結婚1か月でパニック障害を発症し、実家に戻ってさらに悪化した女性に提案したこと

野口由美

野口由美

テーマ:症例紹介


結婚の翌月にパニック障害を発症した、33歳の会社員女性が受診されました。


パニック障害は薬で一時軽快したものの、5年たっても薬をやめることができません。

さらに昨年から、早朝覚醒と夜間頻尿が出るようになり、通院治療中にもかかわらず悪化しているのです。


「薬以外の方法はないだろうか」と相談に見えました。


パニック障害を発症した背景や、なかなか軽快しない原因について、カウンセリングや血液検査からひも解いていきます。

結婚して1か月後にパニック発作


女性は5年前から、パニック障害で心療内科に通院しています。


薬を使うと症状は治まるのですが、薬を手放すことができません。
昨年から早朝覚醒と夜間頻尿がひどくなり、相談に見えました。


「パニック障害の症状が起こったのは、5年前です。

結婚して新居に引っ越して、その1ヶ月後に会社で倒れたんです。

会社の人が救急車を呼んでくれて、救急隊の方に手当てしてもらったら、すぐによくなりました。
救急隊の方から過呼吸だって言われました。


その後、会社の人がとても心配してくれて、病院に行ったほうがいいと言ってくれたので、休みをもらって病院でいろいろ検査をしました。
でも、病院では、どこにも異常はないと言われたんです。


ところがその後も、また倒れるんじゃないかって、不安になってしまって。
過呼吸発作はその後も何度かありましたし、

さらに、夜眠れなくなったり、中途覚醒するようになったので、心療内科を受診したんです。
そこで、パニック障害だって言われました。
抗不安薬や睡眠薬などをいただいて、だいぶ楽になりました。


症状がおこったのは、引っ越しするなどして、環境が変わったからだと思っていました。
だから、一年もすれば環境に慣れるし、そうしたらすぐに治るだろうと思っていたんです。


でも、一年経っても、症状は変わらないし、薬もやめられません。
薬を減らそうとすると、また症状がでてしまうんです。
しかも、昨年からさらに症状が悪化しています。


こんなに何年も抗不安薬や睡眠薬を飲んでいるのはよくないと思ったのと、
薬以外の方法も試しながら、薬を減量できればと思いました」


昨年から悪化と言われたのは、感染拡大の時期に重なりますか?


「そうです。
コロナ感染が不安でたまりませんでした。


出勤するのも怖いし、会社で仕事するのも怖い。
かといって自宅なら安心かというと、そういうわけでもないんです。

そうこうしているうちに、地下鉄に乗るのが怖くて、会社に行けなくなりました。
家から一歩も外に出られなくなってしまったんです。


それで、会社に相談して、しばらく休職させてもらいました。
休職していた数ヶ月は、実家に戻っていました」


話を聞いていて、私はなんだか変な感じがしました。
ご主人の話がひとことも出てこなかったのです。


ひとこともないどころか、話の中に登場していません。
「主人がとても心配して」とか、「主人はこんなふうに言ってくれています」という話もありません。


新婚1か月で妻がパニック障害になったら、夫は心配しますよね。
「もしかして、僕のせいかな?」と思う人もいるかもしれません。


ところが、今のお話の中で一番心配してくれたのは、会社の人たちです。「病院に行ったほうがいい」と勧めてくれたのも、ご主人ではなく会社の人たちでした。


会社の人たちはいい人なんですが、ご主人はいったい何をしていたんでしょう? 
とても違和感を感じます。

ご主人っていったいどんな人?



「ずっと話を聞いていて、とても気になったのですが、
結婚してすぐに発症されていますよね。
でも、今のお話の中に、ご主人のことがまったく出てこなかったんですよ。


夫はこう言っているとか、こうしてくれたとか……何かありましたか? 
ご主人は、奥様が病気になられたことについて、何と言われていますか?」


彼女はうつむき、しばらく沈黙したあと、苦笑いしながら話し始めました。


「実は、主人が問題で……。

夫も私も趣味でバンド活動をしています。

私はコロナ感染拡大があってから、不安なので活動をやめるって言いました。
主人にも、感染の危険があるから活動をやめてほしいと言ったのですが、『音楽活動はおれの生きがいだからやめられない』と言って、ずっと続けています。


それからも、何度かやめてほしいと話し合いをしたのですが、話が平行線というか、とにかく何も変わりませんでした。


主人にとって音楽は大切なものだから、これを無理にやめさせて、主人がうつになったりしたらかわいそうですし、あまり強く言えませんしね」


いやいや、ご主人がうつになるかもって、
あなたは病気になって、すでに5年もたっていますけど……。


「そのうち、バンド仲間の一人が発症して、感染がわかったんです。
その方は大事にはいたらず回復されて、主人も感染していないことがわかって、安心したんですけど、夫はその後も変わらず音楽活動を続けています。


仲間が感染したので、さすがに活動をやめてくれるかなと思ったんですけどね……」

女性は苦笑いです。


なんだか、女性はご主人のお母さん役になっているように見えます。


バンド仲間が感染したと聞いて、不安になったのではありませんか?

