エアバス機のトラブルはハード・ソフト複合脆弱性というITへの警鐘

古賀竜一

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テーマ:ITで今起きている問題と課題


指摘された意外なエアバスA320の不具合原因

2025年11月にエアバスA320にトラブルが発生したというニュースがありました。パイロットが操作していないにもかかわらず機首が急激に下がり、複数の乗客が負傷したということです。

以前からエアバス社は、コンピュータ関連のトラブルが多かったので私は当初、「今回もそうかもしれない」と思っていました。

ところが最近になって、この事故に関して意外な原因が公表されました。ちょうど同じ時期に強力な太陽フレアが発生しており、ニュースでも話題になっていましたが、どうもそれが原因ではないかというのです。太陽から放射された高エネルギー粒子が航空機のコンピュータに影響を与え、内部の論理回路で 「SEU」と呼ばれる現象が生じ、一時的な誤作動が発生して飛行機の挙動の乱れにつながった可能性が高いということです。

エアバス社公式ページ



「SEU」とは「Single Event Upset」のことで、太陽フレアやコロナ質量放出といった太陽活動に伴い、地球へ到達した高エネルギー粒子が半導体回路に悪影響を及ぼす現象を指します。強い放射線がメモリや制御回路に入り込み、機器などの誤作動を引き起こすというものです。

SEU は以前から知られている現象です。過去には地上でも様々な影響が出たことがありますが、近年ではハードウェア面のシールド強化や、ソフトウェア面での誤り訂正技術といった十分な対策が施されています。そのため、今回のように強い太陽フレアが発生しても、地上環境への影響は限定的です。

しかし、航空機や人工衛星が活動する高高度では、大気が薄くなるため遮蔽効果が弱まり、地上よりもはるかに多くの宇宙線にさらされています。対策はとられていますが、今回のような強力な太陽由来の粒子線はシールドを貫通した可能性があり、電子機器に影響を与えて誤作動を誘発したということは十分に考えられます。

このように電子回路への影響というハードウェアの問題と、そのために起きたプログラムの誤作動というソフトウェアの問題が同時に起きたという点では、ITにおいても無関係ではない問題と考える必要があります。

ハード、ソフト両方に絡む問題

今回この問題を取り上げた理由は、これからのIT時代に向けた警鐘と思えたためです。単に航空機固有のトラブルではなく、ハードウェアとソフトウェアの両方にまたがるという点では、IT分野でも無視できない問題だからです。

ハードウェア単体、あるいはソフトウェア単体が原因であれば切り分けが比較的容易で、対処法も見つけやすくなります。しかし両者が同時に関係する問題になると状況は途端に複雑化します。原因の特定や対策が難しくなり、場合によっては、物理的な制約から「根本的な解決策が存在しない」と判断されることすらあります。非常に厄介な状況になるのです。

考えられるこれからのIT脆弱性

同じような事例は過去のIT分野にも存在します。代表的なのが、Intel CPUで発覚したメルトダウンやスペクターと呼ばれる脆弱性です。これらはコアの設計というハードウェアと投機的実行というソフトウェア側の動作が絡み合う典型的な問題だったといえます。悪用を防ぐためにはOSやアプリケーション側でソフトウェア的な緩和策が不可欠でした。ソフトウェアによる軽減策は導入されたものの、ハードウェアそのものは後から修正できないため、脆弱性の完全解消には至りませんでした。これは、Windows11 で古いCPUがシステム要件から外れた理由の一つとしても表面化しています。



現代では、PCだけでなく、IoTデバイスをはじめとするあらゆる機器が制御回路とファームウェアを組み合わせて動作しています。この傾向は今後さらに拡大し、ハードとソフトの両方が関わるトラブルは増加する可能性が高いでしょう。

意外な伏兵が潜在していて新たに出現するかも

ITの分野では、ルーターの脆弱性やバッテリー制御の問題など、複合的要因が絡んだトラブルがすでに多数発生しています。

ルーターは、内部の回路設計といったハードウェアの仕組みと、それを制御するファームウェアというソフトウェアが組み合わさって動作しています。脆弱性の中にはファームウェアの更新で修正できるものもありますが、ハードウェアそのものに起因する欠陥の場合は対処が困難です。場合によっては、根本的な改善が不可能なため、メーカーが使用中止を求めるほど深刻な状況に発展することもあります。

バッテリーに関しては、セルそのものの品質や構造といったハード面の問題に加え、その挙動を管理する制御回路やプログラムといったソフト面の問題が重なることで、危険性が一気に高まるケースがあります。現在使用されている機器にも、まだ発見されていない脆弱性が潜んでいる可能性は否定できません。また、新しい技術であっても、市場での運用を通じて初めて脆弱性が明らかになることは珍しくなく、新しいものが必ず安全で安定しているとは限らないというのがITではセオリーです。

脆弱性への対応と対策は複合的に

脆弱性は情報が公開されると、攻撃者にも内容が共有されやすくなるため、悪用されるリスクが急速に高まる場合があります。日頃から脆弱性情報に注意を払うことは、最も基本的で重要な対策といえます。また、対象となるのはアプリケーションやOSだけではありません。機器を動かすファームウェアやマイクロコードなど、ハードウェアに密接に関わる低レイヤーのソフトウェアについても更新状況を常に把握し、確実に対処する必要があります。以下のサイトなどで日々情報をチェックすることをお勧めします。

脆弱性情報サイト
JVN(Japan Vulnerability Notes)
https://jvn.jp/index.html

筆者実績:http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss

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古賀竜一(システムエンジニア)

九州インターワークス

ITのユーザーサポートの現場で実際に問題を解決しながら、ITの最新の状況とその問題点を追及している専門家です。多様で複雑になってきたITのことをユーザーにわかりやすく丁寧にお伝えします。

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