【エンゲージメント⑥】部下は「自分」に期待できているか?:期待理論で紐解く、努力を成果と報酬の「5つのチェックポイント」[(4)期待理論②]

弥左大志

弥左大志

テーマ:エンゲージメント向上

努力を「業績」に変えるための、マネジメントのミッシングリンク

  • 「社員の努力が空回りして、成果に結びついていないのではないか?」
  • 「あるいは、そもそも本人にやる気が無いのではないか?」

多くの経営者や管理職を悩ませるこれらの問いに対し、ポーターとローラーが提唱した「期待理論の拡張モデル」は、努力が成果(業績)になり、それが満足へと繋がるプロセスを以下の5つのチェックポイントで整理しています。

1. 期待理論とは

エンゲージメント

期待理論とは何か(Expectancy Theory)

期待理論とは、人間が「なぜその行動を選択するのか」を説明するプロセス理論です。
心理学者のビクター・ブルームは、

モチベーションを「自発的な活動の選択を支配するプロセス」(Vroom, 1964)

と定義しました。
ここで重要なのは、「誰が誰に期待するのか」という視点です。

(1)従業員の主観的な期待:

期待理論における主役は、管理職ではなく「従業員本人」です。
従業員が自分自身の「努力」に対して、「これをやれば成果が出るはずだ」「成果が出れば報酬が得られるはずだ」という主観的な見込み(期待)を持つことで、初めて行動のエネルギーが生まれます。

(2)管理職の役割:

管理職は部下に対して「期待をかける」だけでなく、部下が自らの努力に対して「正しい期待(成功の確信)」を持てるよう、環境や道筋を整える役割を担います。

努力を成果へ、成果を満足へ導く5つの変数

期待理論において、ブルームは成果を満足へ導く5つの変数を解説しています。

①努力量:

「頑張れば成果が出る(期待)」×「その報酬は魅力的か(報酬の価値)」によって決まります。どちらか一方が低いだけで、意欲全体が著しく弱まります。

②成果:

単なる努力量だけでは決まりません。本人の「能力」と「役割認知(自分の役割やタスクの正しい理解度)」が揃って初めて、努力は業績へと変換されます。

③内的報酬:

達成感、成長、自己満足など、仕事を通じて得られる内面的な満足感です。

④外的報酬:

給与、昇進、ボーナス、地位など、組織から外部的に与えられる報酬です。

⑤公平性の認知:

得られた報酬が「自分の貢献に対して公平だ」と感じられない場合、たとえ報酬額が高くてもモチベーションは低下します。

2. 理論の解説:努力が成果と満足に変わるまでの全体像

ブルームの期待理論(努力×報酬=やる気)をさらに進化させた本モデルでは、モチベーションが実際の業績に繋がり、さらに次のやる気へ循環するまでのプロセスを以下のフローで説明しています。

全体のフロー

  1. 努力の決定:報酬の価値と、努力が報酬に結びつく確率(期待)によって、どれだけ頑張るか(努力量)が決まります。
  2. 業績への変換:投じられた努力は、個人の「能力・資質」と、正しい方向性の理解である「役割認知」という2つのフィルターを通ることで、初めて「業績(成果)」となります。
  3. 報酬の獲得:業績は、達成感・成長などの「内発的報酬」と、給与や昇進などの「外発的報酬」をもたらします。
  4. 満足の形成:得られた報酬が、本人の貢献に対して「公平(知覚された公正な報酬)」であると判断されたとき、初めて「満足」が生まれます。
  5. 次への循環:この満足感が、次のサイクルにおける「報酬の価値」へとフィードバックされ、持続的なやる気が形成されます。

ポイント

  • 努力と成果は直結しない:どんなに必死に頑張っても、本人のスキル(能力)が不足していたり、的外れな努力(役割認知の欠如)をしていれば、組織が望む成果には繋がりません。
  • 公平性が満足の鍵を握る:報酬の絶対額ではなく、自分の努力に見合っているかという「公平性」が低いと、たとえ成果を上げても満足度は低下し、次の努力は生まれません。
  • 内・外両面の報酬バランス:「ボーナス(外発的)」だけでなく、「やり遂げた実感(内発的)」の両方「が揃うことで、より深い満足が生まれます。

3. 中小企業における「努力の空回り」を防ぐ具体的事例

リソースが限られているからこそ、一人ひとりの努力を確実に成果へ繋げるためのアクションが求められます。

事例A:営業マンの「役割認知」を正す

ある中小企業で、若手営業マンが「テレアポの件数(努力)」は一番なのに「成約数(成果)」が伸び悩んでいました。これは典型的な「間違った努力」の状態です。

  • アクション:マネージャーが同行し、彼の「役割」が単なる件数稼ぎではなく「顧客の課題解決」であることを再定義しました。役割認知(何をすべきか)を修正したことで、彼の努力は正しい方向に向き、成約率が劇的に向上しました。

事例B:内発的報酬と外発的報酬のバランス設計

「ボーナス(外発的報酬)」だけでは、社員の顔つきが変わらないケース。

  • アクション:成果を上げた社員に対し、金銭的報酬に加え、「プロジェクト完遂の達成感(内発的報酬)」を強調し、その功績を全社で称賛しました。内発的報酬と外発的報酬をバランスよく提供することで、報酬の主観的な価値を高めることに成功しました。

4. 実践における注意点:不公平感は「やる気の毒薬」

本理論で最も注視すべきは、「報酬が公平であるか」という従業員の主観です。

注意点:

評価基準が不透明なまま報酬を決めることは非常に危険です。

  • 「なぜあの人が高く評価されるのか」という疑念が生じると、報酬が適切でない、あるいは不公平だと感じられ、モチベーションは急激に減少します。
  • 納得感のある「公正な報酬」の設計こそが、満足度を次なる努力へと繋げるフィードバックループを回す鍵となります。


管理職は「成果への道筋」を整える伴走者である

メンバーに「もっと頑張れ」と発破をかけるだけでは不十分です。

上司の期待の掛け方が的外れであれば、それは「間違った努力」を誘発し、報酬が得られないという負の循環を招くだけです。

  1. その努力を成果に変えるための「能力」は備わっているか?
  2. 向かっている方向(役割認知)は組織の目的と合致しているか?
  3. 与えられた報酬は、本人の貢献に対して「公平」だと感じられているか?

マネージャーの役割は、努力が空回りする要因を取り除き、公平な評価で満足度を高める「環境の設計」にあります。


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  • なお、本コラムにおけるエンゲージメント理論の解釈は、弊社独自の観点によるものであり、内容の一部を抜粋してご紹介している点をご承知おきください。


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弥左大志
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弥左大志(経営コンサルタント)

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企業にあわせた「勝ちパターン」を見出し、誰でも再現できる仕組みを構築。研修を起点に、現場での実行までサポートします。1.2倍超の売り上げアップの実績を誇り、金融機関やファンド会社からの依頼も多数。

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