「はい。そのときは、怖くて眠れなくなりました」

実家に戻って、症状悪化


パニック障害がひどくなって会社を休職されたとき、実家に戻ったと言われました。
実家でゆっくりされて、症状はよくなりましたか?


「それが、実家に戻って一月ほどしたら、毎日のように過呼吸発作が出るようになったんです」


えー?実家に戻って、かえって症状が悪化したんでしょうか。


「そうなんです。
とても困って、心療内科に毎週通いました。

よくならないので、行くたびに薬が変わるんです。
そのうち、食べられなくなって、体重が5キロ減りました。」


実家に戻ってすぐに症状が悪化したという点は、とても気になります。


ご両親はどのような方ですか?
ご両親についてどのように感じていますか?


「両親は過干渉な人です。
子供のころ、『勉強しろ、勉強しろ』と言われて、とてもいやでした。


携帯を取り上げられて、勝手にメールをチェックされたり、
その当時つきあっていた彼氏に勝手に電話されたこともあります」


それはひどいですね。
親であっても子供のプライバシーは守らなければいけません。


こどものメールや手紙、日記をみるなどは、プライバシー侵害であって、モラルハラスメントにあたります。
そんなことをされたときは、どうしていたのですか?


「そんなことしないでって言うんですけど、
文句を言っても、あれやこれや言われて、言い負かされてしまいます。

『親なんだからメールをチェックするのは当たり前だ』とかなんとか…。

それで、家にいるのが嫌で、家に帰らないようにいろいろ用事を入れていました。

クラブ活動で忙しくしたり、友達や彼氏と出歩いたりして、家にはあまりいないようにしていました」



そのようなご両親のもとでは、安心して生活することはできなかったのではないでしょうか。
24時間、365日、ずっと気を付けていないと、何をされるかわかったものではありません。


一般にこどもは、母親と一緒にいると安心していられます。
母親との間に信頼や安心感があるからこそ、成長して母親から離れ、家の外の世界へと羽ばたくことができるのです。


けれども、そもそも母親が安心できない存在だったら、この世の中に安心できる場所がありませんよね。
安心安全な場所がないのに、どうしてこの世の中を安全な場所と感じることができるでしょう。


女性は、子どものころからずっと、家の中に安心する場所を見つけることができませんでした。
ですから、自分のいる場所が安全だと、心から感じることができなかったのかもしれません。


そこにコロナ感染など、何か不安な要素やストレスが加わると、もう不安でたまらなくなってしまいます。


パニック障害には、ご両親との関係性も関係しているかもしれません。
実家に戻ってすぐに症状が悪化したことからも、体は正直に物語っているように感じます。



「パニック障害と両親とのことが関係しているなんて、まったく思ってもいませんでした。
でも、そういわれると確かにその通りです。

実は、父親も祖母も不安障害だったので、遺伝なのかと思っていました」


お父様も、お父様のお母様も、ともに、ご両親から過干渉を受けていたのかもしれないですね。


親からの過干渉は、代々受け継がれてしまうことがあります。
親から受けたことなので、親とはそういうものだと思って、子供にも同様のことをしてしまうためです。

催眠療法を用いてインナーチャイルドに語りかける


ちょっと目を閉じて、小さい時のあなたを想像してみてください。


小さい自分はどんな様子ですか。
小さい自分に、なんて声をかけてあげますか?


