舌がん術後の味覚障害――2週間で改善した理由

野口由美

野口由美

テーマ:症例紹介


「味もにおいも、まったく分かりません」

舌がんの手術を受けた26歳の女性から、ご相談がありました。

手術後、味覚と嗅覚が失われ、主治医から亜鉛を処方されました。

耳鼻科でも点鼻薬や漢方薬、嗅覚トレーニングなどを受けましたが、変化はみられません。

飲酒と食事量の低下により、低栄養が進む

舌がんが分かってから、不安やつらさを紛らわせるように、飲酒量が増えていました。

アルコールの代謝には、ビタミンB群、亜鉛、マグネシウムなどが大量に使われます。

また、食事量や栄養の吸収を低下させ、低血糖も起こしやすくします。

さらに手術後には食欲が落ち、味もにおいも分からなくなったため、ますます食べられなくなっていました。

手術後の体は、傷ついた組織を修復するために、普段以上のエネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラルを必要とします。

最も栄養が必要な時期に食事量が減ったことで、体調は悪化していきました。

双極性障害を疑われるほど、精神状態も不安定に

気分の落ち込みに加え、興奮、暴言、攻撃的な言動、衝動買いなどもみられ、精神科では双極性障害を疑われました。

夜は眠れず、悪夢を見て、うなされ、夜中になんども目が覚めます。

食欲にも大きな波があり、過食したり、絶食したりを繰り返していました。

このような症状は、低血糖や著しい低栄養によっても起こります。

血糖値が下がると、体は血糖を上げようとしてアドレナリンなどを分泌します。

その結果、交感神経が優位になり、不安、焦り、イライラ、興奮、不眠などが現れるのです。

脳へのエネルギー供給が不足するため、判断力が低下し、感情や行動をコントロールできなくなることも重なってしまったでしょう。

実質的には1日1食


食事を伺うと、朝食は食べず、昼食も食べたり食べなかったり。

夕食に、購入したハンバーグ、ポテトサラダ、ごはんを食べる程度で、実質的には1日1食に近い状態でした。

血液検査では、著しいタンパク質不足に加え、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB6などの不足と、低血糖がみられました。

問題は、亜鉛だけではなく、低栄養の状態に陥っていたのです。

この女性にまず必要なのは、サプリメントを増やすことではなく、食べられる方法でエネルギーと栄養を入れることでした。

そこで、
「一口サイズのおにぎりと、みそ汁を少量ずつ、1日5、6回に分けて食べてみましょう」
と提案しました。

ご本人も、「それならできそうです」と、笑顔で答えてくださいました。

2週間後、味とにおいが分かるように

約2週間後、
「味もにおいも分かるようになりました」

約1か月後には、味覚や嗅覚だけでなく、強い倦怠感、食欲の波、気分や行動の不安定さも落ち着いていました。

味覚障害には亜鉛が重要です。

しかし、亜鉛だけで組織は修復されるわけではありません。

新しい細胞を作るにはタンパク質が必要ですし、その修復を進めるためには、エネルギーやビタミン、ミネラルも欠かせません。

一度に食べられる量はわずかでも、エネルギーやタンパク質、ビタミン、ミネラルが少しずつ入ることで、体は修復を始めます。

※本記事は個人が特定されないよう、一部の情報を変更して掲載しています。症状の原因、治療の経過および結果には個人差があります。

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野口由美
専門家

野口由美(医師)

クリニック千里の森

患者一人ひとりの個性を重視した「患者ファースト」の治療方針のもと、薬に頼らない医療を提供。近代西洋医学の最前線で培った豊富な知識、自身の体験を裏付けに、幅広い選択肢の中から最適な治療法を提案します。

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