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小田原漂情

国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師

小田原漂情(おだわらひょうじょう) / 学習塾塾長

有限会社 言問学舎

コラム

東京都立高校「男女別定員(募集)撤廃へ」のニュースについて

2021年9月27日

テーマ:小田原漂情

コラムカテゴリ:スクール・習い事

コラムキーワード: 高校受験 勉強法

 先日、東京都立高校の入学者選抜における男女別定員(募集)撤廃のニュースが流れました。東京都教育委員会のホームページには、<男女別定員制の緩和>として、「段階的に移行する」と書かれています。現在もWebで確認できるNHKのニュース(NHK首都圏ナビ)では「撤廃の方針」とされていますので、将来的には男女で定員を分けることのない「一本化」をめざす方向なのでしょう。なお、ニュースなどでも解説されていますが、2021年実施の入試(入学者選抜)までも一部の学校で定員の10%について「男女枠緩和」が実施されており、「段階的移行」とは、その緩和を流動的に拡大して行くことを指すようです。

 さて、現行の男女別定員とはどういうものなのか。「制度」についてはニュースや都教委HPでもわかることですから、ここでは具体例に基づき、かんたんにご説明します。都立日比谷高校では、2021年2月実施の入試(入学者選抜)の際、男子の募集定員が132人、女子が122人となっていました。これに対し、男子の最終応募者が297人、女子は238人、この時点での倍率が、それぞれ2.25倍、1.95倍となっています。2月21日に実施された第一次選抜(一般入試)において、この状況のまま、男子は男子、女子は女子とそれぞれ別々に、合格・不合格が決められたのです(実際の判定は、当日の入試を700点満点、3年2学期の通知表の評定を300点満点に換算した1000点満点での得点上位から、男子142人、女子130人が合格。ただし日比谷は当日受験者が毎年大幅に減るため、実受験者数は男子215人、女子202人。また全日制普通科の第一次募集・前期募集はすべてこの方式です)。これが「男女別定員(募集)」の仕組みです。男子は男子、女子は女子と、それぞれ別枠で定員があり、合否も決定されるということになります。

 ニュースなどでは、一般に「女子が不利」、「女子が大変」と言われています。日比谷の男女別の応募者数、倍率は、いつも男子の方が多い(高い)ので、上記の数字では男子の方が厳しいように見えますが、例えば同じ旧第1学区の三田高校では、最終応募時点の倍率が男子2.07倍、女子2.99倍となるなど、応募者数でも倍率でも、女子の方が激戦となるケースが多いのです。そして三田高校を含む数十校では、10%のみこの男女枠を「緩和」する、すなわち男子の得点下位の10%は合格とせず、その分女子が合格となる制度がとられています。

 では、本題に入りましょう。長年東京で高校受験指導をしている立場から、この「男女別定員(募集)」でどんなことがあったか、またそれが「撤廃」されるとどうなると考えられるか、そういった「生」の情報、見解をお伝えしたいと思います。

 私ども言問学舎は、2003年6月の創業で、2004年2月の都立高校入試から、18年間、高校受験指導をして来ました。この間、やはり「男女別定員(募集)」で女子の条件が厳しいため、手痛い結果となった子が何人かいます。そもそも、巷間「女子の方が優秀」「同じ点数で男子は合格、女子が不合格となるのは不公平だ」などと伝えられるようになる背景として、おしなべて女子の方が日々こつこつと勉強し、中学校の提出物などもおろそかにすることがない、という実情が考えられます。それゆえまず内申点(調査書点)の段階で、総じて女子の方が得点が高いのです。そのため特に、中堅上位校で女子が2倍前後の高倍率となることが多かったのですが(一般入試)、倍率が2倍に近づくと、模試や入試案内などの合否予想ラインぎりぎりか、時にはそれを上回る得点がボーダーラインとなる事態が生じ、文字通りの「激戦」となるのです。

 また、3年間の頑張り、蓄積の差が、高校受験の時点ではそのまま学力の差となっていて、不思議はありません。それゆえ「まじめに頑張って来た」女子が、入試の結果で悲しい思いをする、ということを、私自身も経験しておりますし、今回のような報道に際しても、大きな声として上がって来るのでしょう。

 ただ私の考えは、この男女別定員(募集)撤廃に、もろ手をあげて賛成というわけではありません。現在の一部校での「10%緩和」が拡大されることについては、問題なく賛成と言えますが。

 というのは、仮にいきなり、「男女まとめての合否決定」になったことを考えてみると、次のようなことが容易に想像できるからです。

①学力上位校で、軒並み女子の合格者が多くなり、その学校内での成績上位層にも女子が集中する。
②地域によって、「女子が多い学校」「男子が多い学校」が偏在することになり、学校間の学力差も拡大する可能性がある。
③学力中・下位層で、男女どちらかに偏った学校の不人気がつづき、存続が危うくなる。

 これらは学力面から考えうることだけで、部活動や生活面など、派生することがらはいくらでも考えられます。学校運営をする立場にあっては、危惧が大きいことと思われます。もちろん教育行政の側でもさらに多様な想定・分析をしているからこそ、教育委員会の公表する「段階的移行」という方針になっているのでしょう。

 また報道では、「男女別定員(募集)」は東京だけ、という面が強調されていますが、東京以外のいくつかの県には、公立の女子高校が存在しています。いわゆる男女別学で、その是非については学力だけではない別の考察が必要になりますし、一方東京には古来私立の女子校(現在は中・高一貫型が多数)が多くあります。いわゆる高校の授業料無償化で、私立高校への進学の選択肢が幅広くなっている現状から考えると、一概に都立高校の入試制度だけを取り上げて「女子が不利」と決めつけるのはいかがなものかという見方もできるでしょう。

 さらに、受験者・進学者の経済面への対応の幅が広くなっている今、かりに「男女まとめての都立高校入試」がすぐ実施されたら、高校募集を行なっている私立学校は、経営戦略の大幅な見直しを余儀なくされるでしょうし、高校募集のない中高一貫の私立学校(入試は中学だけ)にも、影響は及ぶと思われます(都立トップ校に入りやすくなるなら無理して中学受験をしなくていい、と考える家庭も、当然出て来ることになるでしょう)。それは各私立学校が経営努力で対応するべきこととしても(もちろんわれわれ塾も、受験戦略の組み換えを要します)、ここまで述べて来たようなことがらの総体が、その変化の時に直面する多くの子どもたちに、良質な教育の機会の確保という意味で、不利益になることがあってはならないということが、もっとも大きな問題であると、私は考えるものであります。

 むろん、先に引用した通り、東京都教育委員会の公式発表は、<男女別定員制の緩和>について「段階的に移行する」ということです。そして現中3のみなさんの来春の受験は現行制度の通りです。中2以下のみなさんも、ある日とつぜんすべてが変わってしまうということではありませんから、今はまず自分の現況での勉強を、しっかり続けていて下さい。言問学舎は多くのお子さんたちの勉強、受験をお手伝いする立場として、折にふれこの東京都立高校の<男女別定員制の緩和>の情報、注意点などを、お伝えして行く所存です。入塾・通塾の可能性の有無にかかわらず、高校入試に関することでご質問のある方は、お気軽にメールフォームからお問い合わせ下さい。


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