「小さいころ、よく、両親を選び間違えたって思っていました。
親を間違って選んでしまったねっていってあげたいです。

本当は、大丈夫だよって言ってあげたいんだけど、大丈夫じゃないし…、
なんて言ってあげたらいいのかなぁ」


自宅に戻ってからも、ほんの数分でいいので、小さい自分に話しかけてみてください。


毎日話しかけていると、小さい自分の様子が変わってきますよ。
するとね、今の大きな自分も変化するんです。
心のなかで語りかけてもいいし、日記などに書いてみてもいいと思います。


小さいころの自分に語り掛けることは、自分を癒すことにつながります。
だから、パニック障害で困っている今の自分を癒すことにもつながります。

夜間頻尿、早朝覚醒は夜間低血糖の症状


「今年に入ってからは、夜間頻尿が起こるようになって、泌尿器科に通うようになりました。
夜間頻尿は今でも続いています。


それに、ときどき、めまいがすることもあるんです。


最近は、早朝覚醒するようになって、目が覚めると、もう寝られなくなってしまって、朝起きても、すごく疲れています」


それは、低血糖の症状かもしれません。
持ってきていただいた血液検査結果をみると、中性脂肪が60と、とても低く、低血糖が疑われる所見です。


夜間頻尿も、早朝覚醒も、めまいも低血糖のときにみられる症状です。


寝ている間に低血糖になると、からだは大変だ!と危険信号をだします。
すると、アドレナリンがでて、交感神経優位となり、目が覚めてしまうのです。


目が覚めると、トイレに行きたいって思う。
すると、頻尿のために起きてしまった、と感じるかもしれません。


でもね、実は、「低血糖で目が覚める」というのがおおもとで、頻尿はその後についてくる副症状みたいなものかもしれないです。


低血糖だとめまいもおこります。
パニック発作やめまいなどの症状は、血糖値が最も低くなる夕方に、よくおこっていなかったでしょうか。


「たしかに、夕方に調子が悪くなります。

あー、そうなんだー・・・、
そうなんですね。
なんか、すごく納得できます。

夜間頻尿が夜間低血糖のためと聞いて、驚きました。
頻尿の治療をしなきゃって思いこんでいました」

低血糖対策の補食を上手にとる方法


「心療内科の先生からも、血糖コントロールが必要だからって、夕方に間食をとるように言われていて、チーズやドライフルーツをとっています。

気を付けていたつもりなんですが、うまくいっていなかったんでしょうか?」


症状がさらにいろいろでていることを思うと、補食の取り方には、もう一工夫必要だったかもしれません。


わたしたちは、間食ではなく「補食」と呼んでいるんです。
三食をしっかりとったうえで、食事を補うという意味の「補食」です。


朝食を8時にとっていたら、10時くらいに、補食。
昼食を12時にとったら、2時から4時くらいに補食を摂ります。


小さなおにぎりに鮭フレークやかつお節、卵そぼろ、鶏そぼろを加えるといいですね。
そのほか、蒸したサツマイモ、かぼちゃ、ゆで卵もおすすめです。


骨付き肉を煮出したボーンブロススープもおすすめですよ。
このスープで体調変化を感じておられる方が多いので、ぜひ作ってみて下さい。
会社に持っていて、少量ずつ頻回にとるのもおすすめです。


ボーンブロスには良質なアミノ酸がたくさん含まれています。
たんぱく質ではなく、アミノ酸の形でとることができるので、消化吸収が低下している方には特におすすめです。


温かいので、ほっとしてこころもからだもゆるむところもいいですね。
いつも交感神経優位になって緊張されている人には、温かいスープは気持ちもリラックスできるので、お勧めなんです。


寝る前には、少量のはちみつをとるのもいいです。
ハーブティーにいれて飲むといいですね。


昼間の血糖値が安定すると、夜間低血糖もなくなってきます。
それにつれて、早朝覚醒や夜間頻尿もなくなっていくでしょう。

まとめ



結婚して1か月後にパニック障害を発症した、30代女性のケースをご紹介しました。


薬で症状はいったん軽快したものの、早朝覚醒と夜間頻尿が現れ、5年たっても薬をやめられないことに悩んでおられました。


パニック障害を発症した背景には、結婚や転居による環境の変化、コロナ感染への強い不安がありました。
さらにお話を伺ううちに、ご主人との関係や、過干渉なご両親との関係も影響していたことが見えてきました。


血液検査の結果からは、低血糖が認められました。
低血糖は、パニック障害の症状や早朝覚醒、夜間頻尿の原因にもなりえます。


そこで、低血糖対策として補食をとることをお伝えしました。
さらに、補食として何をどのタイミングで摂ったらよいのかなどについても説明しています。

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野口由美
専門家

野口由美(医師)

クリニック千里の森

患者一人ひとりの個性を重視した「患者ファースト」の治療方針のもと、薬に頼らない医療を提供。近代西洋医学の最前線で培った豊富な知識、自身の体験を裏付けに、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案します。

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