必要があります。

また、運送会社の長時間労働には、荷待ち時間、荷役作業、運行計画、荷主との取引条件など、さまざまな要因が関係しています。

労働時間を短縮するためには、運送会社内部の取り組みだけでなく、荷主や取引先との協議も必要です。

さらに、労働時間の短縮とドライバーの賃金確保をどう両立させるかという課題もあります。

運送業界では、取引の適正化、多重下請け構造の見直し、適正原価の議論など、経営環境を変える動きが進んでいます。

物流2024年問題は、年間960時間という数字だけの問題ではありません。

適切な労働時間管理と、ドライバーの処遇改善、そして運送会社の持続可能な経営をどう両立させるか。

この課題は、今も続いています。

まとめ. 自社の36協定を、もう一度確認してみませんか?

最後に、経営者に確認していただきたいことがあります。

① 自社の36協定に、何時間と記載されているか把握していますか?

② その数字は、実際の時間外労働を踏まえて決めたものですか?

③ 特別条項の回数や月間上限は、ドライバーの実態に合っていますか?

④ ドライバー以外の従業員の時間外労働も管理できていますか?

⑤ 改善基準告示の拘束時間や休息期間も確認していますか?

私は、2026年9月に東京都トラック協会城東地区6支部合同研修会で、36協定に潜む落とし穴についてお話ししました。

その経験から、経営者に最もお伝えしたいことがあります。

36協定は、労働基準監督署に提出するためだけの書類ではありません。

会社と従業員が、時間外・休日労働について取り決める重要な労使協定です。

年間960時間という数字だけで安心するのではなく、自社が何時間で協定し、実際に何時間働いているのかを確認する。

それが、物流2024年問題への対応を考えるうえでの基本だと考えています。

特別条項付き36協定の正しい書き方について

トラックドライバーの特別条項付き36協定について、具体的な記載方法を確認したい方は、私の公式LPをご覧ください。

特別条項付き36協定の記載例をダウンロードしてご確認いただけます。

記載例を参考にする際も、数字をそのまま転記するのではなく、自社の実態や労使の合意内容に照らして検討してください。

運送業専門社労士としての活動はこちら。

公式LP:https://yutoli-sr.com/

YUTOLI 社会保険労務士・FP事務所

運送業・企業型DC・助成金専門社労士

最後までお読みいただきありがとうございます。

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吉元康裕
専門家

吉元康裕(社会保険労務士)

YUTOLI社会保険労務士・FP事務所

運送業の労働時間や賃金の課題に対応。2024年問題や36協定を踏まえ、ドライバーの勤務実態に応じた制度運用を支援します。幅広い業種で企業型DCの導入や就業規則の作成・見直しも手掛けています。

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