中小企業の景気動向
新型コロナウイルス騒ぎで、世の中はますます混迷の度合いを深めているようですが、そんななかでも、技術革新は確実に進んでいきます。新型コロナウイルスに対するワクチンの開発も、世界の英知を結集すれば、必ず成し遂げられるものと信じています。
数ある技術革新の一つ、5G(第5世代移動通信システム)のサービスが、今年から日本国内でも始まりました。様々なところで、度々5Gは取り上げられていますが、今回は、製造業における5Gのインパクトについて述べたいと思います。
現在、製造業におけるホットな話題は、IoT技術を駆使した、スマート製造システムです。これは、単に工場のIT化という狭い範囲を考えるのではなく、製品の需要予測システムや高い柔軟性をもった設計生産システム、そしてERP等の経営システムとのリンクにより、経営課題の発見、問題解決を迅速に行える、ビジネス主体としての製造システムを目指していこうという動きです。
その先鞭をつけたのが、ドイツの官民プロジェクトのインダストリー4.0であることは、メディアで何度か紹介されていますので、ご記憶の方も多いのではないかと思います。
インダストリー4.0は、ドイツが第4次産業革命のビジョンとして打ち上げた構想で、製造業のオートメーション化、データ化そしてコンピュータ化を目指す技術コンセプトです。非常に壮大なコンセプトではありますが、コンセプトの発表以来、具体的な技術開発は、ドイツを中心とした欧州の企業や研究所で継続的に実施されてきました。
その中で、5Gは、将来性に富んだ有望な技術革新ととらえられています。ただ、スマートフォンのような個々人ユーザへの5G導入に対しては、普及している動画配信や音楽配信等へのユーザの要求する機能が、前世代(4G)でも十分ではないかとの批判もあり、4Gの使用方法を凌駕する5Gのキラーコンテンツの開発が必要だと言われており、5G導入のメリットの開拓が今後の課題です。
一方工場現場では、工場で稼働している工作機械や産業機器の故障予測やその検知のためのデータ収集や分析を、工場外部(他工場や、研究所、分析サービス会社等)でもリモートで可能になることや、製造や配送工程におけるトレーサビリティ(原材料や部品の仕入れ先や販売先を追跡可能な状態になること)が可能になること、などの喫緊のニーズに応えられる面が強く、有望な技術と期待されています。というのは、各機械の制御装置、センサ、そして情報処理機器においてどこにでもマイクロプロセッサが搭載され、どんどん情報装置化されていますので、5Gによりネットワーク化されれば、今までにはできなかった、低遅延、高速、高信性のネットワークが可能になり、工場内配線の制約もなく、非常に柔軟なスマート製造システムが実現できるからです。
インダスリー4.0を推進している中核企業に、ドイツのボッシュという会社がありますが、ボッシュは、5G技術の導入にとても熱心で、昨年の11月に、「2020年内をめどに、5Gネットワークをドイツ国内のボッシュの工場と研究所に導入する」と発表しました。そのために、既にドイツ国内で、企業内で使用する5Gライセンスの取得申請を実施しました。ボッシュでは、まず、自社工場内でのみ使用を許可されるローカル5Gのシステムを構築し、スマート製造システムを開発しようとしています。ボッシュの考える未来の工場像は、工場建屋として床、壁、天井があるのみで、その他設備類はすべて移動可能であり、自由に再構成できるシステムを考えているようです。例えば、移動ロボットや自動搬送車などにより、従業員に最適なサポートを提供できるシステムです。このような移動型の柔軟なシステムには、効率的な通信を可能にする強力なワイレスインフラが必要であり、膨大な量のデータを非常に迅速に処理できる5Gがそれに最適な技術とされています。また、日本でも、類似の取り組みが、近々始まっていくでしょう。そうすれば、工場の形が、劇的に変化するかもしれません。
このような技術開発の現状は、毎年ドイツで開催される、世界最大の産業見本市であるハノーバーメッセにおいて、インダストリー4.0の関連として展示されたりするのですが、今年の開催は、新型コロナウイルスの世界流行のため、残念ながら中止となってしまいました。従って、最新状況を見る事ができるのは先になりますが、一説によると、歴史上、感染症のようなパンデミックが世界を襲い、終息した暁には、世界が変化し、新しい思想や社会が出現することがあるといいます。今は、パンデミックの嵐が行き過ぎるのをじっと待つばかりですが、終息した暁には、5Gの技術革新のおかげで、工場を含め、個人生活のレベルにおいてもIoTを核とした新しい世界が出現する始まりとなるかもしれません。そのような夢を抱きつつ、新型コロナウイルス騒ぎが早く収まることを祈っています。