なぜ、夕食を作りながら、お酒を飲んでしまうのか?

野口由美

野口由美

テーマ:症例紹介


「夕食を作りながら、毎日、台所でお酒を飲んでしまっていて、
完全にアルコール依存だなって思って、悩んでいます」

相談に来院されたのは、小柄で、ほっそりとした、40代の会社員女性です。

お酒のことだけでなく、仕事や日常生活で困っていることが増えているそうです。

物忘れ、イライラ、頭が働かない


「このところ、頭が働かない感じがして、とても困っています。

若いときからずっと、会社の仕事は、いつも期限ぎりぎりに提出してきました。
毎回、必死で、なんとか間に合わせてきたんです。


ところが最近、最後の頑張りが効かなくなってきたなって感じています。

期限に間に合わない!ってなることが増えて、このままではだめだと、危機感を持っています」


物忘れも多くなったそうです。


「この前なんか、午前中には、たしかに覚えていた大切な約束を、午後になってすっかり忘れてしまって、すっぽかしてしまったんです。

もう~、冷や汗をかきました。

約束をしても、よく時間に遅れてしまいます。


生理前は、よくいらいらしますし、時々、ぼーっとしてしまいます」


若いときから、整理整頓は苦手という話にもなりました。


「会社でも、自分の机だけ整理整頓できてなくて、積みあがった書類が雪崩をおこしたりしています」


さらに、さまざまなからだの不調も感じているそうです。


「いつも、なんとなく息がしにくくて、息苦しさを感じます。

なんだか力が出ない感じがするんです。

のどが詰まった感じもします」


一番気にしておられるのは、アルコールのことみたいです。


「ダメだなと思うのは、夕食の準備をしながら、毎日アルコールを飲んでしまうことです。
キッチンドリンカーですよね。

自分でも、アルコール依存気味だなと感じていて、このままではいけないと思うのですが、何をどうしたらいいのかわかりません。


病院を受診して、血液検査したんですけど、まったく異常はないと言われました」

低血糖


それでは、その血液検査を見てみましょう。

たしかに、肝機能、腎機能を見る限りでは、異常はありません。
けれども、気になる数値がありました。


「血糖値が50mg/dlで、明らかに低血糖です。
採血したとき、体調は悪くなかったですか?」


「実は、採血するとき、すごく気分が悪くなって。
採血の後、ベッドでしばらく寝させてもらったんです。

採血で気分が悪くなったのかと思っていたけど、低血糖のせいだったんですね」


採血そのものでも気分が悪くなることはありますが、このときは低血糖で気持ち悪くなったのかもしれないですね。


中性脂肪も低いので、日中なんども低血糖をおこしていることがうかがえます。
食事の量や内容を確認したいところです。


「私、糖尿病でもないのに、低血糖って、どういうことでしょう?」

そうですよね。
疑問に思いますよね。


食事をとると、血糖値は上がり、その後、下がっていき、食後2時間もすると食前の値くらいに戻ってしまいます。


でも、次の食事まで、ずっと下がり続けるわけではありません。
肝臓に蓄えたグリコーゲンを分解したり、糖を作って、血液中に送り出すことで、血糖値は一定の範囲内に保たれています。


ところが、食事が足りなかったり、肝臓に蓄えた糖が少なかったりすると、血糖値を保てなくなります。
糖尿病でなくても、低血糖になることはあるのです。



低血糖は、からだにとって緊急事態です。


血糖値を上げようとして、アドレナリンなどが分泌されます。
すると、交感神経が刺激され、心身ともに緊張状態に入ります。
いらいらしたり、ざわざわして不安になる人もいます。



