第1回「やっていません」から始まった厳しい朝

「店長がいなければ、誰も何も決められない」。 もしあなたの店がそんな状態なら、組織としての成長は止まっています。 リーダーの本当のゴールは、自分が現場にいなくても、スタッフが自分と同じように考え、正しく判断できるようになること。 第17回は、個人のスキルを組織の「知恵」に変える、判断基準の共有についてお話しします。
前回、具体的なフィードバックの手法を学び、スタッフの行動改善に成功した店長。 しかし、彼にはまだ「自分が常に現場を見て、指示を出し続けなければならない」というプレッシャーが残っていました。「指示をすれば動いてくれます。でも、指示を待っている時間が長くて、結局私がいないと店が回らないんです」この悩みに対し、私は「判断基準(ものさし)」の共有という概念を提示しました。 これまで店長が行ってきたのは「やり方(How)」の教育でした。しかし、自走する組織に必要なのは「考え方(Why/Priority)」の教育です。
【「優先順位」を言語化する】店舗運営では、常に複数のタスクが同時に発生します。 「品出し」「レジ対応」「清掃」「顧客への声掛け」。 スタッフが迷うのは、これらが重なった時に「どちらを優先すべきか」という基準を持っていないからです。私は店長に、自分の頭の中にある優先順位を書き出させました。 彼はこう答えました。 「まずは顧客対応、次に欠品補充、その次が清掃です」当たり前のことのように思えますが、これをスタッフに明確に伝えているでしょうか? 店長は、忙しい時にスタッフが清掃をしているのを見て「今はそれじゃないだろう!」とイライラしていました。しかし、スタッフからすれば「言われた清掃を一生懸命やっているだけ」なのです。
【現場で使える「判断の型」】店長は、スタッフを集めて「我が店の優先順位」を改めて定義しました。
安全・安心: 通路の障害物除去など、お客様の怪我に繋がることを最優先。
接客・販売: レジの行列、お客様からの問い合わせ。
商品鮮度: ロスに直結する品出しや値引き。
環境整備: 清掃、整理整頓。
これを共有した上で、店長は素晴らしい工夫をしました。 スタッフが自分で判断して動いた際、それが正解なら「今の判断、優先順位通りで良かったよ!」と即座に承認し、もし違っていたら「あの場面では、2番より1番が優先だったね」と、基準に照らし合わせて修正したのです。
【自律したチームの誕生】この「判断基準の共有」によって、店舗の空気は一変しました。 スタッフは店長の顔色を伺うのではなく、共有された「基準」を伺うようになりました。 店長が事務所で事務作業をしていても、売場ではスタッフ同士が「今はレジ優先で!」「こっちは私がやっておくから品出しお願い!」と声を掛け合い、自律的に動くようになったのです。店長は言いました。 「自分が指示を出さなくても店が回っている。寂しい気もしますが、これが本来のリーダーの喜びなんですね」
【コーチの視点】リーダーが知識を独占するのは、弱さの証です。 知識や判断基準をスタッフに「手放す」ことで、リーダーはもっと大きな、未来の戦略を練る時間を手に入れることができます。 あなたは今日、スタッフにどんな「判断のものさし」を渡しましたか?
次回は、「第18回 「やらされている仕事」から「自分で決める仕事」へ」です。


