年始の目標を立てた人のうち80%が2月半ばまでに脱落している
最近、グローバル企業での取り組みの話を聞きました。その企業では5人の事業部長が「私の夢(方針)」を絵にし、事業をスタートさせることに挑戦をしているということです。
かつて、ヨーロッパの大航海時代、大航海を成功させると儲かることが知られるようになると、王侯貴族が航海に出資をするようになります。しかし、生命の危険にさらされるリスクがありますので、クルーを集めることができず船を出せない船長が溢れたそうです。
その船長達は酒樽の上に乗り、俺についてくると成功できるぞ、と「私の夢」や「成功できる能力が自分にあること」をプレゼンしたそうです。そこで、その企業では「樽上宣言」と名付け、事業部長の夢を加味した事業方針として発表しているのだそうです。
大企業にいると、「社員ゼロ」「顧客ゼロ」から「私の夢」を実現する経験はなかなかできません。そのような夢を語らなくとも社員は船に乗っていますし、出港できます。しかし、リーダーの「夢」がわからないまま出港をすると、実際に同じ方向を向いて船を走らせているクルーがいなかったり、漂流をするリスクが存在します。そんなわけで、リーダーが語るべき「方針(私の夢)」について少し考えてみたいと思います。
■組織運営の出発点
組織運営をする際に何から考えると良いかというと、「そもそもこの組織の役割は何だろうか?」という観点になります。電機メーカーを例にすると、「人々の生活をより豊かに、社会をより快適にする」ということを役割としている企業があるかと思います(「役割」は「存在意義」と表現されることもあります)。その次に、「役割を具体的にどのように果たしていくのか?」ということについて「方針」が必要になります。置かれた環境によって、取り組み方は変わりますし、力を注ぐところを間違わないようにしなければいけません。その方針は「商品のデザイン性を高め、憧れのブランディングをする」「設計開発のアウトソーシングをやめて、商品・サービスの開発力を再興する」など、企業の状況に応じた戦い方になってきます。
この組織の役割や方針は、大きな単位から小さな単位までそれぞれ設定できますし、すべきです。「営業本部の役割は何か?」「経理部の役割は何か?」「社長室の役割は何か?」それぞれに設計思想があります。同じ呼称の部門であっても企業によって求められる役割は同じではなく、それぞれの部門を任された責任者は、その存在意義を明確にすることが最初の仕事だと言えます。例えば、ある企業で「社長室」というと社長の秘書業務や取締役会の運営を司っていますが、またある企業では、企業として存在価値を高め続けるために組織力を鍛える役割を担っています。
そのように組織の存在意義を定義した上で、進んで行く方向・目的地を示すのが、「部門方針」ということになります。そういう話をしていると、「部門方針ってどんなことを示せば良いの?」と悩まれる部門責任者の方もおられます。確かに、どう示せば良いかということにおいて、決まった形は存在しません。「方針を設定する目的」から考えて、「表現する内容や方法」を決めることが大事になります。
■部門方針を示す意義
「部門方針」を示す目的として最も重要なことは「組織に所属するメンバーが必要な行動を取れるようにする」ことです。毎月目標を設定し、決まった顧客を訪問するような仕事をしていると、気を許せば同じ活動の繰り返し、成果は出ているようで従来と変わっていない、ということも起きてしまいます。忙しいようだけど、進歩がない状態を「アクティブ・ノンアクション」と言いますが、短期的な業績目標を達成することに汲々として、本来中長期的な成長に必要な行動がとれていない人や組織は多いものです。この「忙しいけど進歩がない」状態はマネジメント上大変問題になります。未来永劫同じ活動を繰り返していて生き延びられる組織は存在せず、人の循環、技術の循環を回していくことが生命力の維持には欠かせません。(参考:日本のエレクトロニクス産業はなぜ凋落したか? )
下図は私がクライアント先のトレーニングでよく活用される図ですが、マネジメントにおいて最も重要な活動領域は「第2領域(緊急性は高くないが重要な活動)」になります。第1領域は誰もが頑張りますし、そこを頑張っているだけでは競争には勝てません。意識的に第2領域の仕事に取り組んで、第1領域の仕事を減らすことがポイントです。悪い例をあげると、「仕事のプロセスを見直して、無駄無理のない流れを作る」という仕事は第2領域ですが、その仕事を怠った結果、「やり直し」「手待ち」「重複」と言った無駄な仕事を多発させ、その対応(第1領域の仕事)に忙しくなってしまうということです。
そういう状況から脱するために、「どういう点で進歩をするのか」ということを明確に示し、組織メンバーの行動を起こさせることが「部門方針」を設定する意義ではないかと思います。
人間は、「新しい挑戦(今までできなかったことをできるようにする、慣れ親しんだやり方を変える)」をするにはエネルギーを使います。そのエネルギーを使う方向に組織を向かわせる上で、方針を掲げることが重要なのです。
あまり難しく考える必要はありません。野球チームの例でいえば、「もう少し繋いで進塁させる力がつけば優勝できる。機動力野球を今年のテーマにして挑戦しよう」「今年はホームランを打てる選手が多い、徹底的に打ち勝つチーム作りをしよう」「バッティングを今から急激に伸ばすのは難しい、守って粘り勝てるチームを作ろう」などと、単に「優勝する」という目標を掲げるだけでなく、「戦い方」「チームが力を入れるべきポイント」を明確に示すことでチームの力が結集し、大きな力となります。
そういうポイントはどこなのか、時代の変化、立地環境、商売の特徴、その組織メンバーの力量などから考えて示すことがリーダーの役割になります。変化の大きな時代において、「部門方針」を示す力は大変重要になってきています。
次回は、組織メンバーのエネルギーを一つの方向に向けるために何を示すと良いか?ということを考えてみたいと思います。