血糖値が低下すると、一番影響をうけるのは脳です。
頭がぼーっとして、霧がかかったようになり、物事を考えにくくなります。


忘れ物をしたり、重要な約束をすっぽかしてしまうのも、低血糖が関係しているかもしれません。


また、低血糖のときは、からだに力が入らなくなりますから、ひどいときには起きていられなくなって、横になりたくなることもあります。


採血の時に、気分が悪くなって横になったのは、低血糖の影響があったとも考えられます。


「夕方になると、チョコレートが止まらない」


そして、もうひとつ。
血糖が下がると、すぐに血糖を上げる甘いものが異常に食べたくなるんですね。


ここで甘いものを一気に食べると、血糖値が急上昇します。
それに応じてインスリンが分泌され、血糖値が急降下して、ふたたび低血糖におちいってしまうわけです。



「わぁ、すごく心当たりあります!
夕方になると、チョコレートとかクッキーが食べたくなって、止まらなくなっていました。
はずかしいです」


それは、低血糖のときに分泌されているホルモンの影響なのです。
意志の問題ではありませんから、恥ずかしく思うことはないんです。


甘いものを我慢するのではなく、低血糖にならないようにすることが大事なのです。


血糖コントロールできると、イライラがなくなり、頭もクリアーになって、さくさく仕事をこなすことができますよ。


低血糖対策


夕食の準備をしながら、毎日アルコールを飲んでしまうと言われていました。


「夕食の準備をする時間帯はとてもお腹がすいていませんか?
なにかで元気づけないと、料理なんてやってられないよ、という感じはないですか?」


「あぁ、たしかに、そうですね。
夕食を作っているときは、いつも、とてもお腹がすいています。

料理しながら、つまみ食いをして、お酒を飲んでいますね。
たしかに、アルコールを飲んで、やる気を出しているところ、あると思います」


お腹がすいて、力が出ない。
でも、夕食を作らないといけない。
そこで、お酒を飲んで、もうひと頑張りしようとしていたのですね。
私は、こういう状態を「お酒でドーピングしている」とお伝えしています。



ドーピングで口にするものって、人によってさまざまです。

女性のように、お酒でやる気を出す人もいます。

毎朝、コーヒーがないと動けない、という人は、カフェインでドーピングをしているのかもしれません。

そんなときは食事が足りているか、低血糖になっていないかを、見直してみてほしいのです。



女性には、午後3〜4時ごろに補食をとること、さらに、夕食を作る前にも少し食べることをおすすめしました。


低血糖から脱出できると、アルコールに依存しなくても料理することができます。

低血糖予防のために、避けたい3つの食べ物


低血糖を予防するために、注意していただきたいことがあります。


キッチンドリンカーをやめるには、低血糖対策が必要と言いました。

逆に、低血糖を防ぐために、アルコールはやめたほうがいいのです。



アルコールをとると、肝臓は、アルコールの解毒をしなくてはいけなくなります。
すると、血糖をコントロールする仕事はできなくなってしまい、血糖が下がってしまうのです。


とくに空腹のときの飲酒は血糖値が下がりやすいです。
血糖コントロールのためにもアルコールは控えましょう。



カフェインも注意が必要です。

「え~、コーヒーもですか?
一日、何杯も飲んでいました」

女性もよくコーヒーを飲んでいたようです。

コーヒーを飲むと頭が冴える、やる気が出る。
そう感じる方は多いと思います。


カフェインは交感神経を刺激します。
コーヒーを飲んでやる気をだしているんですね。

けれども、交感神経を刺激するということは、低血糖を招くということでもあります。
低血糖を起こしやすい人は、カフェインを控えたほうがいいです。



カフェインにはもうひとつ注意したい点があります。


カフェインには利尿作用があるため、せっかく食事から吸収したミネラルやビタミンを、尿とともに排泄してしまいます。


頭の働きや、感情の安定には、神経伝達物質が必要ですが、これらの産生には、ビタミンやミネラルが必須です。


ミネラルやビタミンが排泄されてしまい不足していると、神経伝達物質をうまく作れなくなって、気持ちが不安定になりやすいのです。


コーヒーのほか、紅茶、緑茶、ココア、チョコレートなどもカフェインを多く含んでいます。

お茶を飲むときは、ハーブティーや番茶などカフェインを含まない飲み物を選びましょう。



小麦粉製品であるパン、パスタ、うどんなども控えていただきたいです。


「あー、パン好きなんですよね。
体調悪いときなんか、唯一食べられるものが柔らかいパンだったりします」


そうですよね。
ただ、小麦粉製品は血糖値を急上昇させるんですよ。
さらに、腸内環境や脳にも影響することがわかっています。

グルテンを分解する酵素が不足している人が多く、未消化の食べ物が腸に到達します。
すると、腸管壁の細胞間隙を開け、リーキーガットの原因となり、アレルギーや炎症を引き起こします。


さらに、脳関門を通り抜け、脳内の受容体と結合し、神経精神症状を引き起こします。


小麦やカフェインなどは、体調が良くなったら、また再開することも可能です。
体調の良くない今だけでもやめてみることをおすすめします。


低血糖を防ぐ補食


低血糖を防ぐために、補食をすすめています。


おにぎりや、蒸かしたサツマイモ、スープやお味噌汁などを、夕方4時ごろ、さらに、夕食を作る前に食べるとよいでしょう。


大切なのは、お腹がすく前にとることです。


「とてもよくわかりました。
心当たりあることがたくさんあって、ぜひ、毎日の食事に取り入れてみたいと思います。


アルコール依存かと思って、すごく気にしたんですけど、低血糖のためかもしれないと聞いて、すごく気持ちが楽になりました。

誰にも相談できなくて、アルコール依存の病院を受診しないといけないのかなと悩んでいたんです。

食事で解決できそうなので、今日聞いたことを、やってみます」

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野口由美
専門家

野口由美(医師)

クリニック千里の森

患者一人ひとりの個性を重視した「患者ファースト」の治療方針のもと、薬に頼らない医療を提供。近代西洋医学の最前線で培った豊富な知識、自身の体験を裏付けに、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案します